白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ウルトラマン落語」(2016年10月26日)

ウルトラマン落語 [DVD]

ウルトラマン落語 [DVD]

 

ウルトラマン』放送開始から50年目にあたる2016年7月10日に行われたイベント「ウルトラマンの日 in 杉並公会堂」において演じられた、ウルトラマン好きで知られる落語家・柳家喬太郎柳家喬之助による“ウルトラマン落語”を収録。情感のこもった話術とほのかな色気を兼ね備えた喬太郎師匠のDVDならば買わないわけにはいかないだろう、と意気込んで購入したのはいいが、そのあまりにも濃厚なウルトラネタの連発に、特撮の知識を全く持ち合わせていない私はすぐさま轟沈してしまった。いやはや、これは私の準備不足であったといわざるを得ない。ウルトラマンのイベントでウルトラマン好きな落語家が、ウルトラマンをテーマにした落語を披露しているというのだから、その内容は当然のようにマニアックであると予想すべきだったのであった。

……とはいえ、それを考慮したとしても、ネタの密度が高すぎる。落語の設定だけでも濃厚なのに、そこへ小ネタを大量にぶち込んでいるから、もう何がなんだか分からない。かろうじて『抜けガヴァドン』(喬太郎)は理解できた。特殊な宇宙線と太陽光線の作用によって落書きが怪獣ガヴァドンとなってしまうエピソード「恐怖の宇宙線」に、古典落語の名作『抜け雀』を絡めることで、元となっている落語との差異を楽しむことが出来た。問題は、ここから。南米の日系人たちによる独立国・ピグモニアン王国から来たウルトラマン好きの国王がとある夫婦を救うために奮起する『ふたりのウルトラ』(喬之助)になると、いきなり、「バモラムーチョ」だの、「スペシウムゼペリオンみたいになってきた」だの、「ばか!嘘つき!ヤプール人!」だのという言葉が当たり前のように飛び出して、さっぱり分からない。とはいえ、基本的なストーリーはウルトラセブンを主題とした人情モノなので、ここはまだなんとか理解することが出来るのだ。

一番の問題は、この日がネタおろしだったという『ウルトラの郷』(喬太郎)。還暦を迎えた面々によるクラス会で、お互いをかつてのようにウルトラ怪獣の名前で呼び合うシーンから始まるのだが、ジェロニモンジャミラレッドキングなどの有名どころはまだ分かるにしても、キーラ、アントラーベムラー、サイゴに関してはさっぱり分からない。また、これらの怪獣にまつわるエピソードが、その後のギャグに多用されているので、いよいよもって分からない。もしも、本作に初心者向けの解説書が封入されていなければ、本当に何がなにやら分からないまま、本編の鑑賞を終えることになってしまっていただろう。

と、そういうわけで、ウルトラファン以外にはあんまりオススメできない本作なのだが、それでも一度は見てもらいたいという気持ちもある。というのも、本作がウルトラマンに対する愛で満ち溢れ、その気持ちがしっかりと具現化されている作品だからだ。例えば、喬太郎の『抜けガヴァドン』を演じるときの着物はウルトラマン柄になっているし、出囃子はウルトラマンに関する楽曲が演奏されているし(いの一番にあの曲が流れたときは、詳しくない私でも思わずひき笑いしてしまった)、あの怪獣が高座返しをしてくれているし、なにより二人のマクラでのウルトラ熱が本当に熱い。そんな二人の気持ちに対し、観客も反応しているらしく(映像には出ないが)、感極まった喬太郎、思わず客席に向かって「川崎行くか、川崎!」。そんな二人の楽しそうな姿を目の当たりにして、なんとなく興味を持って、うっかりレンタルショップでウルトラマンのDVDを借りそうになったりすればいいのではないかと。奇しくも2016年は『シン・ジラース』……じゃなくて『シン・ゴジラ』が大ヒットを飛ばした特撮の当たり年でもある。今年は日本を代表する特撮キャラに浸りながら、のんべんだらりと残り二か月を過ごすのも悪くないのではないだろうか。……あ、私はお笑いのDVD観なくちゃいけないので、出来ません。あしからず。

なお、特典映像には、こんな二人のアフタートークを収録。「桑田次郎テイストのウルトラセブン」「ウルトラスラッシュじゃなくて八つ裂き光輪」「チビラくんの舞台になった百窓」など、こちらもかなりコアなワードが繰り広げられている。いやー、本当に解説書がないと、さっぱり分からないなあ。でも、楽しいなあ。

■本編【83分】

柳家喬太郎「抜けガヴァドン

柳家喬之助「ふたりのウルトラ」

柳家喬太郎「ウルトラの郷」

 

■特典映像【7分】

「アフタートーク