白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

無邪気な悪意とともにラーメンズは踊るのだ

私がお笑い芸人のDVDを収集するようになるきっかけとなった作品が、大学の入学式を控えた2003年の春に気まぐれで購入したラーメンズのベスト盤『Rahmens 0001 select 』であることはこれまでにも何度か書いてきました。当時、お笑い芸人のライブ映像といえば、さまぁ~ずやネプチューンのような売れっ子の作品しか観たことがなかった私にとって、徹底的に無駄を排除したラーメンズの単独公演の映像はあまりにもアヴァンギャルドで、革命的なものだったのです。

その中でも特に何度も見返したネタが『プーチンとマーチン』でした。コントとしての独創性、表現力を感じさせられるネタは他にもありましたが、この『プーチンとマーチン』はとにもかくにもシンプルに笑えたのです。子どものころに初めて読んだギャグマンガのような衝撃を受けましたね。『プーチンとマーチン』の魅力はなんといっても掛け合いの妙。何の意味もないような会話が延々と繰り広げられていきます。そこに時折、しれっと投げ込まれるブラックなジョーク。

「うどんときしめんの違いを述べよ」
「ウドで出来てるのがうどん、キシで出来てるのがきしん」
「きしん?」
「そう!黄色いミシン!」

という無邪気な言葉遊びが行われた直後に、 

「男と女の違いを述べよ」
「殴っていいのが男!嬲っていいのが女!」

と、コンプライアンス的にかなり危うく、しかし今もなお根付いている男女差別の根本を切り出しているような一言をぶつけてくる、この緩急のメリハリがたまりません。

これらの会話をパペット人形が繰り広げているところもいいんですよね。会話の形式を取っているので、小林と片桐による会話でもネタとしては成立する筈なんですけれど、それだと作り手の悪意みたいなものが前面に出過ぎてしまう。このネタはあくまでも無邪気な者たちによる会話だからこそ成立するのです。だからこそ、小林と片桐ではなく、パペット人形が会話をする。また、このパペット人形が、白と黒の無機質なデザインなのもいいんです。徹底的に余計な情報を含めない。あくまでも会話だけで魅せる。ストイックな姿勢が感じられます。

ちなみに、ネタの中でたびたび聴かされる「♪切ない人間」の曲ですが(この歌詞の人間を観察する側としての立場を取っているところもまたいいんですよねえ)、この曲の元ネタはロシアの楽曲『カチューシャ』なのだそう。その歌詞では、カチューシャという名の少女が出征した恋人を思う様子が描かれております。ソ連で開発された世界初の自走式多連装ロケット砲の名前が”カチューシャ”なのは、この曲が由来しているのだとか。そんな曲に「切ない人間」って内容の歌詞を当てはめているのかと思うと……何だか深読みさせられますね。