白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

大阪旅行の覚書・初日

お盆休みを利用して、大阪へ出かけることにした。

 

否、この表現は正確とはいえない。本当の目的は、小林賢太郎ラーメンズ)の新たなるプロジェクト“KAJALLA”によるコントライブ「大人たるもの」大阪公演(八月三日~十四日)の鑑賞である。但し、十二日間に及ぶ興業の中で、あえてお盆の時期に合わせたことには違いないので、「お盆休みを利用して……」という表現は間違っているというわけでもない。……まあ、どうでも良いことだが。鑑賞するのは八月十三日(土曜日)の昼公演だ。前売り券の抽選に参加する段階では、まだお盆休みをどれほど取れるのかが分かっていなかったため、万が一に備えて土日の公演を中心に選んだためである。結果として、十一日から十六日までがお盆休みになったので、公演前日の十二日(金曜日)に大阪へ向かい、公演翌日の十四日(日曜日)に自宅へ戻るスケジュールを組んだ。他にも面白そうなイベントがあれば顔を出してみようと思い、様々な情報を漁っていると、十二日に2丁拳銃の百分間ノンストップ漫才ライブ『百式』の大阪公演が開催されるとのことだったので、それのチケットも購入した。

 

そして迎えた八月十二日。目覚まし時計で合わせておいたとおり、午前七時四十分ごろに目覚める。しかし、自宅から高速バス乗り場までの移動時間を思えば、もう少し早い時刻に設定しておくべきだったのではないか……と、早々に後悔し始める。とはいえ、支度は既に済ませておいたので、これといってやらなくてはならないことはなかったのだが。諸々の用意を済ませ、午前八時十五分に家を出た。高速バス乗り場までは十年来の付き合いになる愛車を走らせる。BGMはウカスカジーの『Tシャツと私たち』。休暇に相応しい軽快なトーンが適している。途中、コンビニに立ち寄り、三角のサンドウィッチを二パック購入。本日の朝食である。前日に購入して冷蔵庫で冷やしておいた強炭酸のコーラで一気に流し込むと、じんわりとした腹痛が。カフェインの利尿効果のせいだろうか。少しだけアクセルを強めに踏みしめて、高速バス乗り場に到着したのが午前九時。三十分後のバスの発車時刻まで、トイレを行ったり来たりして過ごした。

 

やがて迎えのバスが到着。お腹の具合もなんとか落ち着き、うっかり乗り遅れてしまいそうになるというようなトラブルもなく出発。移動中はスマホで録音したばかりの『岡村隆史オールナイトニッポン』(八月十二日放送)を聴いていた。『めちゃイケ』に山本圭壱が出演してから初めての放送だったので(先週は何故か『ももいろクローバーZオールナイトニッポン』が放送された。ももクロは好きなアイドルユニットではあるが、このニッポン放送の間の悪さは遺憾である)、それに関連した話題が出るのではないかと想定して録音したのだが、番組中の話題はほぼオリンピックに関するものだった。それなりに楽しい放送ではあったが、聴き終わってすぐにデータを消去。淡路島のパーキングで休憩、売店で空腹になった時のためのブドウ味のグミを買う。バスに戻ると、前の席の若い女性が唐揚げを食べていて、臭いが少し気になった。密閉された空間にホットスナックは宜しくない。

 

午後一時を過ぎたころ、大阪駅で降車。今回の旅行で利用するカプセルホテル「カプセル・イン大阪」へと向かう。なんでも、この「カプセル・イン大阪」は、世界で初めて作られたカプセルホテルなのだという。建築家として知られる黒川紀章氏が設計し、何度も改良を重ねて作られたのだそうだ。チェックインの予定時刻を少し過ぎていたので、早歩きで移動する。ホテルはバスの停留所から幾分か離れたところにあった。繁華街のド真ん中という立地が味わい深い。中に入ると、「今日はテレビのカメラが入ります」という注意書きが目に飛び込んでくる。後でスタッフに確認したところ、大阪ローカルで放送されるカプセルホテル利用者のドキュメンタリーの撮影だったらしい(NHKの『ドキュメント72時間』みたいなものか?)。ホテルの一階は入浴施設で、フロントは四階にある。移動にはエレベーターを利用した。靴を鍵付きの靴箱に入れてチェックイン。連泊する予定だったので、二泊分の金額を一度に支払う。このまますぐに外出するつもりだったのだが、初めて泊まる場所なので、ちょっとだけ中を見学に行く。システムの分からない施設を縦横無尽に闊歩することもまた、旅行の楽しみの一つだ。荷物をロッカーに放り込み、自分が入る予定のカプセルへ向かう。すると、その途中にある自販機コーナーの近くで、外国人客を取材しているテレビクルーと遭遇。ちょうど通り道を塞ぐかたちになっていたので、通路が開かれるのを待っているフリをして撮影の様子をじっくりと眺めていよう……と思っていたのだが、近くにいたホテルのスタッフに「ご案内します!」と手を引かれ、取材しているところを強引に抜ける。

 

仕方がないので、そのまま自分が泊まる予定のカプセルへと向かうが、そこにはまだシーツや枕を準備している最中の従業員の姿が。急かしているような感じになるのも気が引けるので、そのままUターン……するつもりだったのだが、まだ先程のテレビクルーがいるかもしれないことに気付き、身動きがとれなくなる。前門の準備スタッフ、後門のテレビクルーだ。仕方がないので、早めに準備を済ませてもらい、カプセルの中に入ってみることに。時計、テレビ、ラジオ、換気扇、コンセントの存在を確認。なかなか充実している。通常のカプセルではなくワイドカプセルで予約したので、空間に余裕があるのも嬉しい。マットもふかふかだ。館内着はバスローブ。サイズ大きめなのが太っている自分には有難いが、パンツの貸し出しはないらしい。館内の自動販売機は全てお金に対応しており、小銭がないと利用できないのは少し不便に感じた。

 

おおよそ内実を確認できたところで、ホテルを出る。地下鉄でなんばへ向かい、タワーレコードや中古CDショップのmint recordを覗いて回る。サニーデイ・サービスの新譜が評判なので、少し気になった(同じ香川県出身なので、ちょっとだけ思い入れがあるのだ)。そこから少しずつ、歩みは今日の目的地である心斎橋へ。途中、以前にも訪れたことのある“三豊麺”へ。昼食である。つけ麺の特盛(750グラム)を注文する。直後、流石に食べきれないのではないかと不安に駆られたが、驚くほどにあっさりと完食。750グラムというとけっこうな量だったような気がしたのだが。

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人がごった返している道頓堀を抜け、そのまま真っ直ぐ歩き続けると、老舗百貨店の大丸心斎橋店・北館が見えてくる。大丸心斎橋店・北館の十四階には「大丸心斎橋劇場」があり、頻繁によしもとの芸人によるライブ・イベントが開催されている。「M-1グランプリ2016」の予選会場にも使われているらしい(観に来たことはないが)。そんな場所で、今日は2丁拳銃百式』が開催されるわけだ。

 

しかし、まだ予定の時刻まで余裕があったので、しばらく近辺をウロウロすることに。アメリカ村の楽器店でも物色しようかと思ったのだが、タトゥーを入れている人やモヒカンヘアーの人が醸し出すマッドマックス感に気圧され、妥協する(そもそも何か買う予定もなかったし)。そんな折に、見慣れた看板を発見する。“コメダ珈琲店”だ。歩き回って身体中の水分が失われている今の状態では、まさに渡りに船である。店内に入ると、たくさんの人で溢れ返っていた。皆、外気にやられ、涼しさを求めてきたのだろうか。席を案内され、メニューを見る。アイスコーヒーでも頼むつもりだったのだが、かき氷フェアを開催していると知り、「コーヒーミルク&ソフト氷」なるものを注文する。数分後、とんでもないボリュームのかき氷がやってくる。コメダ珈琲店が、料理のボリュームが凄いことで知られているチェーン店だということを、すっかり忘れていた。とはいえ、氷を減らしてもらうわけにはいかないし、残すというのも勿体無い。仕方がないので全て食べてしまうことに。一口目は甘い。甘くて、冷たくて、とても幸せだ。だが、また一口、また一口と食べていくうちに、だんだんと口の中が北極のように冷たくなっていく。しかし、負けてはならぬと食べ続けている。すると、隣のテーブルの会話が、聞き耳を立てるでもなく聞こえてきた。「拾ってきた猫が今、おなかを壊してグチョグチョのウ○コを……」。なんという話を喫茶店で展開しているのだ。目前の薄茶色の氷の山がだんだんと別のモノに見えてきたが、挫けずに食べ続ける。なんとか完食して店を出た頃には、もう何処にも立ち寄る元気がなくなってしまったので、とっとと大丸心斎橋劇場へ向かうことにした。

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大丸心斎橋劇場の入り口前に到着したのは、午後五時を回ったところ。同じ階でホラー系のイベントをやっていたため、はしゃいでいる若者の姿をやたら目にした。午後六時の開場まで、トイレを行ったり来たり。……元々、プレッシャーには弱い方だが、それにしても今日はトイレに行きすぎだ。そんなこんなで一時間が経ち、開場。チケットをもぎってもらい、指定の席に座る。C列の5番。前から三番目という好ポジションだ。舞台には一本のセンターマイク、そして舞台奥には大きく「百式」と書かれたボードが貼り付けられている。学生時代、初めて購入した漫才ライブDVDが『百式(2003年の公演)』だった俺にとって、2丁拳銃は漫才の試金石のような存在だった。2丁拳銃という基準の元、その漫才師の個性を探った。それほどに、2丁拳銃の漫才は安定していたし、間違いなかった。

 

十八時半、開演。

 

全国ツアーの初日ということもあってか、全体的にまとまりの感じられない公演だった。良いように言えば「実験的」、悪いように言えば「詰めが甘い」。とはいえ、笑わせるところはしっかりと笑わせており、やはりそこは間違いないように感じた。この全体に漂うゆるゆる加減が、回を重ねていくことで完成体になっていくのだろう。ただ、少し気になったのは、本来ならばツッコミ役の川谷がボケを担当するくだりが多かった点だ。解散する直前のハリガネロックみたいになってしまうのではないかと、少し心配になってしまった。ただ、最も笑ったのは、そんな川谷がボケを担当する『ランキングの8位を聞いただけで、小堀が何のランキングなのかを当ててしまう』という漫才。ランキングの8位を聞かされた小堀が何のランキングかを答えた後で、川谷がそのランキングの1位を言わなくてはならない(いわば大オチを任せられている)構成になっていて、とても面白かった。ことによると、「丁度ええ」以来のヒットになるかもしれない。終演後のトークでは、小堀が自身のホームページであるものを売るかもしれないという話で盛り上がる(一応、まだハッキリと決まっているわけではないので、ここでは伏せておく)。楽しみに待っていよう。

 

会場を出て、記念に物販でピンバッチ(200円)を購入。グッズ購入者との撮影会があったらしいのだが(アイドルじゃないんだから)、疲労感に耐え切れず、そのままの勢いで劇場を飛び出し、地下鉄に飛び乗り、ホテルの近くまで戻ってくる。と、ここで夕飯を食べていないことに気付く。今はさほど空腹ではないが、寝ているときにお腹が空くという事態は避けたいため、ホテルのすぐ近くにある“一蘭”へ行くことに。正直、他の店でも良かったのだが、大阪へ出かける前に、友人から「貴様、金龍ラーメンなんか行ってるのか! あんなもんは食いモンじゃねえ! 一蘭だ! 一蘭へ行け!」と暴言レベルに薦められたので、半ば仕方なしに選択したのである。ところが、店の前まで行ってみると、かなりの行列が。時刻は午後九時を過ぎたところ。こんな時間にラーメンなんか食べに来るんじゃない!(自らを棚に上げる素敵なスタンス) 他の店を探す気力もなかったので、三十分ほど並んで衝立のあるカウンター席へ。この一蘭独特のカウンター、名称を「味集中カウンター」というらしい。……俺はフランス料理でも食べに来たのだろうか。味は普通だった。うーむ……三豊麺とかき氷で舌がバカになってしまっている可能性も否定できないが……。

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午後十時、ホテルに戻る。靴箱の前には、昼間に見かけたテレビクルーが。まだ撮影していたのか。メディアの仕事というのも大変そうだ。汗まみれの服をロッカーに押し込み、バスローブに着替え、一階の入浴施設へ。受付で大浴場用ロッカーの鍵を受け取り、バスローブと自前のパンツをロッカーに詰め、代わりにサウナパンツ(という名のトランクス型布パンツ)を履いて、大浴場へ。手前がサウナと温水プールになっており、その奥へ進むと洗い場がある。ここでパンツを脱ぎ捨て(こんなにすぐに脱ぐのであれば、パンツを履く必要などなかったのではあるまいか)、頭と身体を洗う。トニックシャンプーとボディソープが気持ちいい。垢と泡を洗い流して、湯船でじっくり身体を温める。風呂を出たら、手ぬぐいタオルで身体中の水分を拭いて、再びサウナパンツを装着。大浴場用ロッカーでバスローブと自前のパンツを回収し、サウナパンツを脱ぎ捨てる。パンツを脱いだり履いたり忙しい。カプセルに戻り、今日の出来事を手帳に記録する。

 

午前零時、就寝。