白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

忘れつちまつた悲しみに

ラジオの音楽番組を聴いていると、自分が思春期を過ごした2000年代の曲が流れてくることがある。反射的に懐かしい気持ちで胸がいっぱいになるのだが、それと同時に、その曲の存在を忘れてしまっていた自分にも驚かされる。毎週のようにオリコンチャートをチェックしていた当時、時代のBGMのように流れ続けていた様々な楽曲たちのことを、そもそも存在していなかったかのように忘れている。当時は、これらの楽曲のことなど、決して忘れることはないだろうと思っていたはずなのに、今や記憶の受け皿から完全に零れ落ちている。無論、当時から、それほど興味がなかったから、そういうことになっているのだろう。とはいえ、かつてはシングルやアルバムで買い求めるほどではなかったにせよ、実際に曲を耳にすると「懐かしい」と感じられるほどには思い出の中にあったはずの曲を忘れてしまっている、そんな自分自身の経年変化に驚いてしまう。ああ、忘れてしまうのだ。すべてを覚えておくことは出来ないのだ。分かり切っていたはずのことなのに、やっぱりちょっと寂しい。