白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

Conva『天才』の話。

コントのオーソドックスな手法に「有り得ないもの同士を掛け合わせる」というものがある。居酒屋やラーメン屋などといった日常的なシチュエーションに、本来ならば有り得ない要素を掛け合わせることによって、現実には起こり得ない歪みを生み出し、笑いへと転換する。重要なのは、有り得ない要素の概要が明確であること。そうすれば、どんなに現実離れした内容であったとしても、観客はその状況を笑えるフィクションとしてスムーズに受け入れることが出来るからだ。

田野、警備員、吉原怜那の三人によるユニット“Conva”のコント『天才』も、同様の手法を採用したコントだ。警察の捜査に協力してもらっている天才的な凶悪犯罪者(警備員)の担当を引き継ぐように指示を受けた後輩刑事(吉原怜那)が、如何にして凶悪犯罪者に捜査を協力してもらえるように対応するか、その方法について先輩刑事(田野)から指導を受ける。その方法とは、凶悪犯罪者のボケに対して、全身全霊を込めてツッコんであげること。そうすれば、ボケではなく、きちんと正しい情報を教えてくれるのだ。サスペンス映画を思わせる緊張感溢れるシチュエーションに、コテコテのボケとツッコミを絡めることで巻き起こる笑い。きちんと掛け合わされている。しかし、このコントは、ここから更に進展を迎える。

そのままツッコミの役目を引き継ぐことになってしまった後輩刑事だが、突然の状況に心が整理しきれていないためか、凶悪犯罪者のボケに上手く対応することが出来ない。結果、ボケを放置されてしまう凶悪犯罪者は、今度は後輩刑事に対してツッコミを入れる立場へと逆転する。先輩刑事と凶悪犯罪者の掛け合いで披露されたフォーマットを元に、新たな展開を迎えるわけだ。だが、このコントの芯の部分は、更に先のシーンにある。ネタバレになってしまうので、具体的な内容については書けないが、なかなかに急転直下の展開である。

この終盤の展開を踏まえた上で、全体の流れを見てみると、このコントが「面白いノリを強要する人間によるハラスメントのメタファー」になっていることが分かる。単なる偶然かもしれない。だが、中盤からのコミカルな展開を打ち消してまで、凶悪犯罪者の笑いのセンスに言及する展開を盛り込んでいるあたり、少なからず意識的に仕掛けたのではないかと邪推している。まあ、彼らが意識していようといまいと、そのように構造を読み取れるコントが今の時代に生まれたという事実にこそ意味がある。オーソドックスな手法の中に、込められたかもしれないメッセージ。ご存知なければ、是非ともご賞味いただきたい。

ベストシーンは「止めなーっ!!!」。