白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「女芸人 No.1決定戦 THE W」(2018年12月10日)

・司会
徳井義実チュートリアル
水卜麻美日本テレビアナウンサー)

・ブレイクサポーター
志尊淳

・ゲスト
福原愛
ヒロミ
中尾明慶
土屋太鳳
滝沢カレン
清水ミチコ

・副音声
松本人志ダウンタウン
高須光聖

・審査員
一般公募から選ばれた401名

【1stステージ】

・第一試合

ゆりやんレトリィバァ「ミヤネ屋」(111票)
あぁ~しらき「サンバイザー」(290票)

第一試合はピン芸人対決。

前回大会を制した初代女王・ゆりやんレトリィバァが先攻を取る。演じるのは、宮根誠司に扮して「ミヤネ屋」を繰り広げるパロディコント。鬱陶しいほどに誇張された指し棒、スタジオコメンテーターの発言に対する無関心な表情、電話が繋がっている専門家へのアホな質問など、いわゆるワイドショーへの皮肉をたっぷりと含ませていて、ゆりやんのコミカルなビジュアルがなければ成立しなかったのではないかというほどにエッジが効いている。R-1決勝で初めて彼女のネタを目にしたときの衝撃が蘇ってきた。

対して、後攻のあぁ~しらきは、旗揚げゲームにおける“紅白の旗”をサンバイザーの上げ下げに置き換えたコントで勝負。着眼点は面白いが、そのシンプルな設定が故に微細の粗が悪目立ち。作家を入れ、全体の構成を整える必要性が感じられた。……だが、あぁ~しらきの全身から溢れ出ている、とても芸能の世界に身を置いているとは思えないリアルな“おばはん感”が、サンバイザーを着用しているキャラクターの演出としての魅力を格段に向上させている。そのため、ネタの本質的なところがウケなくても、ちょっと微笑むだけで滅茶苦茶に面白い。先述した通り、ネタとしてのクオリティはとても高いとはいえないが、自らの特性を活かした努力の作である。

笑いの量としては同じぐらいに感じられたが、結果は大幅に差をつけてあぁ~しらきに軍配が上がった。皮肉やメッセージ性を込めた深みのあるネタよりも、シンプルで分かりやすいナンセンスなネタが評価されたというところだろうか。

 

・第二試合

吉住「議員の恋」(192票)
ニッチェ「美のスペシャリスト」(209票)

第二試合は新鋭のピン芸人と中堅実力派コンビによる変則的対戦。

先攻は人力舎所属のピン芸人・吉住。国会議事堂を舞台に、与党の女性議員と野党の二世議員による禁じられた恋を描いたコントで挑む。……この「与党と野党の禁じられた恋」という設定の時点でとてつもなく面白い。発想の時点で勝利していると言っていい。肝心の内容は、いわゆる男女の痴話喧嘩に、「誠に遺憾に思う」「俺と国、どっちが大事?」「総理大臣、三人替わってるんだよ!?」など、政治的な趣きの強いワードを散りばめたもの。私としての恋愛に公としての政治を絡めることで生じるギャップを笑いに転換している。しかし、ただ要素の上澄みをすくっているだけに留まらず、ストレートな皮肉を込めた台詞もチラホラと。とりわけ「国民なんかどうでもいいじゃん!誰も私たちなんて支持してないって!政治でなんか変わるなんて思ってないって!」という台詞には、政治に無関心な国民に対して投げかけているようで、ちょっとドキッとした。『THE MANZAI 2018』のウーマンラッシュアワーぐらいには話題になっても良い。一点、難があるとすれば、コントの表現としては、やや魅力に欠けていたところだろうか。しかし、逆にいえば、そこが補填されるととんでもないことになりそうである。

対する後攻は、実力派女性コンビとして名高いニッチェ。前回大会でも決勝進出を果たし、総合四位という結果を残している。漫才もコントもこなせる彼女たちが今回見せたのは、エステの無料体験を申し込みにやって来た近藤が、江上演じる太めのエステティシャンの接客を受けるコント。これまでに二人が演じてきたネタと同様、今回も江上の誇張されたキャラクターが光る。ふくよかな体型、過剰な化粧、圧の強い語り口で笑いを誘ったかと思うと、表面的な面白さに隠れていた「分かります」という口癖がクローズアップされていく構成が絶妙。一時は制されるも、仕方なしに「分かります」を許された際に口にした「……分かっていただけます?」は、もう少しウケても良かった。そこからの「分かります」を言わない展開も見事。的確で揺るぎない構成だ。しかし、悪徳商法という陳腐なオチで、コントは一気に失速。ここまでの「分かります」をフリにした「分かりません」を引き出すために用意した展開なのは分かるのだが、あの親しみやすい鬱陶しさに満ち溢れたエステティシャンを悪役にする必要はなかったように思う。

笑いの量という点ではニッチェが圧倒的だったため、大きく差がつくのではないかと思っていたのだが、蓋を開けてみると、これがなかなかの僅差。笑いの量イコール評価点とは限らないようだ。

 

・第三試合

根菜キャバレー「万引き」(92票)
合わせみそ「ホストクラブを経営したい」(309票)

第三試合は新星漫才師対決。

先攻は根菜キャバレー。サンミュージック所属のkittanと人力舎所属の天野舞によって結成されたユニットである。一見すると、やたらと明るくギャグを繰り出すkittanがボケで、暗い表情でローテンションに対応する天野がツッコミのようだが、いざ漫才が始まると立場は逆転。「もし美少女に生まれ変わったら万引きをやりたい」ととんでもない想いを語る天野と、変わらずギャグを挟み込みながらもボケに振り回されるkittanのやり取りは、既存の漫才とは少し違った味わいがある。正直、漫才そのものの出来は芳しくなく(コントが始まるまでの時間は特に厳しい)、コントが始まってからも大きな笑いを生み出せておらず、芸人としての実力不足は否めない。だが、オチで気が狂ったかのように笑い続けるkittanの姿には、なにやら末恐ろしいものを感じた。遠くない未来、とんでもない進化を遂げるのではあるまいか。

後攻は合わせみそ。人力舎所属の男女コンビ「おとぎばなし」「ブラットピーク」の各女性メンバーである吉田治加と河田祥子によって結成されたユニットだ。イケメンに囲まれたい気持ちを暴走させた吉田の願望に対し、河田がひねりを加えたツッコミを入れることで、笑いへと昇華させている。おぎやはぎ南海キャンディーズと同系統の芸風といえるだろう。ブスがイケメンを欲するという構図は、ポリコレが囁かれている今の時代にはあまりにも似つかわしくないが、合わせみその場合、その切り口があまりにも独特過ぎるため、不快感を覚えない。なにせ「イケメンから栄養を貰って育つ花になりたい」である。「イケメンでテトリスがしたい」である。イケメンがゲシュタルト崩壊を起こしている。そんな吉田に対し、河田もかなりヒドいことを言っているのだが、それでしっかりとバランスが取れている。「よっちゃんは右手を売ってでもホストに貢ぐぐらいがいいんじゃない?」というワードを使って笑いが取れるのは、なかなかのモノだろう。突如として放り込まれる掛け言葉も面白い。この芸風なのに、どうしてそこで何の脈絡もなく舘ひろしディスるのか。そのナンセンスさが、実にたまらない。

正直、漫才の出来は同等に思えたが、結果は圧倒的大差をつけて合わせみその勝利。よりネタの見やすい方が評価されたのだろう。ただ、今後の展開を思うと、構成面とキャラクターが完成されている合わせみそよりも、様々な意味で未熟な根菜キャバレーの方に伸びしろがあるように思う。しかし、まあ、そんな浅い読みを凌駕するのがお笑いという世界である。どうなりますやら。

 

・第四試合

横澤夏子「運動会の母親」(233票)
紺野ぶるま「ドラマ出演の報告」(168票)

第四試合は再びピン芸人対決。

先攻は横澤夏子。一人コントを得意とする彼女が今回演じるのは、運動会に参加している息子を応援する母親だ。蟻を潰している娘に「命だよ」と指導、競技に参加している息子の雄姿に号泣、ビデオカメラで余計なものを撮影している夫に注意……など、運動会の母親あるあるを誇張した演技で表現している。基本的にはテンションが高いのに、ふとした瞬間にクールな一面を見せているところも上手い。母親という存在の性質を的確に捉えている。既に注意したことを家族に何度も繰り返される鬱陶しさもリアルだ。ただ、少しだけ気になったのは、「去年の運動会でアキレス腱を切った」という要素。分かりやすく笑いを取るためには必要だったのかもしれないが、形態模写としての面白さを見せるうえではノイズになっていたような気もする。

後攻は紺野ぶるま。昨年大会でも決勝進出を果たした実力者である。地元で美人と持ち上げられて調子に乗って上京するも大して結果を出せずにいる女性が、かつて自分をもてはやした故郷の友人に「どうしてくれる……?」と悲哀混じりに詰め寄るコント。設定そのものは面白い。自業自得とはいえ、おだてられて木に登ろうとするも登れなかったブタが、無責任におだててきた周囲の人間に対して責任を問う様は、ある種の清々しさすら感じられる。ただ、内容そのものを見ると、おだててくる地元の人間の発言に対するツッコミと芸能の世界でパッとしない仕事をしている女性タレントに対する偏見を展開した一言ネタで、折角の魅力的な設定がまるで活かしきれていない。こういうネタにするのであれば、もっとシンプルでクセのない設定でも良かっただろう(それこそ今年のR-1で披露していた占い師のコントのような)。「ほたてマイスターとかすっとこどっこいな資格」「このレベルの女がやるグラビアにもはや布って与えられないからね」「涙袋爆発寸前女」など、それぞれの台詞を拾い上げると魅力的なだけに、ただただ勿体無い。

結果はそれなりの大差をつけて横澤夏子の勝利。コントとしてのクオリティが評価されたのかもしれないけれど、どちらもパンチには欠けたような。

 

・第五試合

阿佐ヶ谷姉妹「手術を励ます」(217票)
紅しょうが「レンタル彼氏とデート」(184票)

第五試合は東のコント師と西の漫才師によるコンビ対決。

先攻は阿佐ヶ谷姉妹。明日に手術を控えて入院している江里子の元へ、全国の元気のないおばさんを励ましているという見ず知らずのおばさんがやってくるコント。日常的な空間に異物が投げ込まれる設定はコントの基本中の基本だが、それが【おばさんvsおばさん】という構図になるだけで、なんだか独創的な状況に変わってしまう。今までに同タイプの芸人がいなかったからで、その意味では阿佐ヶ谷姉妹、自らの見られ方をしっかりと理解できている。ただ、肝心のネタはやや尻すぼみ。前半は「柿」「ナースコールを丁度ゼロにする声」「無作為」などのワードで引き込まれたが、後半の“おばはげ”のあたりから展開を重視し過ぎてパワーダウンしてしまったような。

後攻は紅しょうが。これまで異性といい経験をしたことがなかった熊元が、相方の稲田をレンタル彼氏に見立ててデートをシミュレーションする漫才。それぞれのキャラクターは立っているし、べしゃりも上手いのだが、肝心のネタの感覚が古い。恋人に恵まれないブスがレンタル彼氏を相手に暴走する展開は、そこへ更にプラスとなる要素が組み込まれないと、このご時勢にはちょっと厳しい。良くも悪くも第三試合の二組とは対照的な漫才といえるだろう。また、導入の部分で、少し時間を取り過ぎな気もする。コントを軸にしたネタならば、もうちょっと早めに切り出しても良かったような。とはいえ「こっちは消費者やぞ!!!」は笑った。

結果は僅差で阿佐ヶ谷姉妹の勝利。発想の新しさに惹かれたか。

 

・最終決戦

阿佐ヶ谷姉妹「誘拐」(184票)
あぁ~しらき「男かな?女かな?」(31票)
ニッチェ「黒いマスク」(37票)
合わせみそ「イケメンゾンビ」(35票)
横澤夏子「家族で回転寿司」(114票)

より特殊な設定のコントに打って出た阿佐ヶ谷姉妹、一本目のシステマティックな笑いを捨てて地下芸人としての全力を見せつけたあぁ~しらき、息子の婚約者が黒いマスクをつけているというだけで結婚を断ろうとする偏見の笑いを見せつけたニッチェ、最終決戦でまさかまさかのM-1の和牛と似たような設定を持ち込んだ合わせみそ、回転寿司にやってきた家族を丁寧に表現するもセットの豪華さが気になる横澤夏子、それぞれがそれぞれに予選よりもグレードを上げたネタで挑む。

個人的には、合わせみその漫才が面白かった。イケメンを欲するブスという古典的なキャラ付けをしながらも、その願望が「イケメン神輿に担がれたい」「イケメンウイルスが蔓延した世界でイケメンゾンビに追われたい」「イケメンしかいない惑星に行きたい」などのトリッキーなものばかりで、眉をひそめる前に笑ってしまう。イケメン神輿が伏線となってイケメンの惑星で再登場する仕掛けも絶妙。既に形式は出来上がっているので、未熟なテクニック面さえカバー出来れば、もっと面白いことになりそうだ。

結果は阿佐ヶ谷姉妹の優勝。技術が未熟な合わせみそ、地下芸人として突っ走ったあぁ~しらきは仕方がないにしても、ニッチェにはもう少し点数が入っても良かったような気がする。着眼点の面白さに甘んじてしまったことがバレたか。横澤夏子は健闘するも二位止まり。予選のネタに比べれば格段に良くなっていたが、一票を投じさせるまでの何かが足りないのだろう。優勝した阿佐ヶ谷姉妹も、正直なところそこまで出来が良いようとは思えなかったが、終盤のボン・ジョヴィを歌い出すくだりで一気に巻き返していたように思う。やはり、印象的な一押しがあると、賞レースでは強い。

 

・総評みたいなもん

なんだかんだで面白かった。

「賞金の一千万は高い」という批判があって、それは確かにそうかもしれないけれど、だからといって今更安くするのは興醒めだし、もうしょうがないじゃないかとしか言いようがない。そりゃ、M-1やKOCに比べれば、ネタのクオリティも緊張感もまったく違っているけれど、例えば今大会でいえば、根菜キャバレーが一千万を取れるかもしれない大会って、ちょっと面白くないですか。今のままだと、既存の大会とは同格にならないだろうけど、通常なら絶対に優勝し無さそうな芸人が勝っちゃって、一千万を取れちゃう大会って、私はちょっと面白いと思ってしまうんですよね。バカみたいで。

「つまらなかった」って意見もあるようだけれど、それに関しては人それぞれだからとしか言いようがない。だって、そもそも牧野ステテコが、準優勝になるような大会なんだから。あれが万人に受け入れられるとは到底思えない。とはいえ、それをきっかけに牧野がちょっとテレビに出られるようになってるんだから、その意味では若手を発掘する大会として機能できているわけで。そういうのを楽しめる人のための大会として、割り切ってもらうしかない。

とはいえ、第三回大会があるとすれば、そこで一定数の視聴者を納得させられる程度には、大衆ウケのいい大会にする必要性はあるのかもしれない。正直、現状として女性芸人に対して偏見を抱いている人はまだまだ少なくないし(批判している人たちが全員そういう考え方をしているとは思わないけれど)、その偏見を打ち砕くレベルの大会を一度はやっておいたほうがいい。ただ、一度でもやってしまったら、他の賞レースと同様の、ただただ高いクオリティを求められる大会になってしまうような気がして、それはそれでなんともかんとも。どうしたもんかしらんねえ。

こちらからは以上です。お疲れさまでした。