白昼夢の視聴覚室

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「M-1グランプリ2018」準々決勝敗退者・オススメの五組(2018年11月6日・東京予選)

M-1グランプリ2018」の決勝戦が12月2日に行われる。

それまでの期間、お笑い好きが出来ることといえば、未だに配信され続けている若き漫才師たちの動画を漁って、これから売れるかもしれない芸人たちに目星をつけるぐらいのものだろう。少なくとも、私はそうしている。

というわけで、今年もM-1の準々決勝敗退者が披露した全てのネタについて、ああだこうだと感想文を書き連ねようと思っていた……のだが、如何せん組数が多く、それらを客観的に分析してテキスト化する作業は困難を極めた。そのうち、どの漫才師を見ても、不足している部分ばかりが気になるようになってしまった。完全にストレスである。このままでは、私にとっても、漫才師たちにとっても、読者にとっても、良い顛末を迎えられはしないだろう。そこで、今年は無理せず、気になったところだけをピックアップして紹介することにした。おかげで随分と作業は楽になった。やれやれ。

以下、来年以降に売れるかもしれない、素敵な漫才師たちである。

【納言】

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太田プロダクション所属。薄幸(右)と安部紀克(左)によって2017年に結成。薄幸(すすきみゆき)という芸名は、番組の企画でビートたけし命名した。三回戦「ラーメン屋の店長から口説かれる」準々決勝「キャバ嬢のスカウトを断る」。紆余曲折の人生を歩んでいそうな雰囲気を醸し出している薄幸が、様々な状況で男性から口説かれ、一度は断ろうとするも最終的に“お持ち帰り”されてしまう様子をショートコント形式で披露する。一貫して、すれた女で有り続ける薄幸のキャラクターが、とにかく魅力的。乱暴な言葉遣いの向こう側に人生の深みが感じられて、漫才というよりも、一昔前の人間ドラマを見させられているような気分になる。ショートコントに入る際に、必ず煙草で一服しながら特定の街に対して偏見にまみれた毒を吐き散らすのもいい。もしかしたら、本当にそうなのではないかと思わせるような、妙な説得力がある。そんな薄幸の相方である安部も、また独特の色気を放っているのが良い。今後の更なる進展に期待が持てる男女コンビだ。

 

【シシガシラ】

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よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。浜中英昌(左)と脇田浩幸(右)によって2018年に結成。浜中は“春夏秋冬”、脇田は“ヨコハマホームラン”というコンビでそれぞれ活動していた。三回戦「五十音」準々決勝「五十音」。デブ、チビ、ハゲなど、自らの身体的特徴を笑いに転換する手法は、今や完全に頭打ちの状態だ。デブというだけで、チビというだけで、ハゲというだけで笑いを取ることが出来ないわけではないが、その程度の個性しかないようでは、この生き馬の目を抜くメディアの世界において、あっという間に大衆からそっぽを向かれてしまう。それらの要素をエンターテインメントへと押し上げるための更なる切り口が必要だ。シシガシラの漫才は、それが出来ている。脇田の個性的なビジュアルをイジるため、丁寧に仕込まれた言葉遊びの妙。そして、そのトリックが発覚してからの、更なる展開の上手さ。同じく、見た目を利用した漫才で高く評価されていたギャロップが、今年になってようやくファイナリストに選ばれた今、その枠に彼らが飛び込むことが出来るだろうか。

 

【ういろうプリン】

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プロダクション人力舎所属。内間一彰(左)と丸山雄史(右)によって2007年に結成。当初は“ブルーセレブ”という名前で活動していたが、2018年に改名。三回戦「キスしようよ」準々決勝「タトゥーを入れよう」。漫才とは、得てしてボケ役とツッコミ役の掛け合いが基本だと思われがちだが、もっと根本的なところをいえば、それは個性と個性のぶつかり合いである。例えば、ブラックマヨネーズの漫才について、思い出してもらいたい。彼らの漫才は、吉田がボケで小杉がツッコミだと思われがちだが、では必ず小杉が正しいことを言い続けているかというと、そうでもない。頑なに意見を受け入れようとしない吉田に、自分の意見を押し通そうとするあまり、異常な言動を取ってしまうこともある。その瞬間、小杉はツッコミではなく、ボケに転じてしまう。ういろうプリンの漫才にも、そんなブラックマヨネーズの漫才に通じるところが感じられる。自らの主張を押し通そうとする丸山と、それを頑なに拒否し続ける内間の激しい攻防戦は、熱気を帯びれば帯びるほど異常性を増していく。しかし、個人的には、今のタイミングで「タトゥーを入れようと提案される」というテーマの漫才を用意してきた、時事に対する敏感な対応に感心させられる。「そんなことでしか愛を感じられない人間は、弱い人間だ。カタチあるものでしか愛を感じられないなんて……」という漫才中の発言とは思えない重みよ。

 

【モンローズ】

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サンミュージックプロダクション所属。宮本勇気(下)とまえのりょうた(上)によって2016年に結成。宮本はかつて菅谷直弘(カカロニ)とともに“ベアードノーズ”というコンビで活動していた。三回戦「弱小野球部の監督」準々決勝「世界中がゾンビまみれになったら」。漫才におけるツッコミはボケの引き立て役になりがちである。だが、ツッコミ役の個性が強すぎると、その立場は途端に逆転する。ボケよりもツッコミの方に注目が集まり、人気を獲得するようになることもある。一見すると、モンローズはその典型に見える。如何にも気力の無さそうなまえのに対し、スーツ姿で挨拶も元気いっぱいな宮本を見比べると、どちらがボケでどちらがツッコミか一目瞭然だ。だが、実際に漫才が始まってみると、どうも様子がおかしい。確かに、まえのが宮本にちょっと雑な要求を押しつける導入の時点では、二人の関係性はイメージ通りなのである。ところが、そのまえのの要求を、宮本が完全に再現してしまうのだ。その過剰な説得力。もはや個性的なツッコミなどという段階をとっくに呼び越し、完全にボケになってしまっている。だが、漫才の流れを見ると、あくまでもまえのがボケで、宮本はツッコミの関係性が維持されている。この絶妙さ。是非、実際に視聴して、確認してもらいたい。

 

シンクロニシティ

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フリー。西野諒太郎(左)と吉岡陽香里(右)によって2017年に結成。吉岡は2016年に飯森七重とのコンビ“晴天サンティ”でM-1グランプリに出場、アマチュアながら準々決勝に進出している。三回戦「タトゥーショップ」準々決勝「オークションに参加したい」。徹底的にダウナーな口調で繰り出される吉岡の不条理な言動は、どこまでも掴みどころがなく、それに対応させられる西野やそれを見させられている観客に留まらず、コントの世界の住人たちすらも翻弄していく。そこには信念がない。純然たる欲望だけが渦巻いている。そこに悪意がない。だからこそ底知れない。そんな吉岡の不気味さが特に反映されたのが、準々決勝で披露されたオークションのネタ。ただオークションに参加したいという欲求を満たすためだけに、悪戯にオークションに参加して金額を釣り上げていく様がたまらない。また、類似したシチュエーションを何度も繰り返すタイプのネタなのに、最初の「四万円しか持っていない」という設定が延々と引き継がれている点も、少し面白かった。この危うさ、何処まで伸ばせるか。

この他、ロングロング、ぺこぱ、ダイヤモンド、マドンナ。、ストレッチーズが印象に残っている。時間があれば、見てみるといいかもしれない。

以下、準々決勝(東京予選)のネタまとめ。

 【準】魔人無骨「犬カフェ」
チョコレートプラネット「こだわりのカレー屋さん」
のばしぼん。「戦国武将・顕如
【準】侍スライス「なんとなく雰囲気で裁判」
漫画家「チヤホヤされたい」
納言「キャバ嬢のスカウトを断る」
シシガシラ「五十音」
やさしいズ「ホームランの約束」
ヤーレンズ「お金を貸して!」
男性ブランコ「男尊女卑」
シンクロニシティ「オークション」
ななまがり「運命の人」
Aマッソ「テレビの密着取材」
ニュークレープ「車の二台持ち」
【準】プラス・マイナス「ゼロから街を作る」
ロングロング「頭蓋骨に穴」
わらふぢなるお無人島に持っていくもの」
【準】ダンビラムーチョ「こわいものvs正義感の強いおじさん」。
四千頭身「昨夜の会話の再現」
LOVE「うるせえやつ」
ういろうプリン「タトゥー彫ろうよ」
相席スタート「年上の女性に告白」
天竺鼠「パニック」
インポッシブル「犬とフリスビーで遊ぶ」
ぺこぱ「空港で再会するカップル」
すゑひろがりず「帯の料理番組に出たい」
八田荘「コンビで合コン」
キュウ「オリジナルゲームを開発」
ラフレクラン「深夜バスのバスガイド」
大自然「怪しい車を職務質問する警察官」
田畑藤本「本当に東大を卒業したの?」
ダイヤモンド「占い師に聞いたラッキー○○」
【準】三四郎「マジ卍」
マドンナ。「宝くじ(表現が微妙に違う)」
アイロンヘッド「ファミレスにクレーム(ストレスの捌け口)」
【準】さらば青春の光「怖い話」
【準】ウエストランド「結婚相談所」
モンローズ「世界中がゾンビまみれになったら」
【準】インディアンス「木村は元ヤン」
モグライダー「組長の居場所を吐かすために拷問する」
錦鯉「後輩と合コンに」
いい塩梅「相方に女の子を紹介する」
アイデンティティ神龍を呼び出す」
【決】ゆにばーす「はらちゃんのデート」
【準】東京ホテイソン「遠足」
ザ・パーフェクト「消防士をやりたい」
囲碁将棋「Dragon Ashの『Grateful Days』みたいに言うな」
ストレッチーズ「映画館のドリンクホルダーを占領される」
コマンダンテ「ヤンキードラマにラブストーリー」
がじゅまる「浮気を疑われたときに話を逸らす方法(雑学)」
【準】マヂカルラブリー「高級フレンチのマナー」
井下好井「門限を破った我が子を叱る・反抗的な漫才」
ランジャタイ「あの人は今(リーゼントのヤンキー)」
デニス「ビルの屋上から飛び降りようとしている人を止める」
ニューヨーク「そろそろ映画を撮りたい」
スリムクラブ「興味を持っている人」
ダイタク「元カノを不幸にしている男を追い詰める」
【決】トム・ブラウン「加藤一二三を召喚」