白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「M-1グランプリ2017」準々決勝敗退者・感想文(2017年11月2日・大阪)

準々決勝戦を見てきた人向けに。東京予選の感想はこちら。

「もし無人島に漂着したら」。無人島に漂着したときに想定される状況を説明する津田に対して、ひたすらにマイペースな別府。状況が進行するたびにボケが滑り込んでいく典型的なスタイル。基本的には面白いのだが、「いぬのおまわりさん」パートは冗長な割に笑いどころが少なくて必要無かったような。あと、ところどころで、何を言っているのかが伝わってこないシーンがあった。こちらの知識不足によるところもあるだろうが、こういうキングコングNON STYLEと同じような路線でいくのなら大衆向けに仕上げておいたほうがいいような。

「未来に行ってきた」。普段から良くしてもらっている博士と未来に行ってきたという堂前から聞き出すエピソードは、どれもこれもしっくりこない。現在と未来の違いを確認したい兎に対して、純粋に博士との旅の思い出について話そうとする堂前の認識のズレを描いた漫才。ズレそのものだけでも面白いのだが、引き出されるエピソードの内容の無さがたまらなかった。とりわけ700円くじの無意味さたるや。ただ、もう少し強めのパンチが欲しい。

「ドロボウ」。自宅に泥棒が入ったという周平魂が、その当時の状況について相方のたかのりに説明するのだが、話の中に余計なワードを入れてきて、完全にイキッている。純粋にイキッていた前半パートと「ひねりいれ」「ケツ肉を沈める」などの千鳥に対するリスペクトを感じさせるオリジナルワードをブチ込んできた後半パートで笑いの方向性が変わってしまっているため、やや統一感に欠ける。ただ、それぞれのパートは面白かった。どちらかだけでいい。

準決勝進出。

「映画の予告編」。映画の予告編が好きすぎて自分で考えているという桑原が、BGMとして相方の多田にSuperflyの『愛をこめて花束を』を歌ってもらいながら、自作の予告編を披露する。今年九月に放送された「ENGEIグランドスラム」でも披露されていたネタ。漫才として披露されるレベルじゃない異常に完成度の高い自作の予告編が一周して笑いに昇華されるという図式。M-1のような大会では評価されないだろうが、面白かった。ただ、個人的には、あからさまな感動路線の映画はあんまり好きではないので、ありがちな予告編を自作することでそういった予告編に対する批評としている……という風に仕掛けてもらいたかった気も。

「刑事ドラマの殉職シーン」。刑事ドラマの殉職シーンをやってみたいという安場が、先輩刑事となって相方の北村演じる後輩刑事に死の間際のメッセージを託そうとする。ネタそのものは面白い。終盤の「面白三文字」のくだりは、あまりにもバカバカしくて笑ってしまった。恐らくは意図的に組み込んでいるのであろう、ちょっとヘンテコな間合いも絶妙。ただ、「家族を後輩に託すようなことをいう」という北村のアドバイスの後に、そのアドバイスとは無関係なボケがしばらく拾い上げられていく展開に、ちょいとフラストレーションが溜まった。フリに対するボケを待ち構えている時間がちょっと長すぎ。

「二人のセレブが高級料理を食べに行く」。二人のセレブが高級料理を食べに行くという状況を、二人がダジャレや一発ギャグを織り交ぜながらお送り。いわゆるボケとツッコミで構成された漫才ではなく、片方がギャグを言うたびにもう片方もギャグで乗っかるというスタイル。ネタに多少の当たり外れは感じられるものの、なかなかに面白かった。前半では別々のギャグをやっていた二人が、後半では合体して完成するギャグを見せていくという流れに配慮した構成も良い。このままのスタイルで更にギャグのクオリティを上げていけば、もっと面白くなりそう。

「温泉旅館」。温泉旅館に行きたいというしげみうどんのため、相方のさかもとが女将となっておもてなし。ゴリッゴリに正統派の漫才コント。ふわっとしたボケとキレ味の鋭いツッコミという組み合わせが、フットボールアワー銀シャリと同じ系譜を思わせる。今はまだまだパンチが弱いが、ボケを煮詰めていくにつれて、どんどん面白くなっていきそう。「日本海」を「にっぽんかい」と読む女将に対し、次来たら指摘しよう……と構えた途端に「にほんかい」に戻されてしまう……というくだりが地味に良い。くだらない。

「電車を乗り過ごす」。酔っ払ったまま電車に乗り込んで、下りなくてはならない駅を寝過ごしてしまった渡邊。慌てて現在位置を確認しようとすると、前野演じる車掌による車内アナウンスが聞こえてきて……。漫才というよりもコントに近い。むしろ、このネタに関しては、導入から雰囲気を作ることの出来るコントの方が、より面白さを伝えられたかもしれない。略語を応用した駅名のバカバカしさと終盤の展開を予感させるほんのり不気味なボケのバランス感は絶妙なところだが、この内容を思うと、一発目のギャグは要らなかったのでは。ギャグが完全にスベッた後で、バカバカしい略語のボケはちょっと漫才に対する判断を見誤らせる。

「カツラ」。林のハゲた頭を過度に心配している毛利が「カツラを被ったらどうか?」と提案するのだが、林にはハゲた頭からいきなりフサフサになるのは不自然ではないかと拒否されてしまう。そこで自然にフサフサな頭になるために……。正直なところ、前半部分では「カツラじゃなくて植毛にしたらいいのでは?」という疑問に捉われていたのだが、二人のしっかりと噛み合ったやり取りのせいで、細かいところはどうでも良くなってしまった。毛利の無計画な提案に対して苛立ちながらも建設的に対応しようとする林の攻防がたまらなく面白い。100個のカツラが用意されてから本番に入った感があるが、フリであるカツラ三段階のくだりもかなり好き。ここを今の段階で上げたくない審査員の気持ちも分からなくはないが、このスタイルが下手に煮詰まって、彼らの芸風を知っている人でなければ楽しみにくい漫才になってしまうのではないかという不安も。……なので、とっとと準決勝に引き上げてください。ホント。

「ペットショップ」。イヌかネコかどちらを飼おうか決めかねているという今井に、相方の高見がペットショップで店員に聞いてみればいいと助言するのだが……。一見、今井がボケであるかのように思わせておいて、実は高見の方がボケだったという手法は面白い。ただ、全体の構成を作り上げるために、個々のボケが弱くなってしまっているのが惜しい。「常識的に見える高見が実はヤバい」以上の面白さがないというのだろうか。ただ、この構成の上で、更にコンスタントに笑いをもぎ取れるキラーワードを散りばめることが出来れば、格段に面白くなりそう。……かもめんたるっぽくなりそうな気がしないでもないが。

準決勝進出。

「サプライズパーティ」。普段から涙もろい水本に、後輩芸人たちがサプライズパーティを仕掛けるのだが……。「水本は涙もろい」という説明が入った後で、短めの映画館コントが入ったため、てっきり「涙もろい水本が様々な泣けるシチュエーションを提示するも、いざコントを始めると相方のマコトがまるで泣かせてくれない」みたいなネタを想定していたのに、直後にがっつりと「サプライズパーティ」をテーマにしたネタが始まったので、とんでもない肩透かしを食らったような気分にさせられた。それなら最初からストレートに「サプライズパーティ」のネタへ入った方が良かったのでは。肝心のネタは……無難。クラッカーに紛れてピストル、異常な人数の後輩たち、お祝いのヘンテコな歌……などなど、ありがちな手堅いボケを積み重ねて、それに見合った笑いを回収しているような印象を受けた。それでいいのか。M-1でそれでいいのか。

準決勝進出。

「尊敬している人物」。駒場が尊敬している人物はなかなか他人には伝わりにくい人らしい。そこで相方の内海は駒場が尊敬している人物が誰なのかをはっきりさせようとするのだが、その人物とは……。「叔父」に対する偏見で構成された漫才。その着眼点は面白いのだが、展開に大きな変化が見受けられず。終盤でようやく「叔父」がゲシュタルト崩壊を起こし始めるのだが、変化をつけるタイミングとしては遅すぎる気が。面白いフォーマットの漫才なだけに残念。

「合格発表」。同じ高校を受験した幼馴染みの女の子と一緒に合格発表を確認しに行くと、自分は合格していたのに彼女は不合格だった場合、どう声を掛けるか。ロートーンな阪本が彼女に対して繰り出す軽率なボケがたまらない。ただ、一番最初の「彼女が合否を確認する前に言っていたノリノリな台詞を再現する」というボケの再現クオリティが高すぎて、そこが山場になってしまった感がある。後半に同じくらいの盛り上がり部分があれば……。

準決勝進出。

「フラれた原因」。デートの帰り、彼女からフラれてしまったという皆川。どうしてフラれてしまったのかを検証するために、羽尻を彼女に見立ててデートの様子を再現してみせる。言葉の使いかたや金額・年齢などの数字の捉えかたなどに過剰に細かい皆川のボケがとにかく面白い。入園料を動物で割って一匹に対する単価を叩き出したり、動物の寿命を基準に敬称の有無を決めたり、神経質であるが故のヤバさがたまらない。ただ「神経質すぎる男が彼女とデートに出かける」という設定が、昨年のファイナリスト・和牛を彷彿とさせてしまうことが玉にキズ。……それで評価を落としたということはないだろうが。

準決勝進出。

準決勝進出。

「もしも内蔵が喋れたら」。もしも内蔵同士が会話をすることが出来たなら。内臓を擬人化するというテーマは面白いのだが、肝心の物語が内臓のキャラクター紹介だけで終わってしまったように感じられて、なんだか消化不良。もっと色んな展開を起こさないと、せっかくの独創的な設定が勿体無い。「胃が上がってくる」という言い回しが異常に上手かっただけに残念。

準決勝進出。

「日焼けサロンのバイト面接」。友達から「日焼けサロンのバイトがムチャクチャ楽」と聞いたきむらバンドが、仕事できなさすぎてバイトをクビになったばかりだという相方の赤木に薦めるのだが、当人はそもそも面接で落とされるだろうと否定する。設定そのものは漫才コントにありがちな「面接官コント」なのだが、リアルにコミュニケーション下手を演じる赤木の立ち振る舞いが、完全に彼ら独自の漫才を成立させている。なんとか正解を叩き出そうと試行錯誤した結果、間違った回答を提出してしまう姿が、笑えると同時に泣けてくる。「面接」を「伝説」、「長所」を「情緒」と聞き間違えるあたりが、本当にリアル。このリアリティを維持したまま、更にネタの精度を上げていけば、とんでもないことになりそうな気がする。面白かった!

「理想のデート」。こうへいが理想のデートについて相方のゆうへいに語るのだが、その内容がシンプルにバカ。昨年のM-1ではシンプルに掛け合いの漫才を披露していた吉田たちだが、今年はキャラクターをシフトチェンジしたらしく、こうへいが単純なバカとなって間違いだらけの理想のデートを語るという漫才に。正直、違和感がスゴいのだが、肝心のネタはきちんと面白かった。「訂正印」「耳鼻科直行」のくだりは腹を抱えて笑った。それでいて、忘れたころに双子ネタをブチ込むことで、コンビとしての特性もアピール。「お前の甥っ子」のくだりはあまりに見事な言葉の切り替えぶりに、ちょっと感動すら覚えた。このコンビは双子ネタの新しいボケをガンガン開拓していくなあ、と改めて。

「ずいずいずっころばし」。子どものころにやっていた「ずいずいずっころばし」を大人になってやってみると、とてつもなく面白くない。そこで新たにルールを加えることで、大人になっても楽しめる「ずいずいずっころばし」を作り上げていく。一応、漫才というていにはなっているが、いわゆる漫才の持っている魅力とはまた別ベクトルの何かが生み出されている感。ニュアンスとしては「キングオブコント」における2700に近い。新たに追加されたルールの耳心地の良さと、それが度を超すことによって生じるバカバカしさ。物量の多さを求められがちなM-1では評価されにくいかもしれないが、面白かった。

準決勝進出。

「もしも新喜劇に出たら」。普段はピン芸人として活動しているオダこと“おいでやす小田”は吉本新喜劇に対して憧れを抱いている。そこで、もしもオダが吉本新喜劇に出たら、どうなるのか……普段は新喜劇に出演しているオクシゲを相手に演じてみる。新喜劇的な世界観に、新喜劇の文脈から外れたおいでやす小田という異分子を放り込むことによって生じる噛み合わなさを描いた漫才。なかなかに面白かったのだが、新喜劇の持ち味である「ボケに乗る」のくだりが長すぎて、やや冗長に。そこから、もう一回ほど展開が欲しかった。

「円周率」。遂に円周率を割り切ったという小林に、相方の友保がどうやって割り切ったのかを聞き出す。昨年大会では想像力豊かな漫才を披露していた金属バットだが、今回はシンプルに二人のそれぞれのキャラクターを押し出した漫才にシフトチェンジ。シンプルにアホなことを言い続ける小林と「アツいのう、お前」「バグってんのかお前!」「お触り禁止やねん、円周率」などといった小粋なリアクションで観客を魅了する友保のやりとりは、以前ほどハイセンスではないものの、とてつもなく面白い。それでいて、ちょこちょこと不穏なボケを繰り出す、小出し感がまたたまらない。その豊潤なやり取りを思うと、本来なら準々決勝戦で敗退するようなコンビではないと思うのだが……難しい。

「川原でタイマン」。ヤンキー漫画にありがちな川原に相手を呼び出して喧嘩を始めるシーンを二人で再現。前半は「ヤンキー漫画にありがちな台詞」に対する双方の認識のズレを描いた言葉遊び重視の展開。「しばくぞ!」→「芝食うぞ!」はうっすらとスベッていたが、それ以外は安定して面白かった。対して、後半はケンカが始まりそうで始まらない、動きを多用したやり取りが続く。静→動へと向かう構成がとても見やすくていい。肝心のネタも良かった。理想とするヤンキー漫画的な展開を再現しようとしている田邊に対し、間違った反応を繰り返し続けるアホな池田のシンプルな漫才。こういう地味ながらも土台がしっかりと固まっているコンビがいつか評価される日が来てほしい。

準決勝進出。

トイレの花子さん」。アホな子どもが夜の校舎に忍び込んで、花子さんが出るという噂のトイレを訪れる。「♪はーなこさーん、あっそびーましょー」の節回しによる会話を描いた漫才。延々と同じ台詞を繰り返し続けるアホな子どもと、同じ節回しで質問に答え続ける花子さんのメロディアスなやり取りが後半になってグルーヴし始める展開は好きだが、ネタが始まってしばらくはどちらがボケでどちらがツッコミなのかを把握することが出来ず(同じ質問を繰り返す子どもは確実にアホだが、延々と同じメロディで返答し続ける花子さんもまともではない)、内容があまり頭に入ってこなかった。その辺りをもっと序盤で明確にしていてくれると有り難い。

「助けたおじいさんが……」。就職面接の直前に助けたおじいさんが、実はその会社の会長だった……的なシチュエーションのコント。なんとなく面白い内容だったのではないかという雰囲気は漂っているのだが、カットが多すぎてまったく判断のしようがない。きっと、会長に薬を渡すことを躊躇するくだりの前に、フリとなる何かがあったと思うのだが……。何を言ったらこんなにカットされるのだろう。

「ドライブデート」。売れたら車を買って彼女とドライブデートがしたいという下田が、果たしてどのようなデートをするつもりなのかを見たいがために、相方の九条が女の子になってドライブデートのコントを始める。全体的にハイテンションで、勢いだけでブッ飛ばしているような印象を受けるが、小ネタの量が尋常ではないため、きちんとネタを作り込んでいるということがよく分かる(言わんでよい)。こういったテンション重視の芸風は下手をすると観客に引かれてしまう可能性もあるのだが、彼らはボケの面白さを動きで演出することで、半ば強引に観客を引き留めている。言葉選びも絶妙で、「誰が止まって車(タイヤ)ガシャガシャするん?」というツッコミの言い回しは絶妙だった。こういうコンビは安定感が出始めたら、とんでもないことになりそうだ。

「部活動」。学生時代に帰宅部だった野村。もしも部活動をやっていたら、人生変わっていたかも……というので、相方の河野が様々な部活動の名前を挙げていくのだが、その度に野村から「○○部はイヤや……」と拒否されてしまう。野村が各部活を嫌っている理由の角度の面白さが魅力の漫才。普通ならばそれほど気にならないが、指摘されると分からなくもない、絶妙に共感できるラインを突いている。すぐさま卒業を迎えてしまう展開はかなり好きだ。ただ、一つ一つの部活が淡々と処理されていくため、一定の面白さはあるものの山場がないのが惜しい。逆にいえば、山場を作ることが出来れば、一気にハネそうな予感がある。

 「ベビーカーで散歩」。子どもをベビーカーに乗せて散歩している秋山に、山名演じる近所に住んでいるおじさんが話しかけてくる。序盤のちょっとウザッたいボケの切れ味もさることながら、母音しか合っていない「枕草子」、ヤバさしか漂ってこないオリジナルの童話、聞いたことのない主題歌など、見せ場多め。ただ、見せ場となるシーンが多すぎて、逆に漫才の中で見せたいポイントが見えづらくなっている。個人的には、オリジナルの童話を聞かせるあたりで、もうオチに向かっても良かったように思えた。

準決勝進出。

「修学旅行」。修学旅行での出来事を覚えていないという木崎の曖昧な記憶を呼び覚ます。随所に出てきたボケが後半に伏線となって回収されていく様は見事。ただ、漫才のネタとして見ると、笑いどころがそれほど多くない。そのため、さほど笑っていないのに妙な満足感は残るという不思議な漫才になってしまっている。木崎のキャラクターに拍車がかかって、もっと表現力が身についたら、より笑えるようになるのだろうか。

準決勝進出。

「海で溺れた友達を助ける」。大林から「もし目の前の海で友達が溺れていたとしても助けることに躊躇してしまう」件について責められた西森。ならば、もしも大林が同様の状況であった場合、本当に友達を助けようとするのか……と、質問したうえで、想定される状況にああだこうだと要素を継ぎ足して、なんとか大林に「助けへん」と言わせるように仕向ける。……構図がややこしい。ただ、構図そのものとは関係無しに、シンプルに話へ後付けする西森の所作そのものが逐一面白い。「物凄く高い波」のことをイソギンチャクの姿を再現しながら表現したり、「真冬」のことを「思いっきり冬」と言ったり、決して独創的ではないのだが、なんともいえない味わい深さがある。オチのブチ切り感さえどうにかなっていれば、かなり良い漫才に仕上がっていたのでは。

「ことわざ」。ことわざが得意だというウーイェイよしたかが、相方の瀬戸が出すことわざの穴埋め問題を解いていく。大喜利色の強いネタで、それぞれのワード自体は面白いのだが、漫才である必然性が感じられにくい(同じ系統のネタをインパルスの板倉がピンのコントで演っているし)。コンビである必然性があったのは、瀬戸に「お前はビジネスパートナーや!」と言い放つくだりぐらいじゃないだろうか。こういうネタはどんなに面白くても、ちょっとキツい。

「プリン」。冷蔵庫の中にあったプリンを勝手に食べてしまったことが原因で半年付き合っていた彼女と別れてしまったという井尻に、相方の藤本がその行為がどれほどヒドいことなのかを言って聞かせる。相方の失言に対して大量の言葉を浴びせていくスタイルはウーマンラッシュアワーを彷彿とさせるが、村本よりも圧倒的に滑舌を意識している藤本の喋り方は漫才よりもコントのそれに近く、M-1という場にはそぐわない違和感を放っていた。キングオブコント向けだろう。

「リアクションどうしたらええねん」。「それ言われてリアクションどうしたらええねん」なことを言い続ける四条に対して、奥田がズバズバと反論し続ける。世の中の「それ言われてリアクションどうしたらええねん」なことを四条に言わせ、それに対して奥田がツッコミを入れる憑依型ボヤキ漫才。それがあまりにもあからさまに表れているため、四条が四条である必然性が感じられない。結果、ワードのチョイスも奥田の話術も安定して面白いのに、なんだか満足感が足りない。本来、もっと四条のキャラクターを活かして、お互いが掛け合わさった面白さを見せるべきなのに、学天即はいつも同じ失敗を繰り返しているような印象を受ける。一度、コンビとしての体勢を、立て直した方が良いのでは。

 「婚活パーティ」。女を探しに婚活パーティへやってきた内間の元に「私はどうしても人間を信じたくてここに来ました!」と語る男が近付いてくる。謎の男から内間が奇妙な話を聞かされる、いつものスリムクラブの漫才。「いつもの」という言葉を使うと、なんだかマンネリ化しているかような印象を与えてしまうかもしれないが、予想外の方向へと誘うネタの切れ味はバツグン。特に終盤、あの話題が挟み込まれたのには、あまりにも意外過ぎて大笑いしてしまった。十二分に面白かったが、漫才のフォーマットがやたら認識されていると、なかなか戦いにくいのかもしれない。

「ホスト」。芸人の副業としてホストを選んだトキから女性客に扮した田崎が接客を受ける漫才コント。昨年大会でアグレッシブな漫才を披露していた藤崎マーケット。今年も同様の離れ業に期待していたのだが、想像していたよりもずっと普通の内容で肩透かし。ただ、トキが軽妙で中身のないキャラクターを心の底から楽しんでいるような印象は残った。おそらく、本来はこういうキャラクター重視のコントをやりたい人なのだろう。でも……難しそうだなあ。

準決勝進出。

準決勝進出。