土曜深夜の視聴覚室

Saturday midnight audio-visual room.

「第19回 東京03単独公演「自己泥酔」」(2018年2月21日)

そして火曜日である。

前回と同様、水曜日に更新をしているが、この記事を書いているのは前日の火曜日である。三連休明けの労働というのは想像していた以上に心身に応えるもので、つい先週の金曜日までこなしていた筈の作業を終えたところで、激しい疲労感によって、すっかり気持ちが落ち込んでしまった。それでも、土曜日に放送される『キングオブコント2018』決勝戦のことを考えて、なんとか生きていこうと頑張って立ち上がっている次第である。……なにやら無闇にドラマチックな表現を採用してしまったが、所詮は単なる連休ボケでしかない。誰からも同情されることのないまま、今週もなんとかかんとか消化試合的に乗り切っていくしかないのである。やれやれ。

ところで先日、書店で『夫のちんぽが入らない』の講談社文庫版を見つけた。既に扶桑社から出ている単行本を所持していたのだが、文庫用に書き下ろしたエッセイが収録されているということだったので、特に損得を考えずに購入した。否、厳密にいえば、それは応援の意味合いが強かった。

『夫のちんぽが入らない』の筆者であるこだまさんと知り合いだったからだ。お会いしたことはない。インターネットを通じて、お互いに名前を知っていて、お互いの文章を知っているという程度の仲だ。私がこだまさんのことを知ったのは、今から十年ほど前になるだろうか。とある大喜利サイトの参加者の一人として、こだまさんは居た。当時、こだまさんは“しりこだま”という名前で、大喜利に参加していた。妖怪好きな私は、その河童を連想せざるを得ないハンドルネームに、妙な魅力を感じたものである。

その後、何かのきっかけで、こだまさんのブログを読むようになった。これがべらぼうに面白かった。美しい景色の奥底の見えないところに無様な感情の杭が刺さっているかのような、一筋縄ではいかない文章だった。この人の文章は多くの人に読まれなくてはならない。一読して、そう思った。

しばらくして、こだまさんと疎遠になった私は、彼女とTwitterで再会し、主婦業と文筆業を平行して続けていることを知った。ああ、やはり秀でた才能は、何処かしらかで芽を出す運命にあるのだ。そう思った私は、単行本出版の折に「お会いした日には是非とも寿司を奢れ」と冗談交じりにリプライを送った。「わかりました」と返事を貰った。彼女が売れるたびに、私が奢ってもらえるであろう寿司のグレードも着実に上がっているに違いない。最終地点は銀座だ。久兵衛だ。だから、もっと売れて、もっと多くの人に読まれる物書きになってもらいたいと思う。皆も読もうぜ。漫画版もあるぞ。

それはそれとして今回は『東京03単独公演「自己泥酔」』である。

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

 

東京03飯塚悟志豊本明長角田晃広の三人によって2003年に結成されたコントユニットである。飯塚・豊本が“アルファルファ”というコンビで活動していたところに、お笑いトリオ“プラスドライバー”のメンバーだった角田が参加、新トリオ結成ということになった。ちなみに、飯塚はスクールJCA2期生(同期にアンジャッシュ渡部、ダンディ坂野ユリオカ超特Q)、豊本はスクールJCA3期生(同期にアンタッチャブル)にあたる。キングオブコントには2008年から参戦。2009年に初の決勝進出を果たし、M-1王者でもあるサンドウィッチマンと死闘を繰り広げ、紙一重で優勝をもぎ取った。翌年の2010年から単独公演による全国ツアーを開始。以後、単独公演が行われる度にツアーが組まれ、全国のファンから好評を博している。本作には、2017年5月から9月にかけて全国11か所で開催されたライブより、東京での追加公演の模様が収録されている。

演じられているネタは全七本。全てコントである。

とあるインタビューで飯塚が本作のことを「最高傑作」と語っていたように、どのネタも大変にクオリティが高い。例えばオープニングコントの『自慢話の話』からして見どころが満載だ。二人の部下とともに居酒屋で呑んでいた会社の社長(角田)が、以前に参加したパーティで他の会社の経営者から自慢話ばかり聞かされた……という話を持ち出して、「もし俺が下らない自慢話を始めたら注意してくれ」と二人に頼んだところ、そのうちの一人(豊本)に「今の、自慢話をしない俺、自慢ですよね?」と切り返されてしまい……。オープニングコントにしては、あまりにも深みのある設定ではないだろうか。確かに、豊本の言うように、このコントにおいて角田は自慢話をしない自分に酔っていると捉えることも出来る。だが、それを指摘している豊本もまた、そんな風に上司に物怖じせずに突っ込める自身に酔っているのでは?との指摘を受ける。一体、自慢とは、酔っているとは、どういうことなのか……。そんなことを改めて考えさせられるコントだった。オープニングコントのレベルじゃない。

その後も名作が続く。部下(豊本)の失態の責任を被ったエリアリーダー(角田)だったが、当の部下はというと……『エリアリーダー』は、コントが転がり始める瞬間がとにかく素晴らしいコント。飯塚演じる部長から激しい叱責を受ける豊本がエリアリーダーである角田によって庇われるまでの展開がとことんシリアスで、だからこそ、突如として放り込まれる豊本の信じられない台詞の起爆力がとんでもない。高い演技力があってこそ成立させられるネタといえるだろう。

東京03のコントにはお馴染みのトヨ美が登場する『小芝居』も名作だ。直属の上司である主任(豊本)と二年に渡って職場恋愛をしていた角田が、とうとう結婚する。以前より、角田の恋愛相談に乗ってあげていた飯塚は、二人から結婚報告を受けることに。しかし、職場の人間に知られると業務に支障が出るからと角田には黙っているように伝えていた主任は、今でも角田が飯塚に恋愛相談していたことを知らない。そこで飯塚は、角田から「俺たちから報告を受けるまで、二人が付き合っていることも、結婚することも、まったく知らなかった……という芝居をしてほしい」と頼まれる。誰かが誰かに隠し事をするという展開はそれだけで緊張感を伴うものだが、このコントはそれを見事に笑いへと昇華している。まさしく緊張と緩和だ。……そして、終盤で明かされる、とんでもない真実。多くの観客をどよめかせる展開の後で、このコントのタイトルを思い返すと、実に味わい深い。

しかし、本作を代表するコントといえば、やはり『トヨモトのアレ』だろう。会社の休憩所で落ち込んでいる豊本に遭遇する二人。仕事も私生活も順風満帆だった豊本だが、浮気相手によってLINEの内容が会社のパソコンに流出させられたからだ。興味本位で豊本から話を聞く二人だったが、角田の質問内容にほのかな違和感が……。コントそのものの仕掛けはベタだが、あの時期、あのタイミングで、豊本のゴシップをきちんと一本のネタとして昇華してしまえる底力。当たり前のようでいて、とんでもないことをしている。それでいて、いわゆる浮気における「反省」への考察も表れていて、その点も非常に興味深かった。結果として、豊本のゴシップは東京03というユニットの対応力の強さを知らしめるきっかけとなったのでは。

一点、惜しいと感じてしまったのは、オーラスの長尺コント『謝ろうとした日』のワンシーン。かつて、親友の角田に暴言を吐いてしまい、それから三年に渡って絶交していた豊本が、飯塚の助けを借りて角田に謝罪しようとするのだが、あまりにもハイセンスな豊本の服装は謝罪には向いてなくて……。コントの展開そのものは悪くないのだが、とあるシーンで飯塚が放つ台詞があまりにも名台詞感を意識し過ぎていて、ちょっとそれまでの流れから逸脱しているように感じられた。あまりにも唐突に感じられたので、ことによると、私の読解力に問題があるのかもしれないが……どうなんだろうな、あれは。

これら本編に加え、特典映像としてバカリズムラバーガール大水をゲストに迎え、四人で様々なスタイルのショートコントを披露する『「自己泥酔」特別追加公演 ショートコントを考える。』が収録されている。単に東京03のショートコントを創作するわけではなく、ショートコントらしさを模索した内容になっており、昨今のショートコント不足問題について改めて考えさせられた。……どうでもいいけど、このテーマだったらゲストに江戸むらさきを召喚しなかったら嘘だよなあ……もう活動休止しちゃったけど……。

ちなみに、東京03は現在「東京03 第20回単独公演「不自然体」」のツアーを敢行中だ。既にチケットは完売しているようだが(当日券があるかもしれない)、10月13日に全国26か所の映画館でライブビューイングが行われるとのこと。特別追加公演の模様も中継されると思うので、気になる方は是非。

■本編【118分】

「キャスト紹介「自分酔いのピアノ」」「自慢話の話」「オープニング曲「自己泥酔で歌いたい」」「エリアリーダー」「えりありーだー憧れられ四十八手」「トヨモトのアレ」「トヨモトの反省」「ステーキハウスにて」「Minimum Reaction Girl - MMR」「小芝居」「劇団小芝居」「悲しい嘘」「私、嘘をつきます」「謝ろうとした日」「エンディング曲「誰にも言えないんだけど…」」

■特典映像【62分】

「「自己泥酔」特別追加公演 ショートコントを考える。」

 ゲスト:バカリズム公演

 ゲスト:ラバーガール大水公演

■音声特典

東京03による副音声コメンタリー」