白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

空気階段『警察』の話。

人生は出会いと別れで出来ている。

古いアルバムを開いてみると、当時は仲良くしていた筈のクラスメート、お世話になった教師、近所に住んでいる人たちの姿を確認することが出来るが、その大半の人たちが今、何をしているのかを知ることはない。時折、彼らに思いを馳せることはあっても、現状を調べようとは思わない。そんなことを繰り返しながら、人生はこれからも続いていくのである。

空気階段の『警察』は、そんな人生の出会いと別れについて考えさせられるコントだ。とある男を探している警察からやってきた男(鈴木もぐら)が、青年(水川かたまり)の家へと聞き込みにやってくるのだが、その姿がどこからどう見ても警察関係者のようには見えない。サングラスを掛け、ランニングシャツに黒のチノパンを着こなし、頭には「TOKYO」と書かれた青いモフモフキャップを被っている。しかし、そんな男の装いに対して、青年が異を唱えることはない。むしろ、男の言動に興味津々で、積極的に話を聞き入れようとする。

明らかな異物である男にツッコミを入れなくてもコントが成立してしまうのは、思うに、男の言動から生活感が滲み出ているためだろう。男は単なる異常者ではない。駅前のスーパーへ惣菜が半額になる時間を狙って出掛けているし、YouTubeで動画を配信しているし、スマホでの通話を即座にビデオへと切り替えることも出来る。その言動から滲み出る生活感は、舞台上では描き切れない男の人生を物語っている。いわば、このコントは二つの異なる人生を歩んできた男たちが、奇妙なきっかけで交わってしまった、人間交差点を描いたものなのである。

恐らく、このやり取りの後で、二人の人生が交わることはないだろう。最後の男の提案に対して、青年が乗らなかったからだ。だが、この出会いは、二人の記憶に残るものだろう。それぞれがそれぞれを忘れ得ぬ人として、二人の人生はこれからも続くのだ。

ベストシーンは、男がいきなり世間話を始めるくだり。