白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ナイツ独演会 顎を引いて頑張れ。」(2016年1月27日)

2015年11月14日・15日に国立演芸場で開催された独演会の模様を収録。

年に一度のペースで開催されている【ナイツ独演会】の2015年版だ。昨年の独演会「一寸の気晴らし」が何故かソフト化されなかったため、パッケージ版としてはおよそ二年ぶりの登場となる。聞くところによると、ゲストに「チョコレートプラネット」「平野ノラ」「野性爆弾」「与座よしあき」らを招いていたということなので、そちらにも期待を寄せていた……のだが、今回、彼らのパフォーマンスは未収録。【ナイツ独演会】といえば、通常の単独ライブとは異なり、合間でナイツと親交のあるゲストがパフォーマンスを披露するところも魅力の一つだったので、この対応は非常に残念である。

とはいえ、漫才のクオリティは相変わらずの高水準。勘違いに勘違いを重ねながら2015年の事件を振り返ったり、頭に謎のチップを埋め込まれた塙が普段なら絶対にやらないギャグを連発したり(スペシャルサンクスに流れ星・瀧上の名前があったのは、きっとこのネタのためなのだろう)、塙が某『怒り新党』のナレーションを思わせる語り口で始めた演説の内容が明らかに某漫才師の鬼嫁のエピソードだったり、土屋が歌い上げる吉幾三の名曲『俺ら東京さ行ぐだ』の歌詞に対して塙がムチャクチャなツッコミを挟んだり、どれもこれもやりたいホーダイやっているのに、メチャクチャ面白い。一部、前作『二人対談』(※2014年の独演会後、浅草東洋館で行われた漫才ライブを収録した作品)を思わせるネタもあったが、いずれもしっかりと磨きが掛けられていて、漫才師としての円熟を感じさせられた。

特に笑ったのが『漫才「シモドローム」』。塙が土屋に対して「以前に比べてプライベートでまったくツッコんでくれなくなった」とクレームを入れるのだが、その内容が明らかに漫才におけるツッコミではない別の何かを示唆している……というネタである。まあ、タイトルを見ても分かるように、とても安直な下ネタなのだが、その内容がとにかく酷い。「ツッコんでよ、もっとガンガン!」だの、「強めにイジってほしい!」だの、「公園でガンガンツッコんでたんだから」だの、どうしようもない。ここから更にヒドい展開になっていき、【ナイツ独演会】を鑑賞に来るほどのお客さんが思わず「キャーッ!」と叫んでしまうほどの事態になるのだから、たまらない。このネタを更に磨き上げて『M-1グランプリ2015』敗者復活戦で披露していれば、きっと伝説になっていたことだろう。どんな伝説だ。

全ての漫才が終了して、最後は何故か歌のコーナー。ナイツの漫才師としての道のりをイメージして塙が作詞し、ベース漫談で知られる塙の実兄・はなわが作曲したオリジナル曲『二人で決めた道』をナイツの二人が熱唱する。何かの冗談にしか見えない状況に、最初は私も(そして恐らく観客も)薄ら笑いを浮かべていたが、その真剣な歌詞と真摯なメロディに思わず聞き入ってしまった。どうしようもないほどにバカバカしい漫才とこっぱずかしいほどに真剣な歌、その両方を成立させる漫才師としての度量の広さを見せつけられたような、そんな気がした。

いざ行け、平成の漫才師。明日もまた、浅草の劇場の出番が待っている。

特典映像は「目指せ!イロモネア」。芸人たちが「一発ギャグ」「モノマネ」「ショートコント」「モノボケ」「サイレント」という五つの課題に挑戦するバラエティ番組「ザ・イロモネア 笑わせたら100万円」において、課題を一つもクリアしたことがないというナイツが、客(事務所の後輩?)の前で「一発ギャグ」「ショートコント」の練習をするというもの。本編でバカウケだったナイツだが、ここでは一転、ゴリッゴリにスベっている姿を楽しむことが出来る。なんとも底意地の悪い鑑賞方法だが、彼らレベルの芸人がスベっている姿は本当に貴重で、だからこそ安心して「楽しむことが出来る」のである。進行役を務めている中津川弦との味しかないやりとりも含め、ご賞味ください。 

■本編【88分】

「2015年をヤホーで調べました」「チップ」「本当だ!」「新党結成」「ラジオコント「ちゃきちゃき昼ズ」」「シモドローム」「オラこんなネタいやだ」「上を向いて歩こう」「ナイツ15周年記念ソング~二人で決めた道~」

 

■特典映像【11分】

「目指せ!イロモネア」