白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「タイムマシーン3号単独ライブ「餅」」(2019年4月17日)

タイムマシーン3号単独ライブ「餅」 [DVD]

タイムマシーン3号単独ライブ「餅」 [DVD]

 

2019年1月12日・13日に全電通労働会館で開催された単独ライブより、13日の模様を収録。作・演出はタイムマシーン3号。彼らの単独ライブがソフト化されるのは、2017年8月にリリースされた『タイムマシーン3号単独ライブ「米」』以来、およそ一年十ヶ月ぶりとなる。太田プロダクションは自社の芸人の単独ライブのソフト化に積極的ではない印象があったので、このペースでのリリースはとても嬉しい。この調子で、他の芸人の単独ライブも同様にソフト化してもらえると大変に有難いのだが。

本編を再生すると、早々に漫才が開始される。出囃子が流れる中、センターマイクの前にやってくるタイムマシーン3号の二人。とはいえ、まずは緩やかにオープニングトークからスタート。客層の年齢が上がってきていること、遂にライブチケットの転売が発見されたこと、他愛のない話が軽妙なトーンで語られる。そして始まる一本目の漫才は、関が考えてきたオリジナルアニメの内容を山本に聞かせる『オリジナルアニメ』。数多くの漫才師たちが手をつけてきたベタな設定だが、タイムマシーン3号お得意のデブ要素を随所に散りばめていて、他の追随を許さないクオリティに仕上がっていた。なにせボケのはめ込み方が上手い。かなり序盤で観客に「デブを主軸としたネタ」であることを認識させているにも関わらず、想定していない角度から的確にデブ要素を投げ込んでくるので、ついつい笑ってしまう。身体的特徴を取り入れている漫才・コントを低レベルであると捉えている人も少なくないが、少なくとも彼らの“デブ”を笑いに転換する技術は、間違いなく一級品である。

二人が餅つきに興じるオープニング映像を挟んで、続いて披露された漫才は、関が友達に誕生日のサプライズパーティに誘い込む練習を始める『サプライズ』。相手にバレないようにこっそりとパーティに誘わなくてはならないのに、サプライズを仕掛けていることが完全にバレてしまうような言動を取り続ける関のゴキゲンな振る舞いが面白い。このネタも、先の『オリジナルアニメ』と同様に、序盤で漫才の方向性を明らかにしているのだが、やはりボケの角度の絶妙さで着実に笑いを引き出している。そのまま暗転することなく、次のネタへ。引っ越しを考えている山本が関の演じる不動産屋と共にタワーマンションの内見に向かう漫才コント『不動産』。先の二本と同様、ボケの角度は絶妙なのだが、関が暴走するくだりが随所に見られ、ややライブ感の強い内容に。また、漫才コントにしては、あまりシチュエーションに重きを置いていないような印象も残った。彼らの芸風と漫才コントはあまり合わないのかもしれない。

幕間映像を挟んで、本作唯一のコント『カツアゲ』へ。「キングオブコント2016」決勝の舞台で披露された、あのネタである。不良(山本)に言いがかりをつけられた気弱そうな学生(関)がお金を持っているかどうかを確認するために「飛べよ!」と言われ、嫌々ながらジャンプすると、全身から小銭が溢れ出し……。先の漫才と同様、これもまたパターンを観客に理解させた上で更に笑いを引き出していく手法を採用している。この手法、下手すると先細ってしまいかねないのだが、このコントでは「全身から小銭が溢れ出る」というトリッキーな設定と画の異常な強さが与えるインパクトを最後までしっかりと維持している。この見事な着想、確かな技術よ。驚いたのは、大会で披露されたものとはオチが違っていたことである。聞くところによると、当時の予選ではこちらのオチを採用していたらしい。まあ、多くの視聴者の目に留まる決勝戦には、あの不気味なオチは不適切といえるのかもしれない。

二人が軒下で餅を食べる謎のワンカット映像が流れ(実際のライブでは別の映像が流されていたのだろうか?)、次の漫才へ。関がとある旅館で体験したという恐怖のエピソードを語り始める『怖い話』。一応、基本的にはちゃんとした怖い話なのだが、所々で挟み込まれるメインのストーリーとは無関係な部分が引っ掛かってしまって、話に集中出来ない……という、近年では割とベタな手法を取り入れた漫才である。ただ、その引っ掛かる部分の表現がやけに豊潤で、なんだか妙に楽しかった。

この『怖い話』からの流れを受けて始まる『悪魔の○○えもん』は、あの国民的人気キャラクターのダークサイドの部分を強めた版権ネタ。ただ、その内容は安易な版権ネタの域を軽やかに飛び越え、普段のタイムマシーン3号の漫才からは想像もつかないレベルのアウトローな発想が次々に飛び出している。とりわけ、何の理由もなくヘリコプターのプロペラでス○夫の頭をふっ飛ばした悪魔の○○えもん(関)が、とてつもない恐怖心から思わず激しく腕を叩いてきたの○太(山本)に対し、見せたリアクションは最高の一言。版権ネタをやるならばここまでやらないといけない、という一つのお手本のような漫才だった。絶対にテレビでは出来ないだろうけれど。

再び幕間映像を挟んで、いよいよライブは終盤へ。まずはエアコンの温度設定の権利を懸けてじゃんけんで勝負する『じゃんけんできめよう』。じゃんけんをテーマにした漫才といえば、じゃんけんを右手でやるか左手でやるかというようなレベルの話を延々と繰り広げる中田ダイマル・ラケットの名作を思い出さずにはいられないが、タイムマシーン3号のそれは、じゃんけん勝負を決めるためにじゃんけんをする……というような無駄なくだりが何度も何度も何度も何度も積み重ねていくスタイル。ダラダラしていたら飽きられるだろうことを見越していたのか、なかなかなスピード感で展開していた。そして、オーラスの漫才『一昨日の食事』へ。年を取り、記憶力が弱まり、一昨日の食事が分からなくなり始めているという山本に対し、そんなの簡単だと豪語する関が一昨日に食べた料理の名前を挙げ始める。テーマを見ても分かるように、ここで再び彼らが得意とするデブメインのネタが始まるわけだが、途中から食事の内容がドラマチックな展開へと舵を切り始める。年齢からの脳の衰えの話から、どうしてこうも飛躍的なストーリーを思い描けるのだろうか。その発想力に感心させられた一本だった。

これら本編に加えて、特典映像として12日の公演でのみ披露された漫才『お年寄りに席を譲りたい』『エロくする』を収録。お年寄りに席を譲りたいのに譲れなかったという関の話に隠された真実が明らかになる『お年寄りに席を譲りたい』もトリッキーで面白い漫才だったが、やはり注目すべきは関のなんでも太らせる才能を下ネタ方面に開花させた『エロくする』だろう。恐らくは「ゴッドタン」の下ネタ企画〈ネタギリッシュNIGHT〉向けに作られたのだろうが、下ネタのイメージがない彼らが演じるにしては強めの下ネタが盛り込まれていて、中盤では観客の悲鳴が上がっている。はっきり言って、本編で披露されている漫才を観て、「もはや彼らはベテラン漫才師の域に入っているな!」と感心した購入者の気持ちを粉砕するに足る内容なので、これはむしろ是非とも多くの方々にご覧いただきたい。いやー、ヒドかった……。

・本編【69分】
「オリジナルアニメ」「サプライズ」「不動産」「関太コミケに行く!![前編]」「カツアゲ」「怖い話」「悪魔の○○えもん」「関太コミケに行く!![後編]」「じゃんけんできめよう」「一昨日の食事」

・特典映像【8分】
「お年寄りに席を譲りたい」「エロくする」