白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ハリウッドザコシショウのものまね100連発ライブ!」(2016年7月6日)

2016年4月27日に新宿シアターモリエールで開催されたライブを収録。

ここ数日、毎日のように映画を鑑賞していた。なんとなしにレンタルショップで借りたヒッチコック監督による幾つかの作品に感動、興奮冷めやらぬままにブルーレイボックスを購入し、それらを消化していたのである。『サイコ』『北北西に進路を取れ』『めまい』『裏窓』などの有名作はレンタルで既に鑑賞済だったため、比較的マイナーな作品を中心に観ることとなった。正直、有名作と比べると、カメラワークや編集が平凡にも思えたが、それでも大衆向け映画としては十二分に魅力的で、大いに楽しんだ。とりわけ、晩年の作品である『フレンジー』『ファミリー・プロット』は、それぞれ独特の輝きを放った作品になっていて、非常に面白かった。

全十六本の作品を鑑賞し終え、溢れ出んばかりの満足感に浸っていると、今度は芸人のパフォーマンスへの欲求が高まってきた。何事もバランスである。辛い料理を食べた後には甘いスイーツを口にしたくなるように、緊張感の張りつめたサスペンス映画を観終えた後には意味も中身もない笑いが見たくなるものだ。とはいえ、洗練されたドラマをこれでもかと平らげた後に、並大抵の漫才やコントでは満足できるわけがない。そこで手に取ったのが、「R-1ぐらんぷり2016」王者のパフォーマンスを存分に堪能できる本作である。唯一無二のピン芸人ハリウッドザコシショウによる珠玉のものまね芸百連発ライブ。購入した直後に大笑いしながら鑑賞した本作だが、今回も当時とまったく変わることなく、純粋に楽しむことが出来た。

ハリウッドザコシショウのものまねといえば、一般的には有名人を対象としたものが知られているように思う。彼の十八番である「古畑任三郎」を筆頭に、「キンタロー。」「恥も外聞もなくオリラジのマネをあえてやる」「誇張しすぎたザキヤマ」「誇張しすぎた今でしょ!?」「誇張しすぎたジャパネットたかた」などの人物ものまねは、テレビで一度は見かけたことがあるだろう。だが、本編で披露されているものまねを見ると、彼のネタの対象はもっと広大であることが分かる。「アニメ キン肉マンのCMいく所」「バードマンのコケ方」「怪物くんの各話タイトルのところ」などのアニメネタ、「佐々木健介のだせえインタビュー」「ボコられる直前の橋本真也」「女子プロレスラー イーグル沢井」などのプロレスネタなどなど……。

とりわけ、印象に残っているのは、テレビゲーム関連のネタである。「ファミコン スパルタンXの死ぬところ」に代表されるゲームの死ぬシーンシリーズに始まり、「ファミコン カラテカのお辞儀」「ファミコン ドラクエⅠの歩き方」「ファミコン がんばれゴエモンの店の店員」のように、異常に細かいところを突いている。しかも、これが似ている。音のニュアンスや動作を全力で完コピしているのである。それなのに、ザコシの世界観をまったくジャマしていない。あの、強烈で衝撃的な芸能人たちのものまねと、まったく違和感無く混ざり合っている。その様子を眺めていて、私の中に一つの推論が浮かんできた。

ザコシのものまねは、一見するとまったく似ていない。元ネタとは似ても似つかない、単なる悪ふざけの様でもある。だが、よくよく観察してみると、微かに元ネタの要素を含んでいる。この僅かな繋がりが、ザコシのパフォーマンスを、かろうじて「ものまね」というジャンルに留めている。ここが大事なのだ。近年のものまね芸は、ただ単純に対象を写実的に再現する芸とはなっていない。ここ数年の例を見ても、演歌歌手がバイクになったり、ロボットになったり、ものまねに演出を加えることで写実を超越した独創的な世界観を構築している。いわばザコシは、この流れを踏襲しているといえる。基となるものまね芸にザコシは独自の演出を施し、それを自らの芸とした上で披露しているのである。その演出法に、ファミコンが用いられているのではないだろうか。

まるで実写かと見間違えてしまうほどにリアルな映像を作り出せるようになった昨今のテレビゲームに対し、ファミコンで再現できる映像は本当に限られている。今でこそ、私たちはマリオやピーチ姫などのキャラクターの姿かたちを認識できているが、もしも彼らをファミコンドット絵だけで認識した場合、作り手が思い描いているキャラクターそのままの姿を読み取ることが出来ただろうか。恐らく、余程の想像力を持っている人でなければ、難しい。ザコシのものまねも、そうではないか。ファミコンが容量的に可能な表現ギリギリを突いているように、ザコシもまた、容量的に可能な表現ギリギリを突いている(ように見せている)のである。そう考えると、あの機械的なほどに繰り返されるものまねもまた、プログラマーによってインプットされた通りの動きをみせるファミコンのキャラクターのように思えてくる。キンタロー。も、オリラジも、ザキヤマも、全てはハリウッドザコシショウという名のファミコンソフトによって再現されているキャラクターなのだ……。

と、ここまで書いておいてなんなんだが、私が最も笑ったのはこれら本編のものまねではなく、特典映像の「第4回 喚き-1 GP」で披露されたザコシショウの喚きである。松本りんす(だーりんず)、井上二郎(チャーミング)、ウメ、野沢ダイブ禁止(虹の黄昏)などといったそうそうたるメンバーによる喚きもサイコーだったのだが、とりわけザコシの喚きは圧倒的に狂っていて、どういう発想からこれを演じるに至ったのかと頭を抱えながら大笑いした。オードリーが「ズレ漫才」を演じたように、ナイツが「ヤホー漫才」を演じたように、ザコシショウもまた、その強烈過ぎる個性を世間に向ける商品にするためにものまねをやっているのかもしれない。いつかその深淵をテレビで見せてもらえる日が来るのだろうか。……難しいか(放送コード的に)。

■本編【98分】

ハリウッドザコシショウのものまね100連発ライブ!」

アシュラマン漫談」「古畑漫談」

 

■音声特典

ハリウッドザコシショウ・キャプテン渡辺・錦鯉によるコメンタリー」

 

■特典映像【130分】

「第4回 喚き-1 GP」

ハリウッドザコシショウのゲロ喜利 DVDver.」

ハリウッドザコシショウのRunner」

「ものまね100連発ライブ! キャプテン渡辺・錦鯉 トーク

(以下は動画チャンネル「ザコシの動画でポン!」より)

ハリウッドザコシショウのだーじーだぁ」

「緊急企画!!ハリウッドザコシショウのハゲとるやないかい」

「コント政見放送 狂井益男」

「第1~3回 喚き-1 GP」