白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「キングオブコント2021」決勝進出者決定!

【三】うるとらブギーズ(昨年10位)
【初】蛙亭
【三】空気階段(昨年3位)
【初】ザ・マミィ
【初】ジェラードン
【初】そいつどいつ
【初】男性ブランコ
【二】ニッポンの社長(昨年同着5位)
【二】ニューヨーク(昨年2位)
【二】マヂカルラブリー

アルコ&ピース、おいでやすこが、霜降り明星、チョコンヌ(チョコレートプラネット×シソンヌ)などなど、個性豊かな面々が出場したことで話題になっていた今年のキングオブコントですが、フタを開けてみると、とても渋いメンバーになりましたね。良くも悪くも例年通りで手堅いラインナップといったところでしょうか。初登場が五組、ファイナリスト経験者が五組というバランスも良いですね。新しい時代のうねりのようなものを感じさせます。そんな中、鈍い光を放っているのは、昨年のM-1王者・マヂカルラブリーM-1とR-1を制覇した野田クリスタルは果たしてKOCの栄光もその手中に収めてしまうのでしょうか。……可能性がゼロじゃないってところがたまりませんね。

優勝候補はやはり昨年2位のニューヨークと昨年3位の空気階段でしょうか。昨年大会では、どちらもキングオブコントで勝ち上がるための方程式を明確につかんだかのように「評価されるためのコント」を作り込んでいましたが、今年はどのような戦い方を見せてくれるのでしょうか。ただ、どちらも既に手の内を明かしているという意味では、まだまだ底知れないニッポンの社長の方が可能性を秘めているといえるのかもしれませんね。記録よりも記憶に残るコントを見せていた彼ら。今年は記録を残したいところ。昨年大会は10位、一昨年の大会は2位と評価の上がり下がりが激しいうるとらブギーズは、今年こそその真価を見せつけなければ、一昨年の評価がまぐれ当たりだといわれそうな雰囲気。実力者としての手腕を如何無く見せてもらいたいですね。

初の決勝進出者はいずれも名だたる実力派ばかり。アヴァンギャルドなコントが多くのお笑いファンに衝撃を与えた蛙亭ハナコゾフィーかが屋に続く最後のコント村村民ザ・マミィ、シンプルでバカバカしいキャラクターコントは一度見たら忘れられないジェラードン、松本竹馬のキャラクターが妙に先行しているがコント職人としての腕に間違いはないそいつどいつ霜降り明星コロコロチキチキペッパーズ・ZAZYといった天才型芸人たちを同期に持つ静かなるコント職人・男性ブランコ。特に男性ブランコラーメンズに影響を受けているコンビらしいので、個人的にはとても期待しております。あまりネタを見たことがないので、そこだけで期待しております。今はもうラーメンズが好きっていうコンビを見るだけでちょっと目頭が熱くなってしまう状態なので……(察しろ)。

以上の十組による激戦、今から楽しみですねえ。

リハビリコント雑談:イッセー尾形『生物教師』

お盆休みの連休中、酒浸りになっていた後遺症なのか、心の様子がどうも宜しくない。具体的にいうと、何もやる気が起きない。ふと、「ブログを更新しよう」と思い立ったとしても、なかなか重い腰を上げることが出来ず、気付けば何もしないままに真夜中が訪れる。そんな日が何日も続いている。

このままでは心身ともに腐ってしまいかねないので、今日はなんとかかんとか心と体を動かして、ブログを更新してみようと思う。毎度お馴染みのリハビリテーション更新である。出来不出来に関わらず、とにかく更新するのである。しかし、ブログを更新しようと心に決めたところで、肝心の本文に何を綴るかが決まっていなければ、どうにもこうにも仕様がない。そこで、最近ふっと思い出したイッセー尾形の一人芝居『生物教師』を久しぶりに視聴して、思ったことをアトランダムに書いてみることにした。

イッセー尾形の『生物教師』は2004年に上演、翌年3月にリリースされた『イッセー尾形 ベストコレクション2004』に収録されている。当時、イッセーの舞台は定期的にソフト化されていて、レンタルビデオでも氏の公演を収めたVHSをよく見かけたものである。今現在もイッセーは一人芝居を続けているが、それらの舞台はソフト化されていない。この世の何処かにいそうな人の姿を描写する芸は、アーカイブを残してこそ、その希少性を感じさせられるものだと思うので、とても惜しい。

『生物教師』では、生徒たちに真に迫った生物の授業をするために、ノラネコを解剖したことが教育委員会にバレてしまい、大問題になってしまった生物教師による最後の授業の様子が描かれている。冒頭から、ノラネコを解剖したことに対する生徒たちに対する謝罪で始まるのだが、そこに反省の念は感じられない。ただ、やらかしてしまったことへの後悔と、これからどうなるか分からないが故の自暴自棄が繰り返されている。『生物教師』は、教師が思い描いている理想の授業と、それを間違っていると認められない現実の狭間で、ゆらゆらと揺れ動いている様が面白おかしく描かれている。

笑いの構成としては、序盤でフリとなる言動を提示して(ネコを解剖した手を眺めて「この手がなぁ~!」と後悔する、などのような)、その言動に繋がる展開を随所に散りばめたものが主。手の話になるたびに「この手がなぁ~!」と後悔の念に駆られるところで、大きな笑いが生まれている。いわゆる天丼と呼ばれるオーソドックスな手法だが、心の底では反省していない生物教師のキャラクターとの相性があまりにも良い。自分の立場を忘れて、生徒たちの前で持論をあけっぴろげに展開しているところで、急に現実へと引き戻される姿がたまらなく面白い。

この生物教師の考え方が正しいかどうかは分からない。教育のためであっても、誰にも飼われていないノラネコだとしても、殺すべきではないという人間もいるだろう。だからこそ劇中でも教育委員会から問題視されている。だが、それならば、金魚ならばいいのか、という話にもなる。生命の重さとはなんなのか。……そこまで重たいテーマを背負っているわけではないだろうが、そういった不明確な論理が見ている側にも備わっているからこそ、この教師の無反省と後悔の狭間を揺れるような振る舞いが、笑えるのだろう。どちらの意見もよく分かる。もっとも、世の中には「ネコはいたほうがいい」「ホームレスはいないほうがいい」と主張する人もいるようなので、そういった人には笑えない演目なのかもしれないが。

(まったくの余談だが、インターネット上における形骸化した「猫絶対主義」みたいな思想は個人的に好きではない。一昔前のテレビは「子どもと動物と健康ばっかり」と批判されていたが、それと同じ道をインターネットも辿っているようである)

ちなみに、この『生物教師』がどのような処分を受けたのかは、明らかにされていない。この授業の後、教育委員会と話をして、対処が決定する……というところで幕を下ろすからだ。ただ、教師はもはや分校に飛ばされることを覚悟しているようで、「分校行って、何から解剖してやろうかな!」と生徒たちに見栄を張りながら教室を出ていく。とことん人間臭い、だからこそ愛おしい。

2021年9月の入荷予定

01「NON STYLE LIVE 2020 新ネタ5本とトークでもやりましょか
08「情熱大陸×和牛
22「best bout of hiccorohee」(ヒコロヒー)

どうも、すが家です。お盆休み中にはしゃぎすぎた影響なのか、八月の更新は色々と滞ってしまって、申し訳ありませんでした。九月はきちんと“コント地獄”の更新を再開できるようにしたいと思います。……別に、当ブログのメインコンテンツってわけでもないんですけどね、アレ。でも、ああいう記事の定期更新を止めたら、もう何もやらなくなってしまいそうな不安があるんですよね。なんとかかんとかやっていきます。そんな九月のラインナップは以上となります。説明する気力がないので、詳細は各自でお調べください。……何気に松竹は女性ピン芸人のDVDを頻繁にリリースしますね。有難いことです。では、また。

こんな夜にお前に乗れないなんて

雨上がり決死隊が解散した。

正直、それほど思い入れのあるコンビではない。コンビとして注目を集めるきっかけとなった『めちゃイケ』や、ガレッジセール・DonDokoDon小池栄子とともにしのぎを削った『ワンナイ』の放送はたまにチェックしていたが、注目するほどの魅力を彼らに感じなかったからだ。雨上がり決死隊にとって初の冠番組である『アメトーーク』についても、その興味の対象となったのはあくまで毎回のテーマやトークゲストに限り、進行役である二人に対してはこれといって深い感情を抱いてはいなかった。

そのため、コンビが解散するというニュースを目にしたときも、特に感情を揺さぶられることはなかった。闇営業問題の発覚からおよそ二年、宮迫と同じイベントに参加していた他の芸人たちが次々に活動復帰を果たしている最中、コンビとしての話をまったく聞かなかったことも(たまに会って話をしている、と蛍原が話しているところを目にしたことはあったが)、心を動かされなかった理由なのかもしれない。

しかし、『アメトーーク』の形式で解散報告会を行い、その模様をネット上で配信するという攻めた企画には惹かれた。お笑いコンビの関係性は人生のパートナーという意味において夫婦に似ていて、だからこそコンビ間に起こった問題はセンシティブで、第三者には触れづらいものになりやすい。それをテレビのフォーマットを使って大々的にお披露目するのである。雨上がり決死隊と『アメトーーク』の信頼関係があってこそのことといえば聞こえはいいが、はっきり言ってイカレている。根っからの野次馬気質である私に、これを見ない手はなかった。

午後八時、『アメトーーク 特別編 雨上がり決死隊解散報告会』配信開始。

配信はおよそ二時間に渡って行われた。序盤の十分ほどは雨上がり決死隊の二人だけでトーク、それから番組に関わりの深いゲストたちを招いてのトークコーナーへ。ゲストとして登場したのは、東野幸治出川哲朗ケンドーコバヤシ狩野英孝FUJIWARA原西孝幸藤本敏史)。進行役はテレビ朝日松尾由美子アナウンサーが務めていた。基本的には、今回の解散を受けて、それぞれが感じたことや疑問に思ったことなどを、二人に対してぶつける時間になっていたように記憶している。

興味深いのは、解散を切り出したのは蛍原の方だったという話である。当初、蛍原はコンビとしての活動を再開させようと考えていたようだが、宮迫がYouTubeをやり始めたあたりから「価値観、方向性のズレが大きくなっていったような」気がしてきたという。特に大きかったのは、YouTubeを始めた時期。亮が芸能活動を再開させることを公表したロンブーの記者会見の前に始めたことが、とにかく引っ掛かっているのだという。そもそもYouTubeを始めることも事後報告で、その話を聞いたときにはもはや後戻りのできる状況ではなかったそうだ。

これに対し、宮迫は「消えてしまった方がいいのかな」と思い詰めていたところに「YouTubeっていうのはどうだろう?」と提案され、復帰の記者会見をすることは聞いていたので、チャンネル開設は絶対にそれ以降にしようと考えていたのだが、YouTubeをやらせてもらっている立場やコラボ相手との兼ね合いもあって、ずらせなくなってしまった結果、良くない時期での開設になってしまった……とのことらしい。よく分からない。記者会見の時期を知っていたのであれば、その時期以降にチャンネル開設するようにスケジュールを組めばいいだけの話ではないのだろうか。もっとも、そこまで頭が回る状況ではなかったのかもしれないが。解説に至るまでの流れだけを聞いていると、心身ともに弱っている人をターゲットにするカルトの勧誘のように見えなくもないが……現状、動画が評価されているのなら、それはそれでいいのかもしれない。当人にとっては。

ただ、イマイチよく分からなかったのが、コンビ解散が決定した今でも宮迫が蛍原の隣を目標としていると話していた点である。これに関してはまったく意味が分からない。どうしてコンビを解散することになってしまったのか、どうしてコンビ解散という重大な事件を『アメトーーク』が地上波放送ではなくネット配信で世に出したのか、この状況が指し示していることを理解していないのではないか。「ひな壇からやり直す」という話をしていたように記憶しているが、そのひな壇とやらは誰が何処に用意してくれるのだろう。万が一にも、ひな壇が用意されたとして、その司会を蛍原が務めるなどということは有り得るのだろうか。可能性はゼロではないだろうが、些か楽観的過ぎやしないだろうか。

配信終了後、据わりの悪い何かが引っ掛かっているような感覚を覚えながら風呂に入り、三十分ほどで出てから、午後十一時から松竹芸能ピン芸人・みなみかわが定期的に配信している『踏み台TV』を見た。ゲストにあぁ~しらきが登場し、とてもテレビでは出来ないであろう危なっかしいトークを展開していた。二人で笑っていた。

笑いを生み出すということ

いつもお世話になっております。すが家しのぶです。

最近は『佐久間宣行のNOBROCK TV』を毎週欠かさず見ております。

『佐久間宣行のNOBROCK TV』は、元テレビ東京局員のテレビプロデューサー・佐久間宣行が企画・出演・プロデュースを行うYouTubeチャンネルです。毎週水曜・土曜の午後七時に新作が配信されています。個人的に好きな回は、レポーターのウエストランド・井口に本職のトルコアイス屋がどれだけアイスを渡さずにいられるかを競い合う「トルコアイス渡さない選手権」です。M-1をきっかけに売れ始めているウエストランド・井口という芸人の魅力が余すことなく引き出されていました。

先日、この『佐久間宣行のNOBROCK TV』において、興味深い企画が配信されました。タイトルは「お笑い知識ゼロ人間に笑いが説明できるか選手権」(7月31日配信開始)。お笑い知識がゼロのスポンサーに、芸人が自らのネタの面白さを説明できるのかを検証するドッキリ企画です。今回、ターゲットとなったのは、「安心してください、はいてますよ!」のネタで知られるとにかく明るい安村。ここでもやはり「安心してください、はいてますよ!」のネタを披露するのですが、スポンサーからの問い掛け(佐久間と仕掛け人であるさらば青春の光・森田が指示)に対し、上手く回答することが出来ず、同じような内容の説明を何度も何度も繰り返すというみっともない姿をさらけ出しておりました。

ドッキリに振り回されている安村の姿そのものもとても面白いのですが、それ以上に興味深いと思ったのは、企画そのものの持つ批評性です。近年、芸人が他の芸人のネタの魅力について語る機会が増えてきましたが(余談ですが、先日の『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』にゲストとして出演した放送作家のオークラが、この流れを作ったのは『ゴッドタン』の企画の流れでコント愛を熱弁していた東京03・飯塚だったのではないかという説を語られていて、なるほどなあと)、それと同時に、「芸人が語ることが正解である」という認識が強まってきました。一般の人間がどれだけ試行錯誤してネタについて語ったとしても、それは結局のところ舞台に上がった経験のないシロートの意見でしかなくて、プロフェッショナルである芸人の言葉の方が実体験に基づいているからこそ説得力がある……という理屈ですね。

「お笑い知識ゼロ人間に笑いが説明できるか選手権」は、そんな風潮に一石を投じる企画であるように思えました。実際に舞台に上がってネタを演じている側の芸人であっても、その面白さを論理的に理解しておらず、容易に他人に解説できるわけではないことを、この企画はまざまざと証明してみせたのであります。

とはいえ、それは決して悪いことではありません。むしろ、芸人という稼業の面白さが、そこに表れています。笑いの方程式が明確に組み立てられていなくても、「これは面白いのではないか?」というあやふやな状態のものをカタチにして、パフォーマンスとして披露し、観客を笑わせることさえ出来れば、それで成立するということですから。観客からのリアクションを重要視する仕事だからこそ出来ることなのではないでしょうか。……もっとも、大事な大事なスポンサーとはいえ、シロートに自身のネタの面白さをきちんと説明することをただただ嫌がって、ウヤムヤにしようとしていただけの可能性もありますけれど。

ちなみに、「お笑い知識ゼロ人間に笑いが説明できるか選手権」は前後編に分かれており、後編では納言と東京ホテイソンはターゲットになっているようです。ネタの構成に力を入れている東京ホテイソンがどんな回答をするのか、今から楽しみです。

コント『できるかな』は本当に面白いのかを考える。

いつもお世話になっております。すが家しのぶです。

東京オリンピックの開会式から間もなく二週間が経とうとしています。ホームでの大会だからというのもあってか、日本人選手による金メダルラッシュが続き、そもそもスポーツ観戦にこれっぽっちも興味を持っていなかった私のような人間でも、胸の奥底からコーフンのようなものが込み上げてきます。よもや逆流性食道炎ではあるまいな。

その一方で、東京オリンピックそのものに対する不信感もまた、自分の中で蠢いているので、感情がとてもややこしいことになっております。新型コロナウィルスへの不安が未だ解消されていない状況下での開催というだけでもストレスを感じているのに、大会を取り巻く有象無象の醜聞を見聞きしていると、「それはそれ!でも、これはこれ!」と否が応でも義憤に駆られてしまいますね。だからってデモ行進に参加しようとは思いませんけれども。感染リスクとかどうなってんだ。

特に私が腹を立てたのは、開会式のスタッフとして参加する予定だった、小山田圭吾小林賢太郎に関する話題でありました。小山田氏の告白記事にせよ、小林氏が手掛けたコントにおける差別的な台詞にせよ、反社会的で許されるものではないとの意見がまかり通っていますが、これらの批判の根っこにはあるのは明らかに「東京オリンピック憎し」の思想で、その正義は本当に公明正大に真っ直ぐな正義なのかと詰め寄りたくなります。

もっとも、時間の経過とともに、小山田氏の告白記事が客観的事実に基づいていなかった(当時を知る人のコメントや検証が行われていない)こと、小林氏の台詞の意図が理解されずに差別的な表現が独り歩きする形で拡散されてしまったこと、それぞれについて言及する記事もチラホラと出始めていますが。それに伴い、当時、本件についてヒステリックに騒いでいた人たちを見なくなりましたが、何処に消えていったのでしょうか。また別の話題を目指して漂流しているのでしょうか。いつか粟島にでも流れ着くのでしょうか。知らんけど。

それはそれとして、私には気になっていることがあります。それは「問題になっているラーメンズのコント『できるかな』ってそもそも面白かったっけ?」ということでした。今回の件を受けて、この『できるかな』そのものは面白かったけれど台詞そのものは問題だ……という旨の一般の方の発言をよく目にしたのですが、正直なところ、私にはそれほど良い印象がありませんでした。なにせ一見して子ども向け番組の安易なパロディなのは明確でしたからね。とはいえ、私が最後に『できるかな』を視聴したのは、今から十年以上も前のことになります。今、改めて、真摯にネタと向き合えば、評価を引っ繰り返す……とまではいかないにしても、何かしらかの新しい発見があるかもしれません。

そこで今、『できるかな』をきちんと批評し直そうと思い立ったのでありました。

しかし、ここで大きな弊害が生じます。ラーメンズのコント『できるかな』は、1998年5月に日本コロムビアより発売された『ネタde笑辞典ライブ Vol.4』に収録されています。とても容易に手に入るものではありません。しかも形式はDVDではありません。VHSです。万が一、この『ネタde笑辞典ライブ Vol.4』を手に入れられたとしても、我が家にはVHS用のデッキがありません。デッキを手に入れなくてはなりません。VHSビデオテープレコーダーの生産は2016年に終了していますから、これも今となっては、なかなか容易に手に入れられるものではありません。……つまり、私はこのコントを観るために、とてつもなく面倒臭い工程を踏まなくてはならないのです。ああ面倒臭い。やれ面倒臭い。

……と、ここまで読んでみて、疑問に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そして、こう思われたのではないでしょうか。「おい、すが家。お前はバカか。ネットで検索すれば、『できるかな』の映像なんて簡単に見ることが出来るじゃないか」と。確かにその通りです。実際のところ、私も十年以上前、この『できるかな』の映像をニコニコ動画で確認しました。ですが、考えてみてください。ネット上にあがっている『できるかな』の動画は、全て非公式なものです。くだんの映像の権利を持っている会社が公式にあげている映像ではありません。そんな違法アップロードされた映像を見て、是非を判断するなんて説教強盗みたいなこと、出来るわけがないじゃないですか。この件について語られている方々も、きっと大元のVHSを独自のルートで入手して、その内容の是非を判断しているに違いないのですから。……してますよね?

とはいえ、背に腹は代えられないので、私も仕方なしに『できるかな』の映像を(※ここでは言えない方法)によって視聴しました。お詫びとして、この記事を書いた後は公式によって正式にアップロードされているラーメンズのコント動画を百本観る行脚に旅立とうと思います。いざ行け、遥かコントの丘を越えて……。

『できるかな』は九分ほどのやや長めのコントです。ゴン太くん(片桐)の家を訪れたノッポさん(小林)が、日頃の感謝の気持ちを告げたり、視聴者から送られてきた手紙を読み合ったり、次の企画を考えたりする様子が描かれています。基本的には、NHK教育テレビで放送されていた『できるかな』をモチーフにしており、牧歌的な子ども向け番組に似つかわしくない表現を敢えて用いることで、笑いを生み出しています。とはいえ、ただのパロディというわけではなく、舞台裏での出演者同士のやり取りを描くことで、実在しない番組の内容を想像させられる面白さに重点を置いているように思えました。子ども向け番組のパロディといえば、過去にはあばれヌンチャクやニレンジャーなどが得意としていましたが、彼らはいずれも番組収録時の立ち振る舞いをネタに落とし込む手法でした。ここの見せ方への工夫に、ラーメンズの若手らしからぬ表現へのこだわりが感じられますね。

ネタの構成を見ると、まず二人の正体が明らかになるまでの時間を作るくだりがいいですね。いきなり誰が誰なのかを明確にしようとせずに、敢えて片桐氏のゴン太くんだけを先に見せることで違和感を残し、観客の意識を舞台に集中させています。この手法は彼らの初期の代表作『現代片桐概論』でも用いられていますね。続く、ノッポさんゴン太くんに感謝の気持ちを伝えるくだりは、目を見つめ合うくだりを経て、オチへと繋がるフリになります。登場キャラクターにボーイズ・ラブの香りを漂わせるのも初期ラーメンズの特徴の一つです。もっとも、このコントの場合、ゴン太くんの存在に性別の有無を感じさせませんけれども。そのあやふやさもまた面白いところです。

「視聴者からの手紙を読み上げる」「『できるかな』の替え歌を歌う」「結婚式のご祝儀」のくだりは、観客に伝わりやすいボケで隙間を埋める工程になります。いずれも元ネタの『できるかな』のパロディとしての赴きが強く、笑いが起こりやすい内容になっています。特に替え歌のくだりは好きな人も多いのではないでしょうか。ジャッキー・チェン風……みたいなのをやると、このコンビは本当に上手いですね。問題になった台詞のあった来週放送の企画を考えるくだりは、全体を通してみると少し異色。文字で構成された野球場を作る……という発想に、これといって笑いどころは見受けられません。ことによると、もしも小林氏が実際にノッポさんになって『できるかな』をやってみようとしたら……をリアルに想定して考えた企画だったのかもしれません。

ちなみに、問題となった台詞についてですが、先に「人の形に切った紙がいっぱいあるから」という観客に適度の違和感を残すようなフリとなる台詞があったからこそ、笑いに転換されていたように思います。ただ不謹慎なだけではなく、納得できる理由が提示されたからこそ笑いが起きたわけです。……納得すれば笑いが起こるのか、というところに引っ掛かる方は、ねづっちのなぞかけをイメージされるといいのではないかと存じます。堺すすむの『なんでかフラメンコ』でもいいですよ。なので、単なる不謹慎ジョークとして処理するのは、ちょっと違うような気がします。

あと、どうでもいいことなんですが、くだんの台詞は「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」なんですよね。でも、いわゆるホロコーストって、一般的に「大量虐殺」と呼ばれているんですよね。だからなんだっていう話ではあるのですが、ちょっとニュアンスが変わるような気がして、少し引っ掛かりました。小林氏は言葉の表現に対するこだわりの強い人なので、その違いに何かしらかの意図があったのかも……。

ここで結論を出したいと思います。『できるかな』が面白いのかどうかについてですが……いや、今見ても、けっこう面白いですね。もちろん、モチーフとなっている『できるかな』や、同じ時期に放送されていた子ども向け番組のタイトルやキャラクターを知っていることを前提とするため、世代によって評価は分かれると思いますが、私は面白かったですね。くだんの台詞については、当時の感覚ならばアウトとまではいかなくともギリギリ笑いの範疇に収まるレベルだったのかしら、という印象です。もしもフリの部分がなかったら、そこまで笑いにならなかったんじゃないですかね。今だったら、表現的にアウト云々以前に、言葉のニュアンスがキツ過ぎて客がウケないような気がします。今のお客さんはその辺りをシビアに感じ取っている印象がありますから。事件の凄惨さ以上に鉄球作戦のイメージが根強い、あさま山荘事件ごっことかならウケるかもしれません。そもそも若い人が事件そのものを知らない可能性も高いですが。

こちらからは以上です。

最後に余談。ラーメンズによる『できるかな』パロディですが、2016年6月に放送された小林賢太郎冠番組小林賢太郎テレビ8』の中で再び演じられています。ただ、こちらで演じられているのは、舞台裏ではなく実際の番組収録。98年にソフト化されたコントの続編を、18年の時を経て映像化したわけですね。こちらの映像も既にソフト化されていますので、機会があれば是非。

2021年8月の入荷予定

18「 すゑひろがりず結成拾周年全国行脚~諸国漫遊記~
18「M-1グランプリ2020 スピンオフ マヂカルラブリー漫才論争へのアンサーLIVE
25「ベストネタシリーズ ロッチ
25「ベストネタシリーズ ナイツ

いつもお世話になっております。すが家です。

今月の注目作はなんといってもすゑひろがりず。自身初の単独作品です。動画サイトでのゲーム実況が好評な彼らですが、注目を集めるきっかけとなったのは『M-1グランプリ2019』決勝進出。きちんとネタが面白いからこその評価なのであります。本作には今年の春に全国四都市を巡るツアーを敢行した公演が収録されています。六本の漫才にコントに映像、更にゲストとして「みなみのしま」が出演しているとのこと。また、初回限定として、和風重箱仕立て仕様のものもリリースされるそうです。大売出し。

こちらも自身初の単独作品となるマヂカルラブリーは、『M-1グランプリ2020』優勝を記念して行われたライブの模様を収録。優勝直後、巻き起こった「マヂカルラブリーの漫才は漫才か漫才じゃないか論争」を受けて、二人がアンサー漫才を披露しております。また、漫才とは何か?という議題に挙がりそうな「松下ひもの」「虹の黄昏」「モダンタイムス」の三組とともに漫才について熱く議論を交わす……そうです。東京五輪の熱狂でうっかり忘れてしまいそうになっていた例の一件、彼らはどのように笑いへと消化してくれるのか。気になりますねえ。

『ベストネタシリーズ ナイツ』および『ベストネタシリーズ ロッチ』は、いずれもコンテンツリーグがリリースする芸人のベスト盤シリーズ。過去の映像の中から選りすぐりのパフォーマンスが収録されています。ちなみに、第一弾のラインナップは2017年8月にリリースされた「アンジャッシュ」「ラバーガール」「うしろシティ」「バイきんぐ」、第二弾は2017年9月にリリースされた「TKO」「アンガールズ」「ハライチ」でした。……ちょこちょこコンビとして活動してないところがいますね……。