白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

2022年6月のリリース予定

08「M-1グランプリ2021
22「タロウ6」(ハナコ
29「笑い飯の漫才天国~結成20+1周年記念ツアー~ 

どうも、すが家です。ゴールデンウィーク中、何もせずに過ごしてしまって、未だに後悔の日々を送っております。ついつい酒を飲んでしまうんだな。

気を取り直しての六月のラインナップは、やっぱり毎年恒例のM-1ではないでしょうか。後続の『R-1ぐらんぷり』『キングオブコント』のソフト化が中断されている中で、欠かすことなくDVDをリリースし続けられる胆力には驚かざるを得ません。今回も特典として「M-1グランプリ アナザーストーリー」を収録。未公開映像も収録した完全版だそうですよ。

そんなM-1を2010年に制したコンビ、笑い飯の久方ぶりの単独作品も見逃してはなりません。コンビでのDVDリリースはなんと11年ぶり。今の笑い飯の漫才の世界を皆で堪能しましょう。

この他、『旅猿』『ラランド「有象無象SHOW」』『新TV見仏記』などのソフトがリリース予定です。『ラランド「有象無象SHOW」』はラランド初の冠番組だそうな。売れっ子街道驀進中ですな。

七月はキングオブコント王者の新作がリリース予定。

「バカリズムライブ「〇〇」」(2021年11月24日)

2021年5月14日・15日に草月ホールより無観客配信された公演を収録。

当初、公演は5月13日から16日にかけて開催される予定だったのだが、新型コロナウィルスの感染拡大防止を目的に発令された緊急事態宣言を受け、無観客状態での配信公園へと切り替えられた。もっとも、バカリズムは前年にもコロナ禍の影響を受けて毎年の恒例となっていた単独公演を中止、バカリズムがプレゼン形式でネタを繰り広げるスタイルの公演「バカリズム案」の有料オンライン配信を行った経験があるため、この事態もある程度は想定できていたのかもしれない。

ライブは『プロローグ』で幕を開ける。まだ役に入っていない、いわゆる素の状態にあるバカリズムが、これから始まるライブについてストーリーテラーのように語り掛けるパートである。とはいえ、そこはやはりバカリズムなので、いわゆる語りだけでは終わらない。奇妙な公演タイトルの話を始めたかと思えば、公演で演じるコントを書き上げるまでの期間の話に繋げて、いつしか「作家としてのバカリズム」と「演者としてのバカリズム」が分裂し、それぞれのバカリズムが言い争いを始めてしまう。このシチュエーションは、おそらく『ドラえもん』の名作エピソード「ドラえもんだらけ」に着想を得たものだろう(てんとう虫コミックス5巻収録)。藤子・F・不二雄好きにはちょっと嬉しいパフォーマンスに、すぐさま心を奪われてしまった。

『プロローグ』が終わると、後はひたすらにコントが続く。とあるクラスの担任が副担任の策略に気付いてしまう『〇〇先生』、会社の上司が思わぬ提案を切り出し始める『手のひらを〇〇に』、ケンカの日々を過ごしていた不良が謎の男の誘いに乗せられてジムへと連れて行かれる『10オンスの〇〇』などなど、バカリズムらしい鋭い着眼点のネタが展開されている。時折、芸能界のなにかしらかに対する不満が滲み出ているあたりに、売れっ子芸人となって久しいバカリズムの中で蓄積されている苛立ちのようなものが感じられた。ひょっとすると、このコロナ禍において、多くの人が無意識のうちにストレスを溜め込んでしまっているように、バカリズムの中でも同様のことが起きているのかもしれない。

とりわけ、そのあまりの切り口の鋭さに、一瞬笑うことを忘れてしまいそうになったのは『海の上の〇〇』。五年間付き合っていた彼氏と別れた女性が、自分の気持ちを区切りをつけるために一人旅へ。旅先で小型の観光船に乗り込んだところ、イルカの大群に遭遇。当初、奇跡的な出会いに興奮していた女性だったが、いつまでも船に並走して泳ぎ続けるイルカに、だんだんと飽き始めて……。イルカと女性の関係性は明らかに別の何かを置き換えたもので、その正体について勘付いたときの「うわーっ」な感じは過去最高。オチの角度も、その置き換えたものを想像した上で捉えるとなかなかにキツく、ドキリとさせられた。おっかねえ!

・本編(93分)
「プロローグ」「オープニング」「○○先生」「勇者の紋章」「海の上の○○」「NAINAINAI!」「手のひらを○○に」「麺屋 桂木」「10オンスの○○」「勇者の紋章Ⅱ」「○○な男」「マルマルショッピング」「1○○」「エンディング」

バカリズム『銀行弱盗』について考える。


例えば、目の前にピストルを手にしている人物がいるとする。

ピストルが脅威であることを私たちは知っている。実際にピストルを目にしたことがなかったとしても、それがどのような効果をもたらす道具であるかを、私たちはドラマや映画、或いは海外のニュースなどの映像から得た情報で理解している。なので、目の前の人物に対して、私たちは少なからず警戒する。その脅威が自分に向けられる可能性があるからだ。

もっとも、その人物が持っているピストルと思しき存在が、果たして本当にピストルなのかどうかは分からない。プラスチック弾を発射するエアガンかもしれないし、単なるモデルガンの類いかもしれない。よくよく見ると、真っ黒な昆布かもしれないし、黒い子猫かもしれない。可能性は無限に広がっているが、それを一瞬でもピストルとして認識したからには、予断は許されない。その人物の一挙手一投足に注目しながら、しかし不自然にはならないように、命がけで対応しなくてはならない。

これはピストルに限った話ではない。

ナイフであれ、包丁であれ、バールのようなものであれ、それを手にしている人物が目の前にいるとき、私たちは多かれ少なかれ、緊張感を抱いている。その人物に危害を加えようという意図があろうとなかろうと、なにかしらかの事故によって、その矛先が自分に向けられてしまう可能性があるからだ。

だが、それはあくまで、その手にしている道具が、使い方によっては脅威となり得るものであると認識しているからこそ、成立する。では、それが確かに、一定の脅威となり得るものであったとしても、それによって生じる危害が想定できなかった場合はどうなってしまうのか。

バカリズムの『銀行弱盗』は、銀行の窓口にやってきた男がブーメラン片手に強盗を試みるコントである。

銀行員に向かって、男はブーメランが如何に危険な道具であるかを力説する。だが、銀行員には、その恐ろしさがまったく伝わらない。男がどれほどブーメランの攻撃性について説明したところで、スポーツ用の玩具としてのイメージを払拭することが出来ないからだ。結果、まったく相手にされることなく、完全に無視されてしまう。みっともないったらありゃしない。

無論、ブーメランは脅威になり得る。狭い銀行の中で利用することが出来るのかどうかは分からないが、少なくとも鈍器としての役割を果たすことは可能だろう。だが、男の説明だけでは、それを想像できない。ここで男がすべきだったのは、そのブーメランでもって銀行内の何かを破壊して、その脅威を周囲の人々に見せつけることだったのだろう。少なくとも、男の攻撃的な人間性をアピールすることは出来た筈だ。だが、それをやらない。いや、出来ないのだ。そもそも強盗にやってきているのに、銀行員に指示されて順番待ちをさせられている時点で、男の気弱な性格はバレている。男に他人を傷つける覚悟はない。

ブーメランはあくまでもコント的誇張表現に過ぎず、このコントの芯の部分は、そんな男のみっともなさをコミカルに見せるところにある。

(以下、ネタバレになります)

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うしろシティの解散に寄せて

先日、うしろシティの解散が報じられた。

正直なところ、驚きはしなかった。私の友人に『星のギガボディ』(2016年から2021年にかけて放送されたうしろシティのラジオ番組)のリスナーがいて、彼から時折、うしろシティに関する不穏な情報を得ていたからだ。金子の休養中に阿諏訪がまったく近況報告をしていなかったこと、後番組のパーソナリティが発表されていない状況下での『星のギガボディ』の終了が発表されたこと、金子が復帰してからもコンビとしての活動が休止状態だったこと……。公表された情報のひとつひとつを組み合わせることで、うっすらと浮かび上がってくる全体像。そこから想像される結果が、まさに今回の解散だったのである。

とはいえ、二人の関係性が明確に語られていなかったこともあって、なんとなく私も友人も“活動休止”止まりだろうと考えていた。最悪でも、DonDokoDon山口智充平畠啓史のように、明確に解散を打ち出さない状態のままユニットとして名前を残していくのだろうと。その意味では、はっきりと明確に解散を発表したことには、少しだけ驚いた。「ああっ、そういう結論に至ってしまったのか!」と。発表された情報によると、金子は松竹に残り、阿諏訪は事務所を退社してフリーとして活動する予定らしい。細かい経緯についてはまったく読めないが、様々な思惑を経ての決定なのだろうことはなんとなく予想できる。

昨晩、今回の解散発表を受けて、過去に観たうしろシティのコントについて思い返していた。

初めてうしろシティのコントを目にしたのは2009年の『爆笑オンエアバトル』。ただ、この時点ではまだ、それほど彼らのネタにピンときていなかった。はっきりと二人のことを認識するようになったのは、2011年に『オンバト+』で目にした『ローマ旅行』のコントがきっかけ。旅行計画の中で巻き起こる数々のいざこざがスマートに解決されていく様があまりにも見事で、笑うと同時に感動を覚えた記憶がある。この翌年、彼らは『キングオブコント』の決勝戦に進出。ファーストステージで披露したコント『転校生』で使用した謎の小道具「もぎぼっこり」がちょっとした注目を集めた。その後、彼らは2013年・2015年に決勝進出を果たすも、良い結果は残せず。とはいえ、再度の決勝進出を長く期待されてはいたのだが……。同年、オリエンタルラジオかまいたち銀シャリさらば青春の光らを抑え、NHK新人演芸大賞を受賞。美容室で遭遇したドラマチックなシチュエーションに目が離せなくなってしまう店員と客のコントが爆笑を巻き起こした。

ここからは個人的な記憶を辿る。うしろシティといえば思い出すのは、最初に衝撃を受けた『ローマ旅行』のコント。次に思い出すのは『寿司』。寿司屋の大将が家族についての愚痴を漏らしながら握る寿司が何故か美味い、というトンチキな仕掛けがたまらなく可笑しかった。シニカルとナンセンスのちょうど間をすり抜けながら、うっすらと生理的な嫌悪感をまぶしていて、見事な設定だったように思う。『自転車』のコントも好きだった。自転車の練習をしている子どもの後ろに知らないおじさんがひっついてくる導入が、スリリングでたまらなかった。極端に善良な少年とヘンテコな不良がともに学校へと向かう『太陽』も好きだった。ゲームのチュートリアルを思わせる『喧嘩のやりかた』、友人同士の複雑な関係性を描いた『病院』、からかわれながら取り上げられたオリジナルの漫画がヤンキーの心を掴む様子に創作の力を感じた『漫画』……思い返してみると、本当に色々なコントを生み出していた。そのキャッチーでポップな内容が故に侮られているところもあったように思うが、だからこそ、うしろシティにしか出来ない絶妙なラインのネタになっていた。無二だった。

とにもかくにもお疲れさまでした。たくさんのコントをありがとう。

追記。現在、アマゾンプライムビデオにて、うしろシティの選りすぐりのコントを収録した『ベストネタシリーズ うしろシティ』が配信されているので、これを機にご覧になられるといいかもしれません。やっぱり面白いコントが多いなあ!

かが屋「好きなように生きる」を考える。

かが屋のコントは易しくない。

彼らのコントはボケとツッコミの関係性を明確にしないことが多いため、そのネタに込められた意図は観客が組み取らなくてはならないことも少なくない。そして、多くの観客は、舞台上で起こっている現象の「誰も悪くない雰囲気」に翻弄され、彼らのコントを「人を傷つけない笑い」と捉えてしまう。だが、果たしてそれは、正しい判断といえるのだろうか。かが屋のコントの中で描いている世界は、確かに優しいものかもしれない。時には、登場人物同士の優しさが仇となって、誰も救われない理不尽な展開を迎えることもある。だが、そういった事象を、あくまでも「笑えるもの」としてパッケージしているのは、他ならぬかが屋自身なのである。その根っこには、むしろドス黒い性格の悪さがあるのではないか、と私は勝手に思っている。

そんなかが屋のコントに、『好きなように生きる』というネタがある。一人の客(賀屋)が焼肉屋を訪れて、肉を食べ、帰っていく様を描いたコントである。ただ一点、違和感となっているのは、その客がカルビ一人前しか頼まなかったこと。通常、焼肉屋のメニューは、複数の部位や料理を注文することが基本となっている。事実、その客がカルビを注文し、それを食している間にも、他のテーブルでは様々な料理や飲み物が注文されていく。だが、その客は何のためらいもなく、カルビ一人前だけを注文し、食べ、帰っていくのである。そんな客の背中を見送った店員(加賀)は一言、「好きなように生きてるなあ……」とつぶやき、また仕事へと戻っていくのであった。

このコントの動画に対するコメントを見てみると、「憧れる」「店員の対応が素敵」「心にゆとりがないとできない」など、客の振る舞いを肯定的に捉えている人が多いことが分かる。だが、先にも書いたように、すべてのやり取りは「笑えるもの」として描かれている。果たして、かが屋は客のことを、「好きなように生きてる」人として肯定的に描いているのだろうか。お会計を済ませるときに伝票をテーブルに置いたままにして、大した金額じゃないのに一万円札を出して、一人なのに食後のガムを二枚要求する客の言動に対し、ずっと半笑いの状態で接客する店員の表情にこそ、その答えはあるように思う。

シチュエーションを切り取ることに徹底して、その真意を語ることなく、全てを観客の判断に委ねる。そんなかが屋のコントは、だからこそ「人を傷つけない笑い」が提唱される時代に適しているといえる……のかもしれない。

2022年5月のリリース予定

18「第23回東京03単独公演「ヤな因果」

どうも、すが家です。少し前まで「暑い日が続くなーこのまま夏になっちゃうのかなー」と思っていたのですが、ここ数日の雨模様ですっかり気温が下がってしまって、今日に至っては肌寒さを感じるようになりました。体調を崩しやすい気候ですから、気を付けて参りましょう。さて、五月のリリース予定ですが、東京03の新作が発売されますね。そういえば前作『ヤな塩梅』のレビューをまだ書いてませんね。五月のゴールデンウィーク中に少しでも書いてみようと思います。ハイ。本編映像に加えて、特典として東京追加公演で披露された、特別公演の模様も収録されております。有難いことです。

この他、『さや香・ラニーノーズ・ネイビーズアフロのバツウケテイナーR』『新世紀落語大全 林家きく麿3』『ヒロシのぼっちキャンプ Season3 下巻』などのリリースがあるようです。『ヒロシのぼっちキャンプ』はBS-TBSの番組で、文字通りヒロシがソロキャンを楽しんでいる姿に密着したものとなっています。こんな形でヒロシが復活を遂げるなんて、誰が予想できたのか。

六月の注目作品は、年末の恒例イベントと、そのイベントで優勝した経験のあるコンビによる11年ぶりの漫才ライブDVDです。そういえばムック本の全一冊シリーズ、彼らのだけで終わっちゃったなあ。良いフォーマットだったのになあ。

Conva「16:45」の感想文。

※この記事はネタバレを含んでいます。本編動画を鑑賞してからお読みください。

兄の手術の成功を祈っていた妹(吉原怜那)の元へ、二人の医者(医者A(田野)・医者B(警備員))が悲しい報告にやってくる。現実を受け止められない妹は、その怒りと悲しみから医者Aを罵倒し始める。ところが、その内容は、だんだんと医者の能力の話から見た目に関するものへとなっていき……。「手術の失敗を家族へと報告する」というシリアスなシーンに、「子ども同士のケンカ」という軽くて浅くて中身のないやり取りの要素を絡めて、生まれるギャップを笑いに昇華しているコントである。

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