白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「M-1グランプリ2019」ミルクボーイ(一本目)(2019年12月22日)

前回の続きから。■七番手に選ばれたのはミルクボーイ。■初めてミルクボーイの名前を目にしたのは2016年の『M-1グランプリ』。準々決勝戦に出場している漫才師の一組として、彼らは居た。その時のネタは『田舎』。将来は田舎で暮らしてみたいという都会育ちの内海に、田舎に住んでいたという駒場が地元の様子について説明するのだが、そこが本当に田舎なのかどうか疑わしい……というもの。この時点でネタのフォーマットは確立されており、駒場の感情を持たないボケと内海の味わい深いツッコミも完成されていた。結果論ではなく、純粋に面白かった。だが、これほどまでにフォーマットが出来上がっている漫才は、白熱の掛け合いが評価されやすいM-1の舞台において、あまり評価されないのではないか……とも思えた。事実、彼らは準々決勝戦で、無念の敗退を期した。■明けて2017年のM-1にも彼らは出場していた。そこでのネタは『叔父』。駒場が尊敬している人物について説明し、それが誰なのか内海が当てようとするのだが、それがどうも叔父のようなのだけれど、どうも叔父ではないようにも思える……。昨年と同じフォーマットを採用していたのだが、M-1を意識したのだろうか、従来のネタよりも内容を薄め、その代わりに終盤の展開で畳み掛ける構成のネタになっていた。しかし、目論見は外れ、この年も準々決勝敗退となった。■そして2018年。またしても彼らはM-1に出場していた。この時のネタは『SASUKE』。駒場のオカンが好きだというテレビ番組のタイトルを思い出すために、母親が話していたことを内海が聞き出そうとするのだが、その内容がSASUKEのようなSASUKEでないような……。この年、遂に駒場のオカンが漫才に登場。ネタも従来のシンプルな掛け合いへと戻った。完成されたフォーマットの中で確かに躍動する漫才師のリズム。だが、まだ足りない。まだ足りなかった。この年も彼らは準々決勝敗退を期す。■そして2019年。初の準決勝進出を果たしたミルクボーイは、そのままの勢いでストレートに決勝進出を決める。とうとう、やっと、準々決勝戦の壁を乗り越えた。■ネタは『コーンフレーク』。好きな朝ごはんの名前を思い出せないという駒場のオカンのために、その証言を元にして内海が推理し始める。基本的なフォーマットは過去大会で披露した漫才と同じ。駒場の説明を受けて、内海が「○○やないか!」「ほな○○と違うか」と仮定と否定を繰り返す。■ただ、明確に違っているのは、内海のツッコミの悪意の鋭さ。例えば、駒場の「死ぬ前の最期のご飯もそれでいい」に対して、「人生の最期がコーンフレークでええわけないもんね!」と返すだけに留まらず、更に「コーンフレークはね、まだ寿命に余裕があるから食べてられるのよ!」と畳み掛ける。この「食べてられるのよ!」に込められた、コーンフレークをバカにするかのような態度がたまらない。これ以降も、その悪意に満ちたフレーズは止め処無く溢れ出る。その度にうねるような爆笑を巻き起こす。コンプライアンスが囁かれる時代において、敢えて着目されにくいテーマを選び、大衆が漠然と抱いているイメージを最大限の悪意で煮詰め、適切な角度から丁寧に注ぎ込むことで、後ろめたさの残らない悪口を笑いへと昇華する。そして、このネタが爆笑をかっさらったことは、そういった笑いを大衆が求めていたことの証拠でもある……というのは、流石に言い過ぎなのだろうが。■結果、ミルクボーイは史上最高得点を叩き出し、かまいたち・和牛によって築き上げられた牙城を、まんまと崩してしまったのであった。■で、ここで終わり……とならないのが、M-1という大会の恐ろしいところ。■続きます。

2020年2月の視聴記録

■2月3日、M-1の感想をなかなか書かないことに突っかかってきた挑発的なコメントに対し、天邪鬼的な反抗を示すべく、当日に入手したばかりのエレ片のDVDを観る。

エレ片 光光☆コントの人 [DVD]

エレ片 光光☆コントの人 [DVD]

 

2019年2月から3月にかけて全国三都市で行われた新作コントライブの模様を収録。エレ片コントライブといえば、とんでもなく面白いか、それなりに面白いけれど物足りないか、どちらかのパターンになることが多いのだけれど、今回は前者。エレ片の三人が演じる三姉妹を中心としたコントはどれもこれもハチャメチャで面白かった。なにせ、やついはイノシシのウンコを食べ、今立は舞台から落っことされそうになり、片桐は砂浜で詩を読みながら怪しげなサロンへと勧誘する。やがて降りてくる神の啓示。何がなんだか分からないが、とにもかくにも面白い。これら本編に加えて、特典映像は幕間で流された『片桐催眠キックボクシング』。催眠術によって恐怖心を取り除かれた片桐がキックボクシングに挑戦するのだが、ついでに色々な催眠をかけられてしまい、最後はドイヒーなことに。これまでに観た特典映像の中でも、サイテーの部類に入るケッ作だった。サイテー、だけどサイコー!

明けて4日、副音声コメンタリーで本編を鑑賞。コントのモチーフとなった出来事やとあるコントのキャラクターの衣装のモデル、ライブで起きた事件などが語られていて楽しい。やはりコメンタリーではライブ自体に関する話で構成されていてほしいなあと改めて思う。(本編75分+特典10分)

■2月10日、酒を飲みながらハナコのDVDを観る。

タロウ4 [DVD]

タロウ4 [DVD]

  • 出版社/メーカー: SMM itaku(DVD)(SNDDP)
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: DVD
 

2019年4月から6月にかけて全国四か所でのツアーが敢行された単独ライブの模様を再現して収録。但し、前作の『しぼりたて』と同様、実際のライブでは披露されなかったコントも演じられている(実際のライブを観てきた方のレポートによると『親戚のおじさん』と『俺だ』がそれに該当するようだ)。舞台の両端に“TANACO”“TAROU4”の巨大なアルファベットが組まれていて、コントごとにそれらが小道具として使用される(例えば“CO”の部分を積んで机のように仕立てていたりする)演出が可愛い。ただ、コントによっては普通の椅子が使われていて、あんまり一貫性がなかったことが少し気になった。どうせなら貫いてほしい。

コント自体はとにかく安定の出来。新元号発表の場で浮かれてしまった人々を描いた『新元号発表』に始まり、男性バイトから恋愛にまつわる話を切り出されるたびに激しく動揺してしまう女性店員の所作がコミカルだけど愛らしい『距離感』、就職の最終面接を控えてロビーで待機している就活生の前にただならぬオーラを放つ清掃員が現れる『清掃員』など、どのコントもしっかりと面白い。ただ、ハナコならではのコント、ハナコだからこそ見せられるコントが、あまり見えてこなかったような気もする。多種多様なコントを自由奔放に演じている今のままでもいいのだけれど、これから先、じわりじわりと表出していくのだろうか。個人的に面白かったのはオーラスの『行かないで』。ネタバレしてしまうと台無しになってしまうタイプのコントなので、是非ともご覧いただきたい。

これら本編に加え、特典映像として『岡部ハーレーを買う?!』を収録。タイトル通りのロケ映像で、これといった意外性はない。ロケ芸人としての道は遠いのかもしれない。(本編60分+特典映像12分)

■2月11日、今年のDVDを早めに消化しておこうと思い立ち、ナイツのDVDを観る。

ナイツ独演会 エルやエスの必需品 [DVD]

ナイツ独演会 エルやエスの必需品 [DVD]

  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: DVD
 

2019年10月から12月にかけて全国ツアーを展開した独演会より、11月16日の横浜にぎわい座での公演の模様を収録。“ヤホー漫才”で一世を風靡したナイツによる独演会も本作でとうとう十作目。ショートネタブームも遠くなりにけり。当時は浅草の星とも呼ばれるに相応しい正統派漫才師ぶりを見せつけていた彼らだが、経年変化の果てに、漫才と大義名分にやりたい放題をやり散らかす正統派の皮を被った地下芸人へと変貌を遂げてしまった。なのに、何をやっても、不思議と正統派の風格を漂わせているのだから、ずるい。しかし、それもすっかり定例化されてしまった昨今、本作で披露しているネタの多くは過去公演で披露したネタの延長線上にあり、これといって新たな発見は得られなかった。無論、それでも尚、しっかりと面白いのだが。ただ、特筆に値する漫才として、土屋がジッタリン・ジンの『プレゼント』を熱唱し、その内容に塙がハチャメチャなツッコミを挟み込む『解散してあげるわ』の存在は記録しておきたい。理不尽なことばかり言い続ける塙が、絶妙なタイミングで的を射たことを言う瞬間がたまらなく面白かった。特典映像は本編でも披露された『平成をヤホーで調べました』ダイジェスト。音質が悪く、映像も一部しか収録されていないが、平成を振り返るには絶妙なラインナップ。(本編73分+特典映像17分)

■2月21日、キュウのDVDを三枚同時購入したので、観る。

2018年4月27日に関交響ハーモニックホールで行われた第一回単独公演の模様を収録。当時、一部界隈において、ぴろの素っ頓狂な発言に清水が「めっちゃええやん!」と受け入れているように見せながら、その実、しっかりとツッコミを入れていく『めっちゃええやん』というフォーマットが注目され始めていたキュウ。そのため、そういう傾向のネタが多く演じられているのだろう……と思いながら鑑賞し始めたのだが、期待は良い意味で裏切られる。とにかく自由奔放。有名な昔話に挟み込まれた異物がどんどん肥大し始める『猿かに合戦』、有名なアニメに出てくる青だるまの名前が分からない『ドラえもん』、シュークリームになることが夢だというぴろが如何にしてシュークリームになるのかを説明する『シュークリーム』など、非現実的な会話が延々と繰り広げられている。とりわけ『ルパン』は衝撃だった。言葉が意味から解放され、無意味なのに何故か理解できる不思議な世界がそこには広がっていた。素晴らしい。(本編60分)

■2月24日、第二回単独公演のDVDを観る。

2018年12月14日に関交響ハーモニックホールで行われた単独公演の模様を収録。再生と同時にエンドトークが始まり、困惑。観客のリアクションから察するに、どうやらチャプターが間違っているわけではないようだ。なんと本公演は、本来の香盤とは逆の順序で構成されているのである。だからエンディングのトークで幕を開け、オープニングトークで幕を閉じる。漫才ライブとは思えないレベルの濃いコンセプトである。ただ、肝心のネタに関しては、いずれも前作の延長線上という印象で、新しい衝撃は得られず。とはいえ全体的にクオリティは高め。清水がティラノサウルスよりも格好良いと称賛される違和感がたまらない『ティラノサウルス』、とある有名な映画をコメディ映画として捉えて酷評する『最低のコメディ映画』、動物との距離感が独特な二人の会話が面白い『動物』など、他に類を見ない設定が目白押し。そしてエンディング、とあるバカバカしい企画が行われていたことが告げられる。あの違和感の理由はそういうことかー……と思いながら、エンドロールを眺めていると、更に衝撃の事実が。キュウというコンビが只者ではないことを提示した、驚くべき仕掛けだった。(68分)

同日、続けざまに第三回単独公演のDVDも観る。

2019年8月6日、座・高円寺2で行われた第三回単独公演の模様を収録。本作から企画・制作として現在の所属事務所であるタイタンの名前が書かれるように。不穏な雰囲気を漂わせるオープニング映像を経て、漫才が始まる。しかし、この漫才が、とにかく退屈でつまらない。ボケにキレがないし、掛け合いも冗長でテンポが悪い。妙な違和感を残しながら、これといった引っ掛かりもなくネタが終わる。幸先の悪いオープニング。ところが、これ以降の漫才は、過去作でも目にしたキュウの漫才が展開されていく。誰でも正解を当てられるだろうクイズを清水が延々と間違え続ける『松崎しげる』、「カレー」のことを「カリー」と言い続けるぴろに清水のストレスが止まらない『好きな食べ物』、有名な昔話について話しているときに突如として出てきた脱線話を舞台上のあっちこっちに置いて回る『桃太郎』、ぴろの好きなものにはある共通点が存在することが発覚する『好きなものを聞き合う』など、ひねりの利いた漫才がこれでもかと見せつけられる。こちらの意識の斜め上を貫く心地良さ。ところが終盤、突如として清水のツッコミが大爆発。そして、あの不穏なオープニングが、あの退屈な漫才が、全てが仕掛けの一環だったことが分かる。公演タイトルですらも……。なんだこれは。なんなんだこれは。通常の漫才ライブでは有り得ない、狐につままれたような感覚が残る作品だった。(90分)

ちなみにキュウは三月、ベスト盤をリリースする。

 気になる方は試してみては。

「M-1グランプリ2019」すゑひろがりず、からし蓮根、見取り図(2019年12月22日)

前回の続きから。かまいたちと和牛がそれぞれに叩き出した高得点によって、最終決戦三組の枠のうち三分の二が埋まってしまったかのように誰しもが確信していた最中、四番手に選ばれたのは本大会最大の変化球・すゑひろがりず。扇子と鼓を片手に能の口調で展開する珍奇な漫才を、余芸ではなく本意気の芸として演じているコンビである。メイプル超合金、カミナリ、トム・ブラウンなどの前例からも分かるように、『M-1グランプリ』は多種多様な漫才を楽しめる大会だが、はっきり言って優勝は望めないスタイルだ。だが、それ故になのか、だからこそなのか、先の二組にも遜色無いほどにウケた。■ネタは『合コン』。合コンに参加してきた南條が、その内容を三島に説明する。設定だけを見るととてもオーソドックスな構成だが、古典的な要素を強引に絡めることで、異世界的な面白さに満ち溢れた漫才へと変貌を遂げる。それが明確に表れていたのが、「従業員」を「伝令係」、「王様ゲーム」を「関白遊び」などのように、一般的な言葉を古典的な言い回しに置き換えていく言葉遊びの部分。とりわけ、「ハッピーターン」を「寿返し」などのように、有名なお菓子を古典的に表現するくだりは話題になった。しかし、その表面的な面白味に留まらず、きちんとショートコントとして適切にオチをつけることも忘れない。抜かりなく、いと面白き漫才にありまする。■こういったスタイルの漫才が撥ね付けられることなく受け入れられるようになったのは、先駆者として髭男爵が存在していたことによるところが大きい。貴族のお漫才に感謝。■結果、ニューヨークが敗退。負け顔できっちり魅せる姿が素晴らしい。■すゑひろがりずによって再び暖められた空気の中、五番手に選ばれたのはからし蓮根。ネタは『路上教習』。■リアルタイムで観ているときは、すゑひろがりずの余韻が強すぎて、あまり記憶には残っていなかったのだが、冷静になった今になって観ると大変に面白い。突飛な導入、設定を大事にした構成、ベーシックなボケの中にさりげなくぶち込まれる「じゃあ横に行きます」「車を置いて自分だけ右折する」「全部涙腺に戻しました」などのアヴァンギャルドなボケ、それらを言葉巧みに処理していくツッコミ、どれもこれも良く出来ている。■特に笑ったのは終盤、伊織が青空演じる教官を車で轢いてからのくだり。轢かれて膝から崩れる青空とバックで逃走する伊織の、あの動きだけで完全に気持ちが持っていかれてしまった。■あの瞬間、とあるコンビのことを思い出したのは、私だけではないだろう。今頃パーケンは何処で何をしているのだろうか。■結果、すゑひろがりずを追いやり、からし蓮根が三位へ。とはいえ点差は僅か二点。爆発の起きない膠着状態が続く。■しかし、ここで何故か、審査員の上沼恵美子が大爆発。今ならニヤニヤしながら見られるが、リアルタイムで見ているときは戦慄したものである。■上沼先生をきっかけに審査員が荒れに荒れたところで呼び出された六番手は見取り図。ネタは『お互いの良いところを褒め合う』。「リリーが嘘のプレゼン→喧嘩→お互いの容姿を例え合う」という構成を二段構えにした漫才で、一段目のやり取りを下地にして二段目で更に進展させる手法を取っている。ボケの弾数も多く、一つ一つのボケを的確に精査した自信があるからこそ成し得る漫才だろう。■ただ、基本的に盛山(ないし二人)の見た目からもたらされるイメージを基に作られているので、先のすゑひろがりずからし蓮根が見せていたような、突飛な発想を感じられなかったことになんだか物足りなさを覚えてしまった。確かに、漫才中に出てきたワードは、いずれも二人のイメージに見事当てはまっていたが、そこから更にもう一段階欲しいのである。「関白遊び」だけではなく「有り難き幸せ!」まで到達してほしいのである。■ちなみに、リアルタイムで「なでしこジャパンボランチ」のくだりで客が引いていたという証言を目にしたのだが、あそこはこれから始まる言い争いの流れを説明するために設けられた台詞で、そもそもさほど笑いを要求している場面ではないので、あんなものだろうと個人的には思っている。『M-1グランプリ2018』決勝において彼らが披露した漫才の中で見せた女性観が古臭いと批判されていたことがあったので、その意見に引っ張られてしまい、そのように見えたのではないかと。「今の時代にそぐわない」との意見もあるようだが、だとすれば二人の容姿に対するイメージを論えた他のフレーズもアウトということになるだろう。■どうでもええけど。■個人的にはハマらなかったが、審査員からの評価はそれなりに高く、からし蓮根と10点差をつけて暫定三位に。■そこそこの高得点も飛び出し、三位の壁もじわりじわりと上がり始めてきた。そろそろ三組目のファイナリストが決まるか……と思われた矢先、あのコンビが登場する。■続きます。

2020年3月の入荷予定

18「うるとらブギーズ単独ライブ「ultra very special boogie」
18「小林賢太郎テレビ8・9・10
25「キュウ「Notion attain sky」
25「マツモトクラブ「クラシック」
25「紺野ぶるま10周年記念単独ライブ「新妻、お貸しします。~ぽっきし税抜3000円~」

R-1ぐらんぷり2020』までに『M-1グランプリ2019』の感想を書き上げたい菅家です。恐らく希望は叶えられません。三十代の何処かで集中力を置いてきてしまったような気がします。でも、HMV限定で発売された、キュウの単独ライブDVDは一気に全巻鑑賞してしまいました。ベラボーに面白かったです。なんでこれが一般販売されていないのかしら。いわゆる漫才師の単独ライブが持つ大衆的な雰囲気を完全に取っ払った、退廃的でロジカルな舞台が繰り広げられています。

https://twitter.com/piroguramu/status/1228546224954863616?s=20

そんなキュウのベスト盤もリリースされる三月。まず注目は『キングオブコント2019』準優勝のコンビ・うるとらブギーズのベストライブDVD! 準優勝しているのに、何故か五位のゾフィーや六位のかが屋、九位の空気階段よりも注目されていない感がありますが、きっと面白いコントを見せてくれているに違いないですぜ。それから実力派ピン芸人のマツモトクラブと紺野ぶるま! どちらもベスト的内容で、初心者でも楽しめる内容になっていることでしょう。ちなみに、どちらも『R-1ぐらんぷり2020』では予選敗退しております。なんでだ。

しかし、一番の注目は、やっぱり『小林賢太郎テレビ』でしょう。2016年に放送された第八弾、2017年に放送された第九弾、2019年に放送された第十弾をまとめたボックス版であります。各回、大泉洋大森南朋壇蜜松重豊などの豪華なゲストを迎えているのですが、個人的に気になるのはなんといっても第八弾に出演したトゥインクル・コーポレーション所属の片桐仁でしょうね。エレ片のメンバーとして知られ、最近では役者やアーティストとしての活動も多く、まさにノリに乗っている状態での出演でした。小林とは同年に行われたコントライブで共演しており、とても息の合ったパフォーマンスを見せています。……ラーメンズ? え? 何それ? 小麦粉か何か?

「R-1ぐらんぷり2020」決勝進出者発表

A-1 メルヘン須長
A-2 守谷日和
A-3 SAKURAI
A-4 野田クリスタル

B-5 ルシファー吉岡(五年連続五回目)
B-6 ななまがり森下
B-7 ほしのディスコ
B-8 すゑひろがりず南條

C-9 ヒューマン中村(五年ぶり五回目)
C-10 おいでやす小田(五年連続五回目)
C-11 ワタリ119
C-12 敗者復活枠

今年も発表されたのでチェック。毎年、R-1はコンビの片割れがやたらと多いイメージがあるのだけれど、今年もしっかり多い。すゑひろがりず南條(すゑひろがりず)、ななまがり森下(ななまがり)、野田クリスタルマヂカルラブリー)、ほしのディスコ(パーパー)、ワタリ119キラキラ関係)と、十一組中五組がコンビの片割れ。とはいえ、圧倒的に売れているコンビはおらず、全体的に癖の強いラインナップとなっている。ちなみに、野田クリスタルマヂカルラブリーとして『M-1グランプリ2017』『キングオブコント2018』でそれぞれ決勝進出を果たしているため、これで主要賞レース三大会の決勝進出を果たしたことに。唯一無二の天才だな。

残る六枠のうち、三枠は常連(おいでやす小田、ヒューマン中村ルシファー吉岡)、三枠は新人(SAKURAI、メルヘン須長守谷日和)という内訳に。新人の三人はあまり知らない人たちなので、けっこう楽しみにしているのだが、何の因果か序盤に固まってしまった。空気が出来上がっていないうちに登場して、自身の実力を見せつけられるのは難しいような気もするが、頑張ってもらいたい。

ところで、今年もファイナリストの中に、マツモトクラブの名前がない。五年連続決勝進出、しかしそのうち四回は敗者復活からの勝ち上がりという審査員との相性の悪さで知られているマツクラ氏、今年もハマらなかったようだ。今年も敗者復活ステージを勝ち上がって、六度目の決勝進出を決めるのか。それとも他の芸人たちに席を譲ることになるのか。その点にも注目したい(ちなみに予選ではZAZYや4000年に一度咲く金指の評判が良かったらしい)。

決勝の模様は3月8日放送予定。

「M-1グランプリ2019敗者復活戦」(2019年12月22日)

カミナリ「あるあるゲーム」
囲碁将棋「ウォシュレットのケツ」
天竺鼠「医者」
和牛「物件の内見」
ラランド「ビッグな芸能人としてチビッ子に対応」
マヂカルラブリー「子供を痛くないように注射を打ちたい」
ミキ「『扉を開けて』
くらげ「女心は分からない」
四千頭身「生徒を叱る教師」
東京ホテイソン「This is a pen」
錦鯉「まさのり数え歌」
セルライトスパ「ディズニーの面接」
ダイタク「コンビニの接客」
ロングコートダディ「海老の天ぷらとコンパ」
アインシュタイン「クルーザー」
トム・ブラウン「安めぐみを作る」

当時、リアルタイムで見られなかったものを、今更ながら視聴。司会二人の進行の拙さが気にはなったものの、漫才そのものはどれもこれも面白かった。もしも投票していたとしたら、カミナリ、ラランド、四千頭身だろうか。特にラランドの活躍には驚かされた。天竺鼠、和牛と爆発力の強いコンビが続いた後で、あんなにしっかりと笑いを取りに行けるなんて、なかなか出来ることではない。

全体の流れとしては、前半に個性派が集まって、後半に技巧派が並んだという印象。とりわけセルライトスパ、ダイタク、ロングコートダディの流れは渋かった。いずれも面白いコンビなのだが、こういう玉石混交の空間に放り込まれると、どことなく地味な印象を与えられる。跳ねる要素が欲しい。その点では、四千頭身のネタが実に戦略的だった。「コント内に登場する人物名が有名人を想起させる」という安易なボケが、じわりと闇営業問題の面々へと食い込んでいく不敵さ。それをM-1でやる意味。漫才という観点で見ると弱かったが、アピールという意味では良く出来ていた。このところ、彼らには感心してばかりである。

「ENGEIグランドスラムLIVE」(2019年8月17日)

 オープニングアクト水谷千重子×Chage「ふたりの愛ランド」
キングコング「漫才:劇場公演・肝だめし」
ロッチ「コント:言うて~」
NON STYLE「漫才:女性に服をプレゼント」
ロバート「コント:イベント中継」
変人「ワンカットものまねメドレー in湾岸スタジオ
チョコレートプラネット「コント:エンターテインメントショー」
和牛「漫才:誕生日プレゼントで欲しいもの」
 歌謡祭:EXIT×立川俊之「それが大事」
 歌謡祭:TT兄弟×岩崎良美「Tッチ」
 歌謡祭:ココリコ遠藤×武田真治愛は勝つ
ハライチ「漫才:俺の推し政治家」
かまいたち「コント:似顔絵」
フットボールアワー「漫才:生放送中に泥棒が心配」
バイきんぐ「コント:ポイントカード」
ジャルジャル「コント:若ハゲサンキュー」
ナイツ「漫才:英語で漫才」
 第七世代:霜降り明星「漫才:豪華客船」
 第七世代:四千頭身「漫才:結婚の挨拶×広告」
 第七世代:ハナコ「コント:発表」
 第七世代:EXIT「漫才:にわかパリピ
 第七世代:宮下草薙「漫才:歯医者さん」
 第七世代:ゆりやんレトリィバァ「ポールダンス」
ジャングルポケット「コント:浮気」
バカリズム「コント:自慢アレルギー」
友近&ハリセンボン春菜「コント:フリーマーケット
麒麟「漫才:地味婚」
 第七世代:ミキ「漫才:スーツ代」
 第七世代:かが屋「コント:年金を払ってない女」
 第七世代:まんじゅう大帝国「漫才:登山」
 第七世代:ザ・マミィ「コント:霊能者・松ノ門」
 第七世代:金属バット「漫才:九九」
千原兄弟「コント:僕たち2匹を拾ってください」
アインシュタイン「漫才:カリスマ美容師」
 蘇りお化け屋敷:モンスターエンジン「神々の遊び」
東京03「コント:待ちわびて」
爆笑問題「漫才:吉本闇営業問題、小泉進次郎滝川クリステルの結婚」
 エンディング

昨年夏に放送された番組を今頃チェック。前回と同様、第七世代が中心となっていて、世代交代の気運を感じさせられてる。提唱者として矢面に立たされているせいや霜降り明星)には同情するが、そのお陰でまんじゅう大帝国、ザ・マミィ、金属バットが取り上げられるのは有り難い。

個人的に面白かったのは、安心安定のNON STYLE、アイドルのシステムを政治に逆輸入させたハライチ、生放送であることを存分にネタに取り入れたフットボールアワー、ほぼ全編を英語で構成していたにもかかわらずしっかりと笑いを掻っ攫ったナイツ、オーソドックスな漫才コントにYouTubeの広告を混ぜ込むという構成が衝撃的な四千頭身、正統派の漫才を始めるかと思いきや完全なVシネパロディを展開させたミキ、カップル同士のアホな会話で社会問題に見事切り込んだかが屋。特にかが屋は、噛み締めるたびに絶望の味が滲み出そうで、何とも言えない気持ちにさせられた。

エンディングでは、カジサックのゲスな質問に対して爆笑問題が上手く切り返しているところへ、しれっと三瓶とハンバーグ師匠が乱入し、ハチャメチャな状態に。生放送ならではのお祭り感漂う空気のまま、番組が終了していた。楽しいね。

三十五

かつて日本には誕生日を祝う習慣がなかったらしい。

堀井憲一郎の『落語の国からのぞいてみれば』によれば、1950年に『年齢のとなえ方に関する法律』が定められた時代から、庶民にとって誕生祝がリアルに成り始めたのだろう、とのこと。それ以前の誕生祝は、天皇や将軍のような貴人のものであったそうだ。

誕生日を祝う習慣が当たり前に存在している時代に生まれてきた自分には、にわかに信じがたい話である。だが、言われてみると、確かに誕生日のお祝いというのは、どうも日本的ではないような気もする。例えば、ケーキがなければ、何処に年齢の数のろうそくを刺せばいいのか分からない。おはぎや饅頭ではキャパ的にもビジュアル的にも力不足である。無理をするな。

とはいえ、誕生日を祝われるのは、やはり嬉しいものである。ごくごく個人的な、当人や当人の身内だけが知っているようなことを、他人に祝ってもらえる有り難さは、何物にも替えがたい。

というわけで、本日はワタシの誕生日である。1985年2月7日生まれにつき満三十五歳になる。数えやすい。

若い頃には、三十五歳にもなれば、人間的にもすっかり落ち着いて、ちょっとした所作にも大人のしなやかさが滲み出るものだと思っていたのだが、今の自分を冷静に観察してみると、二十歳のように迂闊で情けない醜態を晒しながら生きている。何も成長していない。否、成長しようと意識しながら、生きていなかったのである。インターネット上には、そういった大人が沢山蔓延っているので、それでも妙に安心感を覚えてはいるのだが。

ともあれ三十五歳である。松山ケンイチ綾瀬はるか山下智久中川翔子山下健二郎蒼井優松田翔太上戸彩ウエンツ瑛士宮崎あおい満島ひかり貫地谷しほり、と同じ年に生まれている。比較したところでどうなるものでもないのだが。

なんとなくの折り返し地点を過ぎて、どうやら人生はまだまだ続く。とりあえず、少しは大人になろうと思いながら、これからは生きていきたい。出来る範囲で。