令和時代のお笑い公論

心が腐る、その前に。

僕は僕の素晴らしき人生の為に寝っ転がってYouTubeを見ている

疲れている。明らかに疲弊している。

否、摩耗している、と表現した方が今の状態を説明するに適切かもしれない。川の流れに身を任せた小石が、川底の石たちにぶつかって少しずつ角を落としていき、最終的にはつるつるとした形状になってしまうように、それまで心の中に確かにあったはずの余裕がいつの間にやら削ぎ落とされている。

理由は分かっている。新型コロナウィルスの影響で、日々の暮らしにおける活動を制限されているためだ。

例えば、旅に出られない。以前であれば、気分が落ち着かないとき、心に余裕がないときには、週末やちょっとした三連休を利用して、大阪あたりに繰り出していた。だが、今はそれが出来ない。現地の感染状況を思うととてもじゃないが行こうとは思えないし、そもそも主な移動手段である高速バスを利用するのにも不安がある。それどころか、県外に行くこと自体が良しとされていない。その為に自宅から車で一時間ほど走れば辿り着ける高知県にすら行くことが出来ない。

より日常的なことも制限されている。映画館もカラオケも行けない。密閉されている上に、飛沫の恐れがあるからだ。外食もままならない。基本的には自炊、たまにテイクアウトという対応になる。これまでストレスの解消法として当たり前に出来ていたことが、何も出来なくなってしまった。

とはいえ、自宅で出来る新しいストレス解消法を探そう、という考えには至らない。それ自体がストレスになるからだ。ある程度、軌道に乗ってしまえば、もっと気楽にしなやかに向き合えるようになるのかもしれないが、そこに至るまでの行程を思うと、とてもじゃないが踏み出せない。

結果、最近はずっとYouTubeで動画を見ている。

本来、このブログのスタンスに則るなら、この有り余った時間を利用して、お笑い芸人がリリースしているソフトを鑑賞すべきところなのだろうが、完成されたパッケージ品を見る余裕も今の自分からは失われている。完成度よりも臨場感を重要視したYouTube動画ぐらいが丁度良い。一昨年、とあるゲームをプレイするために購入したNintendo Switchの中に、YouTubeを視聴できるソフトが入っているので、最近はずっとこれを利用して見ている。以前はスマホやパソコンを使っていたのだが、大きい画面で見た方が明らかに楽しい。これまで、大画面のテレビで映画を観ることに喜びを感じる人のことが理解できなかった私だが、今ならその気持ちもなんとなく分かるような気がする。大きいことはいいことだ。

このところよく見ているのは、少し前の記事でも書いたが、漫才師・すゑひろがりずの動画チャンネル『すゑひろがりず局番』で配信されているゲーム実況動画だ。

古典芸能の言い回しで現代的なシチュエーションを演じることによって生じるギャップを笑いへと昇華しているすゑひろがりずは、ゲーム実況においても同様のテクニックを駆使している。ゲームの中の世界観などお構いなしに、人物や道具をビジュアルからのイメージだけで一方的に古典的表現へと置き換えていく。その様は歴史の教科書に描かれた偉人の肖像画に落書きするように無邪気で面白い。

また、すゑひろがりずの二人が、古典的表現に固執し過ぎないところが良い。ゲームに熱中するあまり、うっかり現代語を喋ってしまうこともある。徹底していない。だが、その無理をしていないヌルさ、出来上がってなさが、却って自然体の二人の気質を思わせ、それがなんとも言えない安心感を覚えさせる。現在は「バイオハザード」と「どうぶつの森」を攻略中だが、個人的には「ヒューマンフォールフラット」回が一番笑えた。ゲーム自体のユルさ自由さが、すゑひろがりずのキャラクターとしっかりマッチ。

もっとも、私が彼らの動画を心から楽しめているのは、そもそもゲーム実況動画が好きだったことが大きいのかもしれない。今よりもずっと昔、ニコニコ動画が全盛を極めていたころ、私はよくゲーム実況動画をチェックしていた。とりわけ好きでよく見ていたのは、ガッチマンと幕末志士。彼らは現在、主戦場をYouTubeに移して、今でも動画を更新し続けている。

ガッチマンのゲーム実況は、シンプルに攻略を目的としたもの。但し、その視点はとにかく冷静で、一般的には大変におぞましいとされているホラーゲームを淡々と軽やかに攻略している様子を撮影している。とはいえ、その神業のようなプレイを売りとしているわけではない。ガッチマンのゲーム実況は、そのゲームに組み込まれたプログラムを冷静に紐解きながら処理していく、確かな観察力と解説力にこそ見どころがある。『クロックタワー』シリーズの攻略動画では、その傾向がとりわけ顕著に表れているように思う。こうなるとホラーゲームも怖くない。

対して、幕末志士のゲーム実況は、演者同士の掛け合いが魅力だ。すぐさま調子に乗ってしまう坂本とその失態をゲラゲラと笑い飛ばす友人・西郷の掛け合いは、あまりにも使い古された表現になってしまうが“友人のプレイを後ろから眺めているような”楽しさに満ち溢れている。ただゲームをプレイするだけではなく、西郷が自作のゲームを坂本にプレイさせたり、過去の黒歴史を暴露するトークを展開したり、かなり内輪向けの動画も多く公開されている。引っ掛かるところがあれば、ハマるかもしれない(「スーパーマリオブラザーズ3」「がんばれゴエモン2」のように、ちょっと懐かしいソフトをプレイしているところも世代的にたまらない)。

芸人関係の動画では、霜降り明星の動画チャンネル『しもふりチューブ』もよくチェックしていた。

どうして過去形なのかというと、新型コロナウィルスの影響でリモート収録となってしまったことで、元来の動画の魅力である「二人がしょーもない企画にしっかりと取り組む」ことが出来なくなってしまったからだ。無論、今だからこそ出来ること・撮れる映像もあるのだろうが、名作と名高い竜宮城ロケを目にした身としては、今の距離感のある掛け合いはどうにもこうにも歯痒い。事態が落ち着いて、しっかりと二人で動画が撮影できるようになれば、また見るようになるのだろうか……。

で、このところ、なんだかよく見てるのが『きまぐれクック』というチャンネル。

魚介類を主に調理している様子を撮影しているチャンネルなのだが、出てくる魚介類が、やれ巨大なイカだの、やれ直に触ると命の危険がある電気ウナギだの、水族館では人気のナポレオンフィッシュだの、とにかくベラボーなものばかり手を出していて、ついつい見てしまう。しかもそれらを自宅で調理しているのだからたまらない。日常的な空間に突如として現れる異物感。それが鮮やかにスムーズに切り刻まれ、ちゃんとした料理になってしまうイリュージョン感。ある回では130キロのメカジキを調理していた。何やってんだ。

というわけで、皆さんも無理せずぬるりと自分に合った動画を見て、このしんどい時期を乗り切ればいいのではないかと思う。もうやっているのではないかという気もするけれど。

……あっ、それと、Twitterでなんやかんやで繋がっている、ピン芸人の九月さんの音声コント動画が割と面白いので、お笑いが好きな人はチェックしてみてもいいかと。先日、なんとなしに観た『生徒指導の限界』とか、設定も展開もムチャクチャで良かった。そういう未来がもうすぐそばまで来ているんだなあ(※来てません)。