白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「タイタンシネマライブ」(2016年8月26日)

「タイタンシネマライブ」を観に行ってきた。

タイタンシネマライブとは、爆笑問題を筆頭とする芸能事務所・タイタンによる事務所ライブの模様を、全国のTOHOシネマズ映画館で同時生中継するイベントの名称である。およそ二か月に一度のペースで開催されており、今回で42回目になるという。地方の片隅でお笑いを叫んでいる身としては、このような地方のお笑いファンを救済するような試みにはいたく共感していた。しかし、俺はこれまで一度も、この素晴らしきイベントを観に行くことが出来なかった。いや、行こうと思えば行けたのだが、なかなか踏み切るまでに至らなかったのである。

先程、“全国のTOHOシネマズ映画館”と説明したが、これは現状において正確とはいえない。全国に点在しているTOHOシネマズ映画館のうち、タイタンシネマライブの上映が行われているのは、ほんの13館だけだからだ。その選ばれし13の映画館のうち、俺の自宅から現実的に出かけることが可能なのは「TOHOシネマズ高知」のみ。現実的に可能といえども、距離にして100km以上は離れている。高速道路を利用しても、移動には最低でも1時間を要することになる。……これだけならば大した問題ではない。より重要なのは、タイタンシネマライブが基本的に金曜日に開催されているという点である。つまり、平日の通常業務を終え、疲労困憊の状態で一時間かけて移動しなくてはならないのだ。……いや、これもまだ、大した問題ではない。ただ、これにタイタンシネマライブが午後七時半に開始するという情報が加わると、一気にハードルが高くなる。仕事が定時に終わってしまえば何も問題はないのだが、もしも迂闊に作業を残してしまい、残業するような事態に陥ってしまえば……。

それでも今回、鑑賞に踏み切ったのは、単なる気まぐれによるものである。気まぐれ万歳!

午後五時半、仕事場を出発。自宅に戻ることなく、直接現地に急行する。移動には当初の予定通りに高速道路を利用。休日割引がつかないことへの恐怖心に揺さぶられながら、アクセルを深く踏みしめる。BGMは先日放送された『おぎやはぎのめがねびいき』。スペシャルウィークのゲストとしてアルコ&ピースを招待し、料理に最も合う最高の調味料を探索するという不可思議な企画を敢行していた。四人がタイトルコールで盛り上がっているところで高知市に到着。インターチェンジを降りると、1,700円と表示され、思わずおののいてしまった。普段は1,000円を超えない範囲で行動しているためである。感性がどうも小市民的だ。

TOHOシネマズ高知は高知インターチェンジを降りて、恐らく十分も経たない場所に佇んでいる「イオンモール高知」の中に存在する。夕刻ということもあり、国道は些か混み合ってはいたものの、さほど時間をかけずにモールへ入場、駐車場に車を停めることが出来た。ただ、うっかり映画館とは逆方向に車を停めてしまったため、幾らか歩かされることになったが。数々の専門店が居並ぶ中を、微塵も興味を示すことなく、真っ直ぐに映画館へと向かう。イオンモール高知は、一階と二階が店舗で、三階の一部が映画館になっている。今回、車を停めたのは四階だったので、まず四階から二階に移動して、フロアを闊歩し、然るべきエスカレーターを使って二階から三階へと移動した。なんだかとてもややこしいのは、きっとテロ対策のためだろう。違うか。

TOHOシネマズのチケット売り場は自動販売機になっていた。観たい映画、時間帯、座席の位置などをタッチパネルで入力する。ありとあらゆる場面において人件費が削られまくっている時勢ではあるが、ことエンターテインメントに関する事象でそれを目の当たりにすると、なんだか複雑な気持ちになってしまう。座席表を見ると、随分と空席があるようだった。売れていないのか。売れていないのだろうな。世の中には「お笑いを観るために遠征する」という行為を理解できない人間だって存在するのだ。遠征ほどハードルは高くないが、「お笑いを映画館で観賞する」なんて特殊な行為に及ぶ人間はそうそういないだろう。無事にチケットを購入したところで、グッズ販売のコーナーへ移動する。先日、地元で観賞した『シン・ゴジラ』のパンフレットの有無を確認するためである。当時、鑑賞した映画館では、売り切れになっていたのだ。レジの後ろにズラリと並んだパンフレット群の中に『シン・ゴジラ』のパンフを発見、即座に並ぼうとしたところで困惑した。レジカウンターとグッズを置いている棚の距離が二人分ほどのスペースしかなかったので、レジの前に出来ている列と棚を見ているお客さんの区別がつかなくなっていたのである。しかも、カウンターにはレジが二台設置されており、その前を三人以上の人間がゴチャゴチャを揺らいでいる。ここまで並ぶ客のことを配慮しないレジを見たのは初めてのことだった。結局、しばらく右往左往しているうちにレジが空いたので、無事に購入出来たのだが。

ここで夕飯を食べていなかったことを思い出し、一階のレストラン街へ移動する。色々なお店が並んでいたが、スピード性を考慮して徳島ラーメンのお店「ラーメン東大」をチョイスする。カウンター席に座ると、そこには大量のタマゴが。ラーメンに入れろということだろうか。待っている間は無料サービスのもやしを食べる。赤い色をしているので想像はしていたのだが、かなり辛い。最初の一口では旨味を感じるのに、それをすぐさま辛さが飛び越えてくる。ほどなくしてラーメンが到着。同時に、タマゴは無料サービスとの説明を受ける。ならば、このタマゴを全てラーメンにブチこんだとしても、文句は言われないのだろうか……というようなことを考える。少し気持ちが焦っていたのか、ラーメンをすすった際に口の中を火傷した。上顎の皮がベロベロだ。食後、汗が止まらなくなったので、カバンからハンカチを取り出……そうとするも、忘れたことに気が付く。しまった。うっかり会社のロッカーに忘れてきてしまった。いや、確か車にタオルが置いてあるから、それを取りに行けば問題はない。だが、今から車まで戻って、また映画館に帰って来る時間があるだろうか。しばらく考えた末、ヴィレッジ・ヴァンガードでタオルを購入。首にタオルを巻いたまま、鑑賞するに至った。

客席につくと、上映前の数分間にタイタン所属の若手芸人たちによるネタが流されるコーナー「このあとシネマライブ」が。グリーンマンション、松尾アトム前派出所、ネコニスズがパフォーマンスを行っていた。ネコニスズはネタ次第でハネそうな予感(円周率のネタをやっていた)。

午後七時半、開演。

瞬間メタル「男のショートコント」

ゆりありく「コント:訪問販売」

ゲスト:パペットマペットリオ五輪の安倍マリオ」

ミヤシタガク「巨大生物の襲来」

シティホテル3号室「第二の柳川淳二オーディション」

日本エレキテル連合「ひきこもり」

脳みそ夫カーネル・サンダースの娘」

ウエストランド「漫才:結婚の良さ」

長井秀和「人気グループの解散」

ゲスト:新宿カウボーイ「診察」

ゲスト:なすなかにし「新しい遊び・静かな湖畔」

ゲスト:ロッチ「透視能力」

ゲスト:BOOMER&プリンプリン「山下清

爆笑問題リオ五輪SMAP解散・高畑裕太・小倉優子

(ネタ順は不確かです)

午後九時四十五分ごろ、閉演。

面白かった。ゆりありくがコントをやったり、パペットマペットがショートコントではなく漫才めいたネタをやったり、ミヤシタガクが『シン・ゴジラ』をモチーフとしたコントをやったり、日エ連が相変わらず圧倒的にどうかしていたり、脳みそ夫がシンプルかつポップな芸風を可愛げあるビジュアルでほのぼのこなしたり、ウエストランドが俺たちの気持ちを全て惜しげなく代弁してくれたり、長井秀和が某宗教団体と某トイレの落書きを全身全霊でバカにしたりで、最前線のお笑いの一片を見せてもらえたような気がした。好きだったのはミヤシタガクだけど、めちゃくちゃ笑ったのはウエストランドと新宿カウボーイだったかな。どちらも振り切った瞬間の風速がえげつない。そして、やはり安定の爆笑問題。今朝、会見をしたばかりの高畑淳子の件について触れるあたりに、時事ネタ漫才師としての矜持を感じさせられた。エンディングトークでは、後輩芸人のヘンテコな動きモノマネを見ていた太田が「お前ら、ラーメンズになりたいの?」というようなことを言っていて、不覚にも少しテンションが上がってしまった。

鑑賞後、イオン内の書店で『鬱ごはん 2』(施川ユウキ)を購入。イオンを出てからは、せっかく高知に来たからと“ひろめ市場”に出向くも大半の店舗が閉店だったためそそくさと退却、高速代の恐怖から南国インターチェンジ(高知インターの一つ手前のインター)から高速道に入り、自宅へと向かったのであった。次はもういっそ泊まりで……とは、なかなかいかんよなあ。