NOT FOUND -見つかりませんでした-

また性懲りもなく瓶蓋ジャムを買い求める

大塚国際美術館には覚悟を決めて向かうべきである。

ようやっと夏の熱気が鳴りを潜め、冬の訪れを準備しているかのような涼しい風を感じ始めた11月上旬、ふと思い立って、徳島県鳴門市にある大塚国際美術館を訪れることにした。

大塚国際美術館とは、大塚製薬グループが創業75周年事業として、1998年に開館した美術館である。世界各国の美術館で所蔵されている西洋名画1,000余点を、陶器の板に絵を焼き付ける特殊技術“陶板”によって原寸大に再現・展示した、複製品の美術館として知られている。2018年末に放送された『第69回NHK紅白歌合戦』において、徳島県出身のシンガーソングライター・米津玄師が『Lemon』を歌っていた美術館、と聞くとイメージ出来る人も多いのではないだろうか。

午前9時半ごろ、愛車に乗り込んで自宅を出発。

最寄りのインターチェンジから高松自動車道に入り、徳島方面へと車を走らせる。高松自動車道愛媛県四国中央市から徳島県鳴門市までを繋いでいる高速道である。鳴門インターチェンジを過ぎてからは神戸淡路鳴門自動車道へと切り替わる。もっとも、切り替わったからといって、利用者が気付かされるような変化は起こらない。そのまま変わらず高速道を突き進むだけである。

鳴門北インターチェンジで高速道を下りて、国道11号線へ。下りるときに高速料金をチェックする。およそ1,700円。軽自動車利用の上に休日割が付いていることを思うと、なかなかバカに出来ない金額だ。国道11号線に入ったら、美術館がある北方向へと向かう。右には海、左にはホテルやお土産屋が見える。なかなかに爽快な光景である。思わずバカンスへとやってきたかのような錯覚を覚えるが、残念ながら日帰りだ。もう少し年齢を重ねれば、こういった景色の中で休暇を過ごしたいと考えられるような人間になれるのだろうか?

しばらく走り続けていると、美術館専用の駐車場が目に留まる。カーナビで案内されていた場所よりも、かなり手前の位置だ。一旦、そこに車を駐車させて、スマホで情報を確認してみたところ、大塚国際美術館の専用駐車場は周辺に三か所ほど設けられているようだ。カーナビが指し示していたのは第一駐車場で、私が入り込んだのは第二駐車場とのこと。第一駐車場の方が美術館に近いようだったので、再び車を発進させて、そちらの方へと移動する。

一度、美術館のメインゲート前を通過し、突き当たりの丁字路を左折したところに第一駐車場はあった。入り口がゲート式になっていたが、無料で利用できるとのこと。有り難い。車を降りると、駐車場内にバスターミナルがあり、そこに美術館行きのシャトルバスが停車していたので、すぐさま飛び乗る。当然、このシャトルバスも無料である。……大塚製薬グループのパワフルな予算を意識せずにはいられない。車内で三分ほど待機したところでバスが発車。美術館のメインゲート前へと移動する。

午前11時ごろ、美術館に到着。

メインゲートの脇にチケット売り場が見える。当日券を販売しているのだろう。私は前日、コンビニで前売り券を購入していたので、ここに用はない。ちなみに、前売り券は当日券よりも300円ほど安い。それでも一般3,160円である。美術館のチケットにしてはなかなかに高い。そりゃあシャトルバスも走るというものだ。自動ドアを抜けて、女性のスタッフにチケットをもぎってもらうと、目前には長い上りのエスカレーターが。速やかに乗り込む。上がり切ったところにも入り口があり、ここを通ると、いよいよ美術館の中である。

エスカレーターを上がり切ったところにリーフレットが置かれていたので、なんとなしに手に取ってフロアマップを確認。大塚国際美術館は五階建て。現在地点が地下三階にあたり、そこから地上二階まで上へ上へと上がっていく順路となっている。うーん……予想していたよりもずっと大きい施設のようだ。すべてを見終えるまでにかかる時間に不安を過ぎらせながら、鑑賞を始めることにした。

地下三階の入り口から中に入ると、まず正面に見えるのがシスティーナ・ホールである。ミケランジェロを初めとするルネサンスを代表する芸術家たちが内装を手掛けたヴァチカンのシスティーナ礼拝堂が、そのまま再現されている。もっとも、私は芸術に疎いので、その再現度がどの程度のものなのかは、まったく分からない。正直なところ、「(絵のサイズが)デカい!」「(ホール内が)広い!」「(情報量が)多い!」としか思うことが出来なかった。仮に、これが複製ではなく本物であったとしたならば、もっと強い感動を覚えていたのだろうか?

以後、ひたすら順路を突き進む。地下三階は壁画や建築物の内部を再現した作品が多く、「作品を鑑賞している」というよりも「現地で探検している」とでもいうような趣が強い。気分はミステリーハンター。子どもが嬉々として走り回りそうだ。とりわけ『鳥占い師の墓』は狭くてどんよりと薄暗く、エジプトのピラミッドの中部にでも潜入したかのような緊張感を覚えた。もっとも実際の『鳥占い師の墓』はイタリアにあるらしい。

そんなこんなで地下三階の作品を見終えたところで時刻を確認。正午である。美術館に入った時刻が午前11時ごろだったので、およそ一時間が経過していることになる。地下三階だけで一時間。……この調子だと、すべての階を見終えるころには、夕方になってしまう。それは流石にマズい。まだ昼食も食べていないのに。勿体無いけれど、少しペースを上げることを心に決めて、エスカレーターで地下二階へと移動する。

地下二階のテーマはルネサンスバロック。『ヴィーナスの誕生』『モナ・リザ』『真珠の耳飾りの少女』などなど、日本でも広く親しまれている作品が多い印象を受けた。その中でも、最も多くの人の目を引いていたのは、『最後の晩餐』である。ひとつの部屋に修復前ヴァージョンと修復後ヴァージョンが向かい合わせに展示されていて、なにやら間違い探しのようだった。アトラクション性に満ちているなあ。

もっとも、こっちは間違い探しを楽しんでいる余裕などない。なにせ広い。とにかく広い。ひとつひとつの作品をしっかり吟味していたら、朝になってしまう。というか広いだけじゃない。広いし、迷う。一応、床に表記されている順路に沿っているつもりなのだが、それでも道筋が掴めずに、いつの間にか見逃している作品に後から気付かされることが多々起こった。根本的に建物内が一本道ではない。右へ左へ縦横無尽に通路が開けているため、どのように見るのも客の自由であるというようなつくりになっている。だから迷う。だから困る。楽しいけれど体力が削られる。厳しい。

それでも飽きさせない。まるで飽きない。その理由は、各階ごとにイベント性の高い展示が施されているからだろう。例えば、地下二階でいうと、屋外に展示されていたモネの『大睡蓮』がそれだ。窮屈な室内から屋外へと通された瞬間のたまらない解放感。このメリハリを意識した順路には感心させられた。複製品の美術館だからこそなせる業だろう。この屋外展示を抜けたところで地下二階は終了。エスカレーターで地下一階へと向かう。

地下一階のテーマはバロック・近代。

地下一階に上がって、まず案内されるのは『ゴヤの家「黒い絵」』。フランシスコ・デ・ゴヤが晩年に自身の部屋の壁に描いたという絵画が、まるまる部屋ごと再現されている。暗く淀んだ部屋の中に飾られている、暗い絵の数々。解放的な『大睡蓮』を見た後ということもあって、よりいっそう気分が沈んでいく。ただ、食堂に『我が子を食らうサトゥルヌス』が展示されていたのには笑った。確かに……食ってるけど……。

この辺りになると、もう疲労感に気持ちが追いやられ始めてきたのか、エロスを感じさせられる作品ばかりを撮影するようになってしまった。疲労がたまると生存本能からエロスを求めるという話を聞いたことがあるが、まさにその通りの状態に陥ったわけだ。無論、ゴッホの『ひまわり』、クリムトの『接吻』、ムンクの『叫び』など、数々の名画に目を奪われる瞬間もあったの。とりわけクリムトの『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』はちょっとスゴかった。絵画とは思えない煌びやかさに心まで奪われそうになった。

最後はエレベーターに乗り込んで、まずは地上二階へ。地上二階と地上一階のテーマは現代である。階段を駆使して、シャガールピカソといった現代アートを堪能する構成だ。ただ、ここに展示されている作品というのが、どうもシュールというかナンセンスというか、なにがなんだか分からないものが多く、延々と「なんだこれは?」という言葉が頭の中でぐるぐると回転し続けてしまった。やはりどうも私は芸術的素養に欠けている(或いはもう疲れ切ってしまって、頭が回らなくなっていたのかもしれない)。

その中でも、「これはスゴい!面白い!」と感動したのが、ジャコモ・バッラという画家の『鎖に繋がれた犬のダイナミズム』という作品。飼い犬と飼い主の足がダバダバダーと躍動している様子を描いている。その様がなんともコミカルで、そういう意図ではないのだろうが、ギャグのような破壊力を感じた。こういう未知なる作品と出会うきっかけとして、この場所を訪れるというのもアリなのかもしれない。

そんなこんなですべての作品を鑑賞。心身ともに疲れ切っていたが、休んでいる場合ではない。こちとら空腹なのである。地下三階へと舞い戻り、ミュージアムショップでお土産物を購入し、美術館を脱出。帰りのシャトルバスに乗り込み、駐車場で愛車の元に辿り着いたころ、時刻は午後3時。メシだ。メシにしなくてはならん。

駐車場を出発し、国道11号線を今度は南下。再びリゾート地を思わせる景色の中を走り抜けていく。大塚国際美術館がある大毛島から橋を渡って四国本島に舞い戻ると、今度はオーソドックスな田舎道を辿ることになる。なんだか親しみやすい雰囲気に包み込まれながら、変わらず南下を続けると、鳴門市を代表する道の駅・くるくるなるとが見えてくる。今回の旅行における第二の目的地だ。

くるくるなるとは2022年にオープンした、徳島県では18番目となる道の駅である。駅名の「くるくる」は鳴門海峡の渦潮と千客万来(来る来る)の意味が込められているという。【食のテーマパーク】をコンセプトとして掲げており、鳴門金時に代表される物産品、地元で収穫された野菜類、お弁当やお寿司やお惣菜やお酒、オシャレなプリンやパンなど多様な食品が取り扱われている。

ここでの目的は、そんなくるくるなるとの施設内にある食堂・大渦食堂である。肉料理、麺類、カレーライスなどなど、多種多様な料理が提供されている中でも、主力となっているのが魚介類をふんだんに取り入れた海鮮丼。鯛、鰤、マグロなどを中心としたメニューが並んでいる中で、私が選んだのは五種類の海の幸が堪能できる「大渦五色丼」。文字通り、五種類の海鮮が満員電車の様に詰め込まれた、下品で魅惑的などんぶりである。空腹だったため、今回は追加料金を支払い、大盛りでいただくことに。

米の上に載せられているのは、海老、マグロ、鯛、サーモン、鰤。ひとまず卓上の醤油を全体にかけて、新鮮そうな海老から食べてみる。美味い。塩味の強い醤油の後を追いかけてくるように、純然たる海老の甘味が舌の上に広がっていく。続いて鯛をいただく。口に入れた瞬間は淡泊な味に物足りなさを感じるが、歯ごたえのある身を噛み締めるにつれて、じわりじわりと旨味が浮き上がり始める。これも美味い。マグロを食べる。美味い。鰤を食べる。美味い。サーモンを食べる。そりゃ美味い。

ひとしきり醤油の風味を楽しんだら、今度は追加でゴマだれをかけてみる。ちょっと想像がつかなかったので、サーモンの上に少し垂らして、味を確認。……うーん、これはあまりにも、どこまでいってもゴマだれだ。以前、伊集院光がラジオで「マヨネーズは何につけてもマヨネーズ味で覆い被さるから苦手」という話をしていた記憶があるが、それに似たものを感じる。ちょっと苦手かもしれない。結局、それ以上はゴマだれを使わずに、残りもすべて醤油だけで食べてしまった。シメに魚出汁を使った茶漬けが推奨されていたが、それはまた今度ということにする。

食後はお土産屋のコーナーを散策。あまりにも多くの人が押し寄せていたので、品物を見るだけで一苦労だ。以前に購入してたまらなく美味しかったいくら醤油、店頭で強めにアピールされていて気になった炙り鯖ジャーキー、鰹節削り器で薄くされたチーズのおつまみなどを購入する。……このようにして、やたら疲れたが、そこそこ充実した気持ちを抱えながら、私は帰路についたのであった。お疲れさまでした。

余談。帰宅後、炙り鯖ジャーキーをおつまみに酒を飲んだのだが、これがやたらめったら美味しくてビックリした。臭みのない鯖の旨味だけが凝縮されたような味で、奇跡のような味がした。皆も買ってみよう。