白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

『チョップリン「7300days」』(2019年11月6日)

7300days [DVD]

7300days [DVD]

 

2019年8月24日に新宿角座で開催された結成20周年記念ライブを収録。

チョップリンは小学校の同級生である小林幸太郎西野恭之介によって1999年に結成された。2003年に「第24回 ABCお笑い新人グランプリ 最優秀新人賞」「第38回 上方漫才大賞 優秀新人賞」「第32回 上方お笑い大賞 新人賞」を受賞、関西の賞レースにおいて高い評価を受ける。2004年に「ABC新人お笑いグランプリ」で審査員を務めていた大竹まことを有するコントユニット・シティボーイズのライブにゲストとして参加。更なる活躍が期待されていたが、その後はパッとせず。現在はラジオ関西において冠番組『日曜チョップリン』を放送中である。

チョップリンといえば『ティッシュ』の印象が強い。ティッシュの検品を任された新人(西野)が先輩(小林)から仕事内容について説明を受けるのだが、良いティッシュと悪いティッシュの区別がつかない。しかし、何故か相違点について具体的に教えてもらえないため、なんとなく分かったような顔をして作業を開始することに……。現実には有り得ないシチュエーションだが、とはいえ、実際の現場にも多かれ少なかれ「なんとなく分かったような感じで行われている作業」は存在し、その意味では強いリアリティを感じさせる。聞くところによると、西野の実体験から生まれたコントらしい。道理で。

本編の一本目で披露されている『箸工場』も、この名作『ティッシュ』を思わせる設定のコントだ。新人(西野)と先輩(小林)が二人掛かりで割り箸を箸袋に詰めるだけの作業を延々と続ける。あまりにも単純な作業のために、あっという間に昼休みが来て、あっという間に定時を迎えてしまう。単調でやりがいの感じられない作業の連続。そんな生活を始めて三日目、新人が身体に変調をきたす。突然、手の震えが止まらなくなってしまったのである。そんな新人の様子を見て、先輩はこともなさげに説明する。

「それはな、この会社では“人生発作”と呼んでいる」

『箸工場』は同年7月にABCホールで行われたライブでも披露されている。私は当時、その公演を鑑賞しているのだが、このコントを観たときの衝撃は今でも忘れられない。これほどまでに壮絶な設定のコントを私は他に見たことがない。『ティッシュ』におけるティッシュの検品作業と同様、割り箸を箸袋に詰めるだけの作業など現実には(恐らく)有り得ない。だが、このコントで描かれている、先の見えない生活・将来に対する不安は現実味を帯びている。その切実さは『ティッシュ』とは比べ物にならない。そこには確実に、私たちの生活に直結している憂鬱が息を潜めている。

「嫌だ!僕は嫌だ!ここで終わりたくないぞ!」

だからこそ、終盤に突如として投げ込まれるナンセンスな展開に、希望を感じさせられるのだが。

こんなにもハードなコントで幕を開けている本作だが、以後のコントもこれと負けず劣らぬ名作揃いだからたまらない。双眼鏡で容疑者様子をじっと伺っていて手が離せない先輩刑事の指示する飲食物を次々に口へと近づける『あんぱんと牛乳』、深夜二時のテレビに映し出された98歳の新人落語家“桂三途の川”による創作落語を鑑賞する『新人落語家』、イタズラ電話が趣味の男がテキトーに電話を掛けた相手はとんでもない人物だった!『イタ電』など、どのコントも衒いのない面白さ。

とりわけ『ケーキ屋』は屈指の出来。予約していた誕生日ケーキを引き取りに店へとやってきた父親(西野)が店員(小林)にケーキの状況を確認すると「マダデキテネェ」とぞんざいな扱いを受ける……という設定のコントなのだが、音声案内のように無機質な対応を取り続ける店員に対してどんどんヒートアップしていく父親のやり取りが、とてつもなく面白い。徹底的に無駄を省き、両極端な気質の二人によるシンプルなやり取りだけで構成されているコントを、技巧派というイメージをまったく持たせないチョップリンが(事実、『易者』のコントでは、小林の至らなさが故に意図していたこととはまったく別の笑いが生み出されてしまっている)やってのけている。『箸工場』と合わせて必見のコントである。

これら本編に加え、特典映像としてチョップリンの二人がこれまでのコンビ活動を振り返る『チョップリン上京物語』、彼らの代表作の一つ『ニューヨークにて』、東京昼公演・夜公演終了後のトークを収めた『鼻くそアフタートーク』を収録。『チョップリン上京物語』は二人の出会いからコンビ結成、東京での日々に至るまでしっかりと語り尽していて、見応えたっぷり。『鼻くそアフタートーク』は西野のシティボーイズリスペクトの締めの言葉までしっかりと収められている。いつだったか、大竹まことチョップリンに対して「俺たちの次はチョップリンかもしれない」という言葉を寄せていたが、『箸工場』のクオリティを思うと、いよいよ実現してきたといえるのかもしれない。

・本編【88分】
「箸工場」「あんぱんと牛乳」「新人落語家」「易者」「イタ電」「ケーキ屋」「強盗とニート

・特典映像【37分】
チョップリン上京物語」「ニューヨークにて」「鼻くそアフタートーク