白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

高知に何があるってんですか旅行(2019年8月24日~25日)

ある日、友と二人で話し合った。

このまま、これといったイベントもないままに、今年の夏を終えていいものか、と。そこで思いついたのが高知旅行である。喧騒とは無縁の静かな民宿に泊まって、日々の疲れを癒やそうではないか……という話になったのである。ところが、いざ民宿に当たってみると、どこもかしこも部屋が空いていない。どうやら、予約の電話を入れるには、些か遅すぎるようだ。無念である。

とはいえ、高知に行くぞと一度決めてしまったからには、何が何でも行かないといけない。ここで断念するという変更は認められない。そこで市内のホテルを当たり始めたものの、こちらも予約が埋まっている。全ての行動が遅すぎたのである。行動するときは迅速に。しかし、それでもなんとか場末のホテルに空きを見つけ、どうにかこうにか部屋を押さえることに成功した。過去に何度か泊まったことのあるホテルと同じ系列のホテルである。とはいえ……果たして……。

そんなこんなで、当日を迎えたのであった。

八月二十四日(土曜日)。

午前八時半、我が家に集合。私の車に私と友人と友人の妻の三人が乗り込んで出発。当初、四国カルストを経由して高知市内に突入する計画を立てていたのだが、生憎の曇天だったために断念、代案として以前から気になっていた高知県室戸市にある“むろと廃校水族館”を目指すことになった。

最寄りのインターチェンジから高速道に入り、南国インターチェンジで下り、そこから国道55号線をひたすらに走り続ける。走行時間、およそ二時間半。長旅である。車の持ち主は私だが、運転手は友人である。途中、交代を願い出たが、彼は運転が好きなので問題無いと言い張り続け、旅の終わりまで延々と運転手をし続けていた。実に有難い。途中、昼食のために“みなと食堂 sato”という定食屋に立ち寄り、金目鯛刺身定食を食べる。同じものを食べた友人は「美味い」と言っていたが、私にはよく分からなかった。相性の問題だろう。

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午前十二時半ごろ、目的地の“むろと廃校水族館”に到着。

文字通り、廃校跡を改造した水族館で、かつての教室をそのまま保存した部屋があったり、プールを水槽にして沢山の魚を泳がせたり、子どもたちが楽しむための楽器が置いてある音楽室が設置されていたり、単なる水族館としての面白さに加えて、普段はなかなか来ることのない小学校の中に侵入するワクワク感があって、非常に楽しかった。

昨年四月に開館したばかりということもあって、内装もとても綺麗で粗がない。あまりにも良かったので、思わず受付の真横に設置されていたスピードくじ(一回1,000円)に手を出してしまった。四等のサバのぬいぐるみが当たった。かわいい。ただ、かわいいだけではなく、手触りも宜しい。三等、二等、一等とランクが上がるとともに、このぬいぐるみのサイズが大きくなっていくらしい。手触りが実にたまらなさそうだ。

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外観を撮影し忘れたので、代わりにうつぼの巣をどうぞ。

午後一時半ごろ、むろと廃校水族館を出発。来た道を引き返すように、高知市内を目指す。途中、往路で気になっていた、“道の駅 キラメッセ室戸”で停車。室戸とクジラ漁の歴史を知ることの出来る“鯨館”の展示物を堪能する。実際に使われていたという大きな銛や鋭い包丁に、命懸けで鯨を獲っていたことを実感。かつて鯨を獲るときに乗っていた勢子船を再現したVRなどもあり、想像以上に楽しかった。

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午後三時に再度出発。そのまま高知市内に入り、友人夫婦が泊まる予定のホテルの前で停車。二人を下ろして運転席に回る。今回、宿泊費の関係上、私と友人夫婦は別のホテルに泊まることになってしまったのである(とはいえ、徒歩五分にも満たない距離なのだが)。一時的に二人と別れた私は、宿泊する予定のホテル“高知ビジネスホテル別館”へ移動、専用の駐車場に車を停めた。

午後四時半ごろ、ホテルにチェックイン。カウンターに車の鍵を預け、替わりに部屋の鍵を受け取る。一泊3,500円に駐車料金600円を加えて、計4,100円。お安い。二階の階段を上がってすぐの部屋だと説明を受ける。なんとエレベーターがない。二階の部屋なので移動に苦労することはなかったが、もしも三階の部屋だったとしたら、なかなかに大変だっただろう。

鍵を開け、部屋に入る。狭い。そういう部屋しか余っていなかったので、ある程度は想定していたのだが、それにしても狭い。テレビ、冷蔵庫、ベッドに湯沸かし器……それらの室内に設置されたアイテムをなんとなしに観察していると、ベッドの枕元に古いラジオが置かれているのを発見する。よくよく見ると、なんとナショナル製である。試しにスイッチをオンにしてみると、一応は電源が入った……が、誰が使うのだろうか。

その流れで、ユニットバスの状態も確認。こちらも窮屈で、しかもなんだか不衛生な空気が漂っている。だが、この場末感がたまらない。風呂桶は湯を抜くと底に開けられた穴から部屋の真ん中にある排水口へと水が流れていくシステムになっていた。実に不穏である。しかし、それもこれも仕方がない。風味である。

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午後五時半ごろ、友人夫婦と合流して、夕飯を取るために“ひろめ市場”へ。沢山の人で混み合っていたが、インド料理店の店先が空いていたので、そそくさと陣取る。店の料理と飲み物を注文していれば、他店で購入した料理を持ち込んでもいいという(飲み物はダメ)ので、インドのビールを片手に唐揚げやら鰹のタタキやらを堪能する。そんな風にして二時間ほど飲み食いし、お腹が満たされたところで離脱。

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だが、まだ夜を終わらせたくない一行は、更に帰りに“製麺処 蔵木”に立ち寄り、つけ麺を食べる。とても美味しかったが、しこたま飲み食いした後で来るようなところではない。すっかり満腹である。

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そのまま各自のホテルへと戻る。部屋でうがいをしたら、ほんのり泥の匂いがした。水道に雨が混ざったのだろうか。このまま寝てしまえば良かったのだろうが、近くにエッチな店があったので、そちらにも顔を出す。いつものように、ここで具体的な内容について書くことは出来ないが、とても職人気質な方だった。釘を打ち込まれる板になったような心持ちだった。

風呂に入り、『オードリーのオールナイトニッポン』を聴きながら就寝。

明けて、八月二十五日(日曜日)。

午前七時半起床。就寝時刻を思うと、あまり眠れていないようだ。やはり慣れない場所での睡眠は浅いのだろうか。スマホを見ると友人からLINE。ここは一旦、スルーして髭を剃る。以前、ネットで「シャンプーを使うと剃りやすい」という情報を目にして以来、T字カミソリで髭を剃るときにはシャンプーを使用している。実際、剃りやすいのだが、どんなに顔を洗ってもベタベタ感が残っているような気がして、ちょっと落ち着かない。そこそこに出掛ける準備を整えたところでLINEを返信。集合時刻について打ち合わせを行う。午前九時半、チェックアウト。車を友人夫婦が泊まるホテルまで移動させ、二人を乗せる。そのまま車は近くの有料駐車場へ。朝食を取りにひろめ市場へ。

午前中でも、ひろめ市場は多くの人で賑わいを見せている。うどんを食べる人がいたかと思えば、早くもビール片手に出来上がっている人もいる。老後はこういうところに住みたいものである。今度は自由席を取ることが出来たので、特定の店に忖度することなく、各店舗の料理を楽しむことが出来る。唐揚げをつまんだり、定食を頼んだり、今日も運転する予定ではない私も朝からアルコール飲料を楽しんだり……優雅な時間を過ごすこととなった。

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午前十一時半、ひろめ市場を出る。「せっかく高知まで来たのだから、桂浜に行こうではないか」という私の呼びかけの元、車は桂浜公園へ。

正午を過ぎた頃、桂浜に到着。入場料の400円を支払い、任意の駐車スペースへと車を停める。ひとまず向かうは坂本龍馬銅像である。別にこれといった思い入れがあるわけではないし、なんなら桂浜に来たときにはスルーすることも多い龍馬像だが、今回は友人夫婦もいるので一応は見ておこうということになった。どうして普段は見に行かないのかというと、桂浜へのルートとは少し外れた場所に建っているため、わざわざ迂回する必要性があるためである。しかも、そこには龍馬像以外には特に何もない。観光客か余程の暇人でなければ、わざわざ見に行こうなどとは考えないだろう。

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龍馬像を一瞥し、すぐさま桂浜へ。激しく砂浜へと打ち込まれる波の音が耳に染みる。時折、岩にぶつかって、激しく崩れる。瀬戸内海では見られない、太平洋の厳しさを思わせる景色である。そんな波の様子を伺いながら、一行は砂浜を進んでいく。これが良くなかった。整備された通路とは違い、砂浜は歩みを進めるたびに足が砂に引きずり込まれる。その足を持ち上げるたびに疲労感が積み重なる。気付けば休憩用のベンチにへたりこみ、息を切らす始末。己の体力の無さが憎い。予定では龍王岬展望台まで歩くつもりだったのだが、ここで断念。桂浜水族館へ行くことにする。

 入場料の1,200円を支払って入館。ちょうどトドによるショーが行われるところだったので、見学する。その場で寝っ転がったり、輪っかを首にはめたり、とてもベーシックなパフォーマンスが繰り広げられる。ありがちだ。しかし、次の瞬間、我々は思いもよらぬ光景を目にする。なんと、トドが柵の外へと飛び出して、一般客が歩いている通路に出てきたのである。これには流石のスティーブも驚きを隠せない。あまりの出来事に茫然としながらも、見事なパフォーマンスに拍手するしかなかったのであった。……誰だスティーブ。間近に見るトドはとても恐かった。

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ショーの後、あちこちの水槽を眺めて回る。ウミガメの餌やりコーナーでは、その気性の荒さに驚かされた。トングで魚を与えるのだが、一度トングに噛み付くと、これがなかなか放さない。実にオソロシイ。水槽コーナーでは、スッポンモドキの愛らしさに癒される。ブタのような鼻がなんともいえない味わい深さ。ドクターフィッシュの体験コーナーでは、自分の手を魚に甘噛みされて些かコーフンした。こそばゆい、けれどなんだか、気持ちいい。それら各所の諸々を心行くまで楽しんだところで、水族館を後にした。その後、しばらくお土産を見て回った。幾つかの店を巡ったが、売られているものは大体同じで、ややバリエーション不足を感じさせた。桂浜という絶対的なアピールポイントがあるのだから、もっと質量にこだわった方が宜しいのではないか(尤も、紆余曲折を経て、このようになったのかもしれないが)。午後三時、桂浜公園を出発。途中“道の駅 南国風良里”に立ち寄り、改めてお土産を物色する。

午後五時、帰宅。玄関先で友人夫婦と別れ、私はお土産と汚れものを抱えながら、自宅に戻ったのであった。お疲れさまでした。