白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「さまぁ~ずライブ10」(2015年12月16日)

2016年1月11日視聴。

楽しい三連休の二日目が終わった。一日目が終わった時点では「まだ残り二日もある!」という感覚があったのに、二日目が終わると「もう残り半分もない!」と急に追い詰められたような気持ちにさせられる。なんとも厄介だとはいえ、二日目が終わることが惜しいからといって、下手に夜更かしをしてしまうと、三日目を昼過ぎから始めるような事態に陥ってしまいかねないので、気を付けないといけない。……まあ、これを書いている時点で、既に午前3時を迎えているのだが。なんとも絶望的である。

そんな時間まで鑑賞していたのが本作だ。2015年7月2日から5日にかけて東京・天王洲銀河劇場で開催された、さまぁ~ずによるコントライブの模様を収録している。今やテレビバラエティの世界において確固たる地位を築き上げている彼ら。通常、テレビ慣れした芸人は、舞台の感覚を見失ってしまうものだが、本作は、バラエティタレントとしてのみではなく、さまぁ~ずがコント師としてもちゃんと面白いことを再認識させられる内容であった。

まず、オープニングコントの『マンツーマン』。これが素晴らしかった。人との会話が不得意な中年のサラリーマン(三村)が、その気質を改善するために、講師(大竹)がマンツーマンで人とのコミュニケーションを上手く取る方法を指導するクラブに体験入学する。このコントにおいて、なんとさまぁ~ずは“関東一”と名高い三村のツッコミを封印している。設定を思えば当然である。人とコミュニケーションを取ることを得意としない人間が、初対面の相手に声を張り上げてツッコミを入れられるわけがない。だが、大竹から一方的にぶつけられる言葉に対して、まったく反抗せずに、ただただ受け止めるしかない三村の姿はとても新鮮で、本作に対する攻めの姿勢を感じさせられた。

その後のコントもハズレがない。公園でうっかりスマホを無くしてしまった男(大竹)を心配して一緒に探してあげる親切な男(三村)のやりとりを描いた『なくしもの』は、大竹の理不尽なキャラクターが凄まじいコント。とにかく融通が利かない、物に頓着しない、気が利かない性格で、三村の親切心をグリグリと踏みにじる。だが、その言動に悪意はなく、根っこに芯が通っているように思わせられる。ただ単純に、そういう気質の人間として映る。単なる狂人ではなく、ちゃんと人間を描こうとしているあたりに、コント師としてのさまぁ~ずのこだわりが伺える。自宅で流しそうめんをやろうと後輩たちを誘った先輩(大竹)と一人だけやってきた後輩(三村)による『気持ちが大事』は、神経質な先輩とがさつな後輩が激しい攻防を展開するドタバタコント。この二人が登場するコントは過去にも存在したが(同一人物かどうかは未確認)、今回は“流しそうめん”がアイテムとして重要な役割を担っていて、途中から、とにかく大変なことになっていた。コンプライアンスが叫ばれている昨今を思うと、テレビではまず放送されないタイプのコントだろう。それを、それなりにいい年齢の二人がやってみせるのだから、笑わずにはいられない。いや、今のテレビに慣れている人が見たら、むしろ引いてしまうかもしれない。だが、こういうノリのことを、テレビ視聴者は忘れてはならないような気もする。

結婚二十周年を妻と祝うために思い出のBARで待ち合わせをしている男(三村)が、その店専属のジャズバンドのボーカル(大竹)の歌の内容に引っ掛かり続ける『思い出BAR』は、個人的に最も楽しめたコントだ。設定を見ても分かるように、いわゆる歌ネタなのだが、とにかく内容がない。雰囲気のある曲が始まったかと思ったら『ABCの歌』だったり、「国歌!」と宣言したかと思ったら内容は校歌だったり、算数の教科書に書かれている問題みたいな歌詞だったり。曲そのものがしっかりと出来上がっているだけに、その的を射た素っ頓狂ぶりがたまらなく面白かった。ところで、なんとなく歌い方や歌詞の流れに、所ジョージからの影響を感じたのは私だけだろうか。所ファンとしては気になるところではある。三村にあるあるネタを強要される店員役のつぶやきシローも良かった。アドリブなのに、ちゃんとクオリティの高いあるあるネタを出せる凄さ。そして、最後のコント『コミュニケーションクラブ』。最後の最後でオープニングコントに戻ってくるという構成がたまらない。コントそのものも最高に面白かったのだが、ここでは詳細に触れない。ただ、とある場面で、大竹が空中移動するシーンで大笑いしたことだけ書き留めておく。何の意味もない。その行為に何の意味もない。だからこそ面白い。

今回、本作を鑑賞していて、少しだけ「さまぁ~ずのザ・ドリフターズ化」を感じた。細かいところまでしっかりと描き込まれた舞台美術、コントに説得力を与える細やかな舞台セット、台本よりも流れと勢いを重視したやりとり、食べ物や音楽に対するこだわり、そして後には何も残らない無意味で奔放な笑いの数々。……もしかすると、さまぁ~ずはこのライブで、かつて体感したザ・ドリフターズの公開収録を自分たちなりに再現しているのかもしれない。だとすれば、このライブが最終的に辿り着く場所は……。

ちなみに、今回の特別版には、さまぁ~ずのライブに初めてスタッフとして参加したさまぁ~ずマネージャー・長達也の日記がブックレットとして封入されている。4月11日の打ち合わせの段階から記録された、とても充実した内容になっているので、購入の際は通常版よりも特別版の方を選んだ方が良いと思う。

あ、あと幕間映像の「声優」は必見。 

■本編【101分】
「OP/マンツーマン」「OPENING VTR」「なくしもの」「V①「何が通ったでしょう?」」「気持ちが大事」「V②「声優」」「思い出BAR」「V③「3Dキャラごはん」」「コミュニケーションクラブ」「ENDING VTR」

 

■特典映像【7分】
「メイキング」