・「秋刀魚の味」(1962年公開)
小津安二郎監督の遺作。YouTubeのNetflix公式アカウントにおいて、本作のワンシーンをカットした動画を目にして、興味本位で鑑賞。大手企業の重役として働いている主人公が、クラス会に呼んだ恩師が身の回りの世話をしてくれる独身の娘と今でも二人で暮らしていることを知り、同様に自分のことを世話している娘のことが気がかりになり、縁談の話を持ち掛ける。これといって大きな出来事が巻き起こることがないまま、ただただ淡々と過ぎていく日常が描かれているだけなのに、洗練された映像に目を奪われて、最後まで一気に見させられた。「かつて映画は絵画の延長線上の表現だった」というような言葉を目にしたことがあるが、まさにそういう作品だった。舞台は古いのに映像が古くないんだよ。凄いよ。
・「天国と地獄」(1963年公開)
エド・マクベインの小説『キングの身代金』を原作とした黒澤明監督作品。製靴会社の常務である主人公の元に「お前の息子を誘拐した。身代金として3000万円を要求する」という電話がかかってくる。ところが、実際に誘拐されたのは、主人公の家で遊んでいた住み込み運転手の息子だった。それでも犯人は身代金の要求を取り下げない。しかし、近日中に行われる株主総会において、経営の実権を握るために画策していた主人公の手元には、自由に動かせるお金がなかった。子どもの命か財産か……揺れる主人公は最終的に身代金を支払うことを決断する。身代金の緻密な受け渡し方法が注目されることの多い作品だが、むしろ登場人物たちの濃厚な人間臭さに面喰った。とにかく画面に出てくる人間の顔が強い。暑苦しいと言ってしまってもいいのかもしれない。スマートな映像作りに徹していた『秋刀魚の味』と同時期に公開された作品とは思えない。ただ、その暑苦しさは、犯人に対する怒りと比例している。理不尽に対する怒りが、そのまま表情と体温に表れている。だから惹きつけられる。こちらの映像はむしろ古臭いけれど、「古臭いからなんだ!」と首根っこを掴まれるような気迫を覚えた。面白いものは古かろうとなんだろうと面白いのである。
・「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(2022年公開)
第95回アカデミー賞作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞・助演女優賞・脚本賞・編集賞受賞作品。コインランドリーを経営する主人公は、突然“別宇宙の夫”から全宇宙の命運を託される。面白い映画だった。昨今の社会問題について大いに切り込んでいるのだが、それと同じぐらいに遊び要素も散りばめられていて、色々と考えさせられる内容であるにもかかわらず、重苦しさを感じさせないエンターテインメント映画である。ただ、その完成度の高さが故に、作品のメッセージをきちんと理解できていない人たちのことを、「なんでこれが分からないの?」と糾弾するような類いのファンが付いていそうな印象も受けた。面白いけれど、不用意には語りづらい。そんな感じ。
・「オリエント急行殺人事件」(2017年公開)
アガサ・クリスティーの名作ミステリーを映画化。ベルギー人の私立探偵である主人公が、ロンドンへ帰るためにオリエント急行へと乗り込む。そこでとある乗客から「命を狙われているので護衛に雇いたい」と頼まれるのだが、氏の人間性が気に入らない主人公は依頼を断ってしまう。その日の夜、氏は何者かの手によって殺害される。果たして犯人は誰なのか。『オリエント急行殺人事件』は1974年の映画版もデヴィット・スーシェによるドラマ版も鑑賞したことがあるのだが、それらの先行作品よりも、状況やトリックがはっきりと整理されていて、理解しやすい作りになっていたように感じた。理性的ではない脳味噌には有り難い(その分かりやすさが故に映画作品としての評価が低いのかもしれない)。また、『オリエント急行殺人事件』といえばトリックの部分が語り草になりがちだが、本作で描かれているのは、むしろ「殺人事件はこの世から人がいなくなるだけではない」ことが強調されていて、そこに作者の本来のメッセージが込められているように感じた。考えてみれば『鏡は横にひび割れて』の作者だもんな。ミステリーだからといって、トリックの出来不出来ばっかり見ていてはいけないのだ。
・「きさらぎ駅」(2022年公開)
匿名掲示板に掲載された都市伝説「きさらぎ駅」を映画化。かつて「きさらぎ駅」に行ったことがあるという女性の元を訪れた主人公は、どのような体験をしたのかについて取材を始める。その話の内容から、彼女がどのようにして「きさらぎ駅」に辿り着いてしまったのか気が付いてしまった主人公は、それを自身で再現。すると、本当に「きさらぎ駅」に辿り着いてしまう。一度、完全攻略してしまったテレビゲームを、ハイスコアを目指してイチからプレイし直しているような映画だった。ホラー映画を観ているというよりはRTA動画を見ているような感覚に近い。B級ホラー映画にありがちな登場人物たちの危うい挙動も、テレビゲームのCPUを思わせる。おそらくは意図的にそのようにしているのだろう。正直、映画を観た後の満足感は薄いが、今年公開される予定の続編を観たい気持ちにはさせられた。……続編では、更に高速でクリアする方法を見せてくれるのだろうか。ちょっと底意地の悪いオチがけっこう好み。
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