令和時代のお笑い公論

心が壊死する、その前に。

「上田慎一郎・ふくだみゆきレトロスペクティブ」(2019年2月11日)

二月九日から十一日にかけて行われた【さぬき映画祭】より、十一日にかがわ国際会議場で行われた同イベントに参加してきた。今や『カメラを止めるな!』の監督として知られている上田慎一郎氏と、その妻であるふくだみゆき氏の過去作品の上映会である。一般的には上田作品に対して注目が集まっていたのだろうが、変わり種のアニメーション映画が好きな私は、ふくだ監督によるショートアニメ映画『こんぷれっくす×コンプレックス』の方に興味を惹かれていた。否、もっと言ってしまうと、私は『カメラを止めるな!』のことを世間で評価されているほどに好ましいとは思っていなかったので、上田作品に対する期待は皆無に等しかった。

開場時刻は午後一時半だったが、三十分前には会場前のロビーに到着(あまり訪れることのない場所だったので、早めに家を出たためである)。すると、そこには、あのお馴染みの帽子を被っている上田慎一郎監督が、一般の人とコミュニケーションを取っている。サインを書いたり、写メを撮ったりしている。クリエイターとは思えない、実にフランクな対応である。瞬間、その輪に加わりたい衝動に駆られたが、先述した通り、私は上田監督の作品をさほど評価していないので、そんな自分がサインを求めるのは失礼だろうと思い、一歩引いたところから様子を伺う。そうこうしているうちに開場時刻となったので、チケット(チケットぴあを使って2,000円で購入。)をもぎってもらって中へ。自由席なので中央のあたりの席を陣取る。

午後二時開演。ラインナップは以下の通り。

【Part.1】「上田慎一郎ショートムービーコレクション」
「彼女の告白ランキング」(上田監督/2014年/21分)
ナポリタン」(上田監督/2016年/19分)
「テイク8」(上田監督/2015年/19分)
「Last Wedding Dress」(上田監督/2014年/24分)

【Part.2】「恋愛オムニバス」+「映画 4/猫」からの一本
「こんぷれっくす×コンプレックス」(ふくだ監督/2015年/24分)
「恋する小説家」(上田監督/2011年/40分)
猫まんま」(上田監督/2015年/24分)

【Part.3】「沖縄国際映画祭」出品作品
「耳かきランデブー」(ふくだ監督/2017年/33分)
「たまえのスーパーはらわた」(上田監督/2018年/45分)

結論から言うと、上田慎一郎作品がどれもこれも素晴らしかった。正直、驚いた。『カメラを止めるな!』におけるどんでん返しのロジックを除外した途端に、こんなにもストレートにクリエイターの衝動を肯定する作品になろうとは思わなかった。結婚式場を舞台とした撮影中に女優の父親が押し掛けてくる『テイク8』、ミステリー作家志望の青年の元へ没原稿の主人公がやってくる『恋する小説家』、男女コンビが抱えている苦悩と不安を色濃く浮かび出した『猫まんま』、そしてスプラッター映画好きな女子高生監督の苦悩と成長を描いた『たまえのスーパーはらわた』……どの作品も、クリエイターたちの葛藤と歓喜を見事に表現している。否、恐らく、これらの作品には、上田監督自身の思いが恥ずかしげもなく真っ直ぐに込められているのだろう。だからこそ刺さる。心が揺さぶられる。創作することに疲れた人こそ観るべき作品である。

対して、ふくだみゆき作品は、徹底してフェティッシュ固執していた。男子の腋毛に対して興味津々な女子高生を描いた『こんぷれっくす×コンプレックス』、耳掃除に情熱を燃やしている女性が耳掃除の苦手な男性と出会ってしまう『耳かきランデブー』、どちらも男性の身体の一部に対して、熱い視線を送っている。その姿は笑いに昇華されているけれど、一方で、男性が女性に対してそういう視線を送っているように、女性も男性に対してそういう視線を送ってもいいんだよ、と投げかけているようにも見える。そのような意図があるのかどうかは知れないが、だとすれば、これからの作品の展開に更なる期待を寄せずにはいられない。

なお、各パートの最後に、上田監督・ふくだ監督による軽めのトークイベントが催されたのだが、どのような話をしていたのかはまったく覚えていない。私の記憶力の至らなさにも困ったものである。それと、トークの後の休憩時間には、必ずロビーに上田監督が出て来ていた。どんだけフランクなんだよ!

午後七時十五分ごろ、終演。外に出ると、上田監督とふくだ監督が見送りにロビーへと出て来ていた。さっきまでトークをやっていた人とは思えないフットワークの軽さである。先程までとは打って変わって、上田作品に大いに感動していた私は、ここで最初で最後の固い握手を監督と交わす……つもりだったのだが、生来の恥ずかしがり屋が災いして、ただただ深い会釈を交わすだけで別れることに。情けなや。次こそは、きっと監督と握手しようと固く誓いながら、帰路につく私であった。ああ情けなや。

……それにしても、今回上映された作品、いつかソフト化される日は来るのだろうか。かなり良かったと思うので、手元に置いておきたいのだが。されるといいなあ。