白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

『せっかくだもの。(吉住)』(2021年3月31日)

せっかくだもの。 (DVD)

せっかくだもの。 (DVD)

  • 発売日: 2021/03/31
  • メディア: DVD
 

女芸人No.1決定戦 THE W』2020年女王、吉住のベストネタを収録。

吉住はプロダクション人力舎に所属するピン芸人である。大学卒業後、スクールJCAに入学。同期にはアンダーパー、土屋、加賀谷秀明(フタリシズカ)などがいる。卒業後、現在はピン芸人として活動しているかわえなつきと"ムテンカナンバー"を結成するも、一年間の活動を経て方向性の違いから解散。新しいコンビを組むために相方を探している最中、舞台に上がるために作っていたピンのネタがテレビスタッフの目に留まったことをきっかけに、ピン芸人としての活動を開始する。2018年に『女芸人No.1決定戦 THE W』初の決勝進出、2020年に優勝を果たす。本作には、そんな吉住がこれまでに演じてきたネタの中から、『THE W』で優勝を勝ち取った『思い立ったが吉日』『女審判』を含めた選りすぐりのコントが九本収録されている。

どのネタも非常によく出来ているのだが、やはり『女審判』が圧倒的に面白い。野球の試合が長引いて約束の時間に遅れてしまい、仕事着のままやって来た女審判が彼氏から別れ話を切り出される。とにかく審判員の恰好が良い。絶妙にダサい。野球中継などで目にすることの多い服装ではあるが、日常風景の中に投げ込まれると、これほどまでにダサくなってしまうのか。また、そのダサい服装が、吉住によく似合っているからたまらない。ダサいのに似合っている。似合っているのにダサい。自分らしいファッションとはなんぞや?と考えざるを得ない。それらビジュアル面の良さを踏まえた上で、きちんとネタそのものも面白い。男女の別れ話にいちいち飛び込んでくる野球の要素が生み出す違和感がなんともたまらない。彼氏の話を聞くときの中腰のポーズも最高だ。なんか分からんが面白い。しかし、冷静になって考えてみると、「男中心の世界で仕事をこなしている彼女に対して芽生える男の嫉妬」という今の時世では批判の声もあがりそうな視点を、"女審判"という強烈なキャラクターを前面に押し出すことで、よりキャッチーで大衆性の強い笑いに昇華するという、なかなかにとんでもないことをやっているコントなのである。実に上手い。

また、個人的には、『時をかける女』が印象的。高三の春、放課後に土手で野球をしている三人の男女の風景が、とある事実の発覚と同時にまったく別の意味合いのものへと変貌してしまう。正直、衝撃の事実そのものはそこまで意外性のあるものではないのだが、その事実がもたらす余韻を最後まで引っ張るのが絶妙に上手い。また、衝撃の事実を単なるギミックとして片付けることなく、その事実を黙っていたことの気まずさも描いているところがとても良かった。

この他、とある料理を作ってしまう依存症になってしまった主婦の告白を描いた『依存症』、段ボールで作った彼氏とイチャついているところを父親に目撃されてしまう『たっちゃん』、与党議員の女と野党議員の男が秘めたる恋を繰り広げる『許されざる恋』が面白かった。一人コントの女性芸人といえば友近が思い浮かんでくるが、吉住のそれは友近よりも女性であることに重きを置いた視点のコントを演じていて、ポリティカル・コレクトネスの時代において、更なる注目を集めることになりそうである。ならんでもええけど。

これら本編に加えて、特典映像として『思い立ったが吉日』『女審判』の初披露映像、副音声として作家のポテンシャル聡・同期の鈴木コウジロウを加えた三人でのコメンタリーを収録。これを見れば(聞けば)、芸人・吉住の考え方をより理解できるようになる……かもしれない。

【本編】(37分)
「動物のはなし」「思い立ったが吉日」「女審判」「依存症」「アイプチ」「たっちゃん」「許されざる恋」「祠」「時をかける女」

【特典映像】(10分)
「思い立ったが吉日」「女審判」初披露ver.

【音声特典】
吉住・ポテンシャル聡・鈴木コウジロウの副音声コメンタリー