白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「爆笑オンエアバトル2019」(2019年3月24日)

「漫才:ドライブ」。バイト先の店長からドライブに誘われて喜んでいた草薙だったが、宮下からドライブの概要を説明されると、あまり楽しくなさそうな気がしてきて……。ネガティブな感情をこじらせた草薙の妄想が、非現実的な裏世界を生み出していく様子を笑いに昇華している。裏世界に独自性を見出すのではなく、裏世界を妄想して不安になって独りよがりに動揺し始める草薙の過剰さが笑いに繋がっている点が興味深い。とはいえ、“バイト先の店長とドライブに行く”という気の休まらない状況が話の発端となっているため、一定の共感は得られるという絶妙さ。一方で、「俺はお金の発生しないところで芸は見せない」などのように、ふとした瞬間にポジティブな姿勢を見せることで、人間としての深みを感じさせている。このバランス感がたまらない。一方で、ツッコミの宮下が、それなりに気の利いたことを言っているにも関わらず、あまり観客にウケていない様子だったことが気になった。ちょっとウケようという意図が見えているからかもしれない。今後、何かしらかの対策が必要か。

 

 

  • ザ・マミィ【533kb】

「コント:霊能者」。「死んだ親父にもう一度会いたい」という青年(林田)から依頼を受けた霊能者の松ノ門雲州(酒井)は、自らの身体に父親の霊を宿す。しかし、彼の真の目的は、幼かった自分と病気がちだった母親を捨てて出ていってしまった父親に、復讐を果たすことだった。この世に存在しない父親と母親の幻影に振り回されている青年の姿は、冷静に考えてみると、なかなかに悲惨である。だが、そんな陰鬱な関係性に不運にも巻き込まれてしまった霊能者の存在が、状況を一転してドタバタコメディへと発展させる。また、この霊能者の台詞が、いちいち可愛げがあるからたまらない。なにせ一人称が「松ノ門」である。字面は堅いが、言葉の響きは「ドラえもん」を思わせる。可愛くて仕方がない。脚本も丁寧に作り込まれている。青年と両親のやり取りはしっかりと組み立てられているし、それに伴い、彼らに対する松ノ門のリアクションも右肩上がりに良くなっていく。目が覚めるたびに繰り出される「どういう状況!?」の言い回しも素晴らしい。個人的には、青年に銃をぶっぱなされたときの「クレイジーすぎる! こだわりの内装が……!」という台詞がピカイチ。無関係な言葉同士を組み合わせることで、後の台詞をじっくりと理解させるように仕組んでいる。そして終盤、全ての事態が終結されるかと思わせておいて、あの母親のクレイジーな発言である。たまらない。惜しむ点があるとすれば、あまりにもあっさりとし過ぎたオチだろうか。否、あそこで切る潔さこそを、褒めるべきなのかもしれない。

 

 

「コント:遭難」。飛行機が不時着、辿り着いた無人島で救助を待ち続けていた乗客たち(藤田)だったが、何の音沙汰もないまま三日が過ぎ、食糧も底を突いてしまう。そんな最中、ある男(﨑山)が全員にピストルを突き付け、島に自らの独裁国家を築き上げることを宣言する。「ピストルを突き付けて脅迫する」という行為と「建設的に全員が助かる方法を的確に指示する」という発言のギャップを笑いに昇華しているコント。手法としてはベーシックだが、だからこそ丁寧に雑味を加えず表現するとしっかり面白い。構成面だけを意識しながら鑑賞すると、その練り上げられた台本に感心せざるを得ない。例えば、低姿勢かつ丁寧な口調で登場しておきながら、ピストルを取り出した途端に性格を変貌させるクレイジーな冒頭。一度、口答えした藤田のこめかみにピストルを突き付けるくだりは一見すると無駄に思えるが、﨑山演じる男のヤバさを引き立てるための大事なプロセスだ。この丁寧なキャラクター描写があったからこそ、その後の男の目的(=コントの本題)がじわりじわりと明らかになっていく展開で、しっかりとカタルシスが生じる。途中、拳銃の存在を再認識させ、再び緊張感を走らせるも、想像を裏切る場面を盛り込んでいるのも良い。キャラが確固としてぶれていない。それを受け止めるツッコミ役の藤田の存在も大きい。やや説明的ではあるが、端的に﨑山の発言の本質を言語化することで、そのギャップの構築に一役買っている。意外性という点では物足りなさもあるが、豪速球の力強さを改めて認識させられる質の高いコントだった。

 

 

「漫才:遠足」。小学生が遠足に出掛けるシチュエーションを二人で再現する。意図が伝わりづらいショーゴのボケを、たけるが備中神楽仕込みの独特なイントネーションによるツッコミで解説するスタイルの漫才。ただ、笑いが起きるまでの展開を思うと、漫才というよりもむしろ掛け言葉の類いに近いような印象を受ける。ショーゴのボケがどのような意図によるものなのか疑問に感じている観客に、たけるがツッコミという名の回答を披露することで、疑問が晴れて笑いが起きているからだ。近年の例でいえば、オリエンタルラジオの『武勇伝』に近いものがある。ただ、たけるが単なる回答を見せているわけではなく、さりげなく偏見が盛り込まれている点が、少なからず笑いに作用しているようにも思える。「い~や、黒霧島のペース!!!」「い~や、マイメロちゃんの弁当!!!」「たぶんお前の親、喪服の色、ピンクだろ!!!」などは、特にその傾向を感じさせられた。現状のスタイルを思うと、そちら方面にシフトしていく可能性もあるだろう。だが、個人的には、たけるの「リンダリンダなのだ!」という言い回しが最も印象に残っている。単純に、こういうバカみたいな言い回しが、たけるは妙に似合っている。一度、バラエティでハマれば、とんでもない人気者になるかもしれない。

 

 

「コント:朝の電車」。早起きして、いつもよりも一本早めの電車に乗れた青年(水川かたまり)の前に現れたのは、辺り構わず怒鳴り散らすヤバいおじさん(鈴木もぐら)。ところが、絡まれないように背を向けながら観察していると……? 登場時の行為と言動のギャップが笑いに昇華されているという点では、先のファイヤーサンダーのコントに似ている。ただ、シチュエーションが日常的で、しかもテレビメディアではあまり取り上げられることのない類いのクレイジーなおじさんに軸を置いているため、ファイヤーサンダーのコントとは別ベクトルの緊張感に満ち溢れている。玉が転がれば、どんなネタでもオンエアさせる。そんな『オンバト』の矜持を再認識せざるを得ない。また、コントの中に登場する人々が、かなり具体的に描写されている点も見逃せない。これにより、おじさんの優秀さを様々な角度から描くことが出来るし、様々な人が行き交う朝の電車風景を思い浮かべることも出来る。コントの世界に入り込める。だが、このコントの特性は、なんといっても「ヤバいおじさんがリアル」な点にある。だからこそ、ヤバいおじさんが実は良い人……というギャップの笑いと同じぐらいに、このおじさんのシンプルにヤバい部分も笑いに昇華されるのである。コントで演じられていることではあるが、そこには嘘がないような気がする。なので、ヤバいおじさん同士のバトルのくだりは、正直なところ蛇足に感じられたのだが、あれも構成上で必要な要素だったのだろう。あと、言及するほどではないが、冒頭で水川が口にする独り言の妙なイントネーションが、ちょっと面白かった。

 

【今回のオフエア
481kb:ヒコロヒー
393kb:キャメロン
373kb:ヤーレンズ
349kb:ネイビーズアフロ
309kb:かが屋

松竹芸能所属の女性ピン芸人、ヒコロヒーが惜しくも敗退。名前を見かける機会の多い人なので、普段はどんなネタを演じているのか少し楽しみにしていたのだが。残念。以下、ヤーレンズネイビーズアフロかが屋と、他メディアで名前を見かける機会も少なくない芸人が軒並み敗退。とりわけ、マセキ芸能社所属のコント師かが屋の最下位には驚いた。もてはやされている現状に甘んじるな、というメッセージだろうか。キャメロンはホリプロコム所属のお笑いコンビ。M-1では二回戦敗退が最高らしいのだが、どのような点が評価されて、番組への出場を決めたのだろうか。いずれネタを目にする機会に恵まれることを祈る。

 

爆笑オンエアバトル2019」は、「爆笑オンエアバトル 20年SPECIAL」の第二部として放送された。司会進行はタカアンドトシ。審査員は過去に『爆笑オンエアバトル』『オンバト+』でオンエアされた経験のあるお笑い芸人100人。出場者は、養成所の講師を務めている大輪教授とユウキロック(元ハリガネロック)が担当。第一部の模様は、「オンバトサポーター」によるレポート、「ヨイ★ナガメ」による番組の爪折り記事を参考にされると良いと思われます(敬称略)。当時、番組を見ていた世代が、こうして芸人となって活躍していることを考慮すると、番組の最後に司会のアナウンサーが言っていたことは微塵も間違っていなかったんだなあと思い知らされる。

「新しい笑いを作るのは、挑戦者の皆さんと客席の皆さん」

「そして、テレビの前の、あなたたちです!!!」

この志を忘れないようにしましょうね。いやマジで。