白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ナイツ独演会 この山吹色の下着」(2017年2月15日)

2016年11月から12月にかけて全国5ヶ所を巡ったライブツアーより、神奈川県・横浜にぎわい座での公演を収録。年に一度、国立演芸場で開催されていた「ナイツ独演会」による初めての全国ツアーである。とはいえ、既に現代を代表する漫才師の一組として、全国的にその名を轟かせているコンビであるナイツは、その緊張や感慨深さを微塵も見せることなく、これまでと寸分違わぬ自由奔放なステージを展開している。

「ナイツ独演会」には欠かせない漫談家中津川弦による前説に始まり、2016年に不祥事を起こした有名人たちの名前にとある共通点があることが発覚する『2016年をヤホーで調べました』、ジャニーズ事務所とウラで繋がっている漫才協会で副会長を務めている塙がSMAP解散騒動の真実を明らかにする……?『塙鷹の真相暴き』、2016年に亡くなった人たちに関するエピソードを寂しさと笑いとともにお送りする『追悼漫才』など、彼らならではの多種多様かつ大胆不敵な漫才で会場中を爆笑の渦に巻き込んでいる。

とりわけ『急げ!土屋』のバカバカしさには笑った。テレビでネタを披露させてもらえる時間はとても短いので、一つでもボケの数を増やすために少しでもセンターマイクに辿り着くまでの時間を短くしたいという塙が、様々な方法でタイムを縮めようとする、ただそれだけのネタである。基本的には、通常の漫才では有り得ない小道具を舞台上へ持ち出している、視覚的な面白さによるネタとなっている。しかし、そのシンプルな笑いの奥には、定められた短い時間の中でネタを演じさせようとする、メディアや賞レースに対する皮肉が垣間見える。そして、とにかく時間を縮めることに偏執的にこだわっている塙の狂乱ぶりは、そんなメディアや賞レースに踊らされている芸人の醜態そのもの……のような気がしないでもない。

また、笑いというよりも、試みとして面白いと感じたのは『ワンマンナイツ』。ナイツの二人が別々に登場し、一本の漫才を複数のパターンで見せるという不可思議な構成のネタで、笑うと同時にこれまでに見たことのない奇妙な何かを見させられているような感覚に陥った。彼らが「2355」(Eテレ)という番組の中で“一人ナイツ(塙と土屋がそれぞれ相方のいない状態で漫才をしている姿を撮影して観るものの想像力を刺激するコーナー)”を担当していることは以前から知っていたが、それともまた違っていて、私もどのように説明すればいいのかまったく分からない。ただ、分からないけれども、なんだか妙に面白いのである。細かい状況を説明すると面白味が薄れるタイプのネタだと思うので、気になる方は各自で確認してもらいたい。

特典映像は、初の全国ツアーを敢行したナイツのバックステージでの模様を収録した、「Documentary of ナイツ独演会 この山吹色の下着」。中津川弦に熟女ランキングを発表させたり、サプライズで日本エレキテル連合橋本小雪の誕生日を祝ったり、なかなかに楽しそうな姿も収められていたのだが、もうちょっとプライベートな部分が垣間見える内容だったら良かったのに……と、少しだけ思ってしまった。恐らく、同じく全国ツアーを展開している、サンドウィッチマンの特典映像に慣れてしまっているが故に芽生えた感情だろう。あれと同じ密度の内容を他の芸人に求めてはいけない。

「ヤホー漫才」のヒット以来、様々な漫才のフォーマットを生み出し続けているナイツ。これから先も、多くの人たちに愛されながらも、しれっと更なる深みを目指して漫才という名の深みを目指していくのだろう。今年の独演会ではどんな鉱脈を見せてくれるのか、今から楽しみである。

■本編【91分】

「2016年をヤホーで調べました」「リオの戦リオ品」「塙鷹の真相暴き」「ワンマンナイツ」「追悼漫才」「解散の予感」「急げ!土屋」「ピンク」「漫才協会ラップ」

■特典映像【20分】

「Documentary of ナイツ独演会 この山吹色の下着」