白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「冗談手帖」(2017年7月12日)

次世代を担う若手芸人を発掘するバラエティ番組。司会は放送作家鈴木おさむ、アシスタントはオスカー所属の女性タレント・曽田茉莉江。ゲストの若手芸人は「最も自信のあるネタ」と「鈴木おさむから与えられたお題をテーマにした実験ネタ」の二本を披露、それらを元に今後ブレイクするためのブレストを行っていく。

今回のゲストは漫談家・街裏ぴんく(芸歴10年目/トゥインクル・コーポレーション所属)。年間700本のお笑いライブに通っている、“ピンクおばさん”こと福田千浦からの推薦枠として登場した。ちなみに、福田が番組で芸人を推薦するのは今回で二回目で、前回は虹の黄昏を紹介していた。曰く「架空みたいな話を盛り込んで、その人の世界に引きずり込むみたいな……世界観のスゴい有るネタをしてくれる人」とのこと。

まずは「最も自信のあるネタ」、タイトルは『男の憧れ』。

「ちょっとねぇー、突然なんですけどぉー、今日はちょっとテンション高いんですよ。というのもですね、あのぉー……今日の朝、さっきですよね。……日本刀を買いましてですね……。まぁー! 男の憧れですから、やっぱり日本刀というのはね!」

「テンションが高い→日本刀を買った→男の憧れ」という我流の方程式をこちらが呑み込む間もなく、話は日本刀を購入するまでの経緯へ。しかし、そこで繰り広げられるのは、実在する地名とリアリティ溢れる描写によるベラボーな法螺話。なにせ、日本刀を購入した店の名前が、「“刃を買い占める”と書いて“刃買占(ハガイジメ)”」である。そんなバカみたいな名前の店があるわけないだろう!と、客は笑わずにいられない。その後も、店内に流れている曲が『幽遊白書』の主題歌(ハープバージョン)だったり、マイク眞木に似ているオーナーが刀が語りかけてくる話を静かに聞き続けていたり、そんなオーナーの身体を触ってみると骨が一本も無かったり……もう、ムチャクチャ。このリアリティとバカがこんがらがりながらも辛うじて整合性をとどめていた話が、終盤で一気に混沌の世界へと落っこちてしまう……のに、それに驚嘆することなく笑わせられる繊細なバランス。素晴らしかった。

続いては、鈴木おさむから与えられたお題をテーマにした実験ネタ。今回、鈴木が提示したお題は「怒り」。漫談やトークのネタのベースになりがちな感情「怒り」を、街裏ぴんくがどのように物語るのかを見たかったとのこと。しかし、当の街裏ぴんくは、このテーマを受け取って、なんとも微妙な表情を浮かべる。

街裏ぴんく「「怒り」はちょっと使わないようにしてたテーマではあるので……。大阪でやってた時は割と怒り……「こんなん腹立つんですけど……」みたいなんもやってたんですけど、なかなか東京来ては、自分の関西弁と「怒り」を足してしまうと、すごい恐く映って、全然ウケなかったんですよ。ここへきてやるっていうのは……ちょっと、そうですね……」

その後、14日間をかけて新ネタは完成。タイトルは『女芸人』。

「あのねぇー! お笑い芸人にも関わらず、笑いをまったくゴールにしていない、アイドル気取りの女芸人が多すぎる! これが僕ね、同じ芸人としてスゴいねえ、憤っとるんですね! でね、コレなんでこんな多いのかなあと思って調べたら、分かったんですよ、皆さん! 笑いをゴールにしていない女芸人を育てるための養成所があったんですよ!」

ありがちなテーマのボヤキ漫談が始まるのかと思わせておきながら、意外性のある展開へと一気に切り替えるスリリングな展開にコーフンが止まらない。ここから物語は更に加速。その養成所へと単身乗り込み、独特なテンションの校長と対面し、「「なんでやねん」と言えば笑いが起こり得るシチュエーションで「フカヒレ」と言わなくてはならない」という意味不明な授業を見させられ……どこまでも奇妙で不可思議な世界が広がっていく。しかし、このままシュールな空気のまま終わるように見せかけて、最後の最後で一気に現実へと引き戻す! ナンセンスな笑いで満たしながらも、しれっと現在のお笑い業界における問題点を放り込む姿勢がたまらなかった。

そして番組は街裏ぴんくが売れるための法則を考えるブレストへ。

番組の前半では「見れて良かった」「第二のタモリ、第二の鶴瓶」「もう今まででナンバー1ですよ」と街裏ぴんくの芸を絶賛していた鈴木おさむ。しかし、テレビで売り込むことに関しては、「街裏ぴんくさんみたいな人にはチャンスを与えにくい」「声を掛けたことで傷つけてしまう」と、今の時代には合っていないことを踏まえた上で難色を示す。そこで街裏ぴんくには、バカリズムを例にして「ライブの動員を増やす」ことを提言する。「絶対的に面白い尺があるから、まずはそこをベースにした方が(良い)」と。

更に鈴木は、初めから街裏ぴんくの漫談の見方が分かるようにしていれば、もっと多くの人に受け入れられると意見。事実、アシスタントの曽田は、一本目のネタを「店主に骨が無い!」という絶対に有り得ない場面が来るまで、半信半疑の状態で見ていたという。それを受けて、鈴木は「『すべらない話』が出来て以降、芸人さんがエピソードを話すじゃないですか。その中で、「そんなわけねーだろ!」的な話もけっこうありますよね? ていうのが今、日本人の免疫になってしまっている」とコメント。だからこそ初めに、街裏ぴんくのネタ(=芸風)の見方を知ってもらっておいた方がいいと。……まあ、その辺りの話は、圧倒的な前例と言わざるを得ないラーメンズエレキコミックと同じ事務所の彼には、分かり切っている話だったような気がしないでもない。意外とそうでもないのか。うーん。というか、そういう時代だからこそ、あえて街裏ぴんくのような芸人をテレビにぶち込むというのも一つの方法といえるのではないか……とかなんとか……。

最後に、街裏ぴんくの日常に迫る密着ドキュメンタリーパートにおいて、彼が出演しているライブの共演者として登場したAマッソによる街裏ぴんく評について。

Aマッソ・加納「スゴい褒め言葉ですけど……「何言うてんねん」っていうのを、ずっと言うてるじゃないですか。ちょっとはね、やっぱ3分ネタでも、10秒ぐらいは何言うてるか分かるところが普通の人やったらあるんですよ。でも、ずーっと(分からないまま)」「だからスゴい嫉妬するんですよ。漫才っていうのは、ツッコミがおる時点で常識人が一人混じってしまってて。でも漫談っていうのはどこまでも行けるんですよ。そんな遠いところまで行けるんや!っていう。いつも悔しくて」

そんな街裏ぴんくの独演会が2017年11月4日に開催される。

気になる人は是非。また、街裏ぴんくの漫談が、こちらのチャンネルで視聴可能。その危うげで奇妙な世界の漫談をお楽しみください。