白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「天竺鼠5」(2017年2月22日)

明けて月曜日である。

『さらば青春の光「会心の一撃」』のレビューを月曜日に公開したので、この記事が更新されるのは翌日の火曜日になるだろうが、この記事を書いているのは月曜日である。月曜日といえば、多くの学生・社会人が絶望の淵に立たされる曜日として知られているが、本日は敬老の日なので悠々自適に過ごしている。要するに自宅でゴロゴロしている。年寄りを敬う素振りも見せない。困ったものだ。

とはいえ、何もせずに時間だけを潰すというのはあまりにも無為なので、つい先ほどまでradikoのタイムフリー機能を使って、前日深夜に放送された『中島みゆきオールナイトニッポン月イチ』を聴いていた。最終回である。2013年6月に番組をスタートしてから五年以上に渡って放送されていた。毎回、中島みゆきほどの大ベテランが、本来ならば放送設備のメンテナンスを行う日曜の午前三時から午前五時までの枠を、月に一度のペースとはいえ毎回生放送でお送りしていた。

その喋りのトーンは至って能天気だが、諸般の事情により日曜深夜から働いている人を応援する「働きながら聴いてます!」、今週の失敗できない予定をリスナーから募集する「今週のヤマ場」、リスナーのネガティブな近況を川柳にして送ってもらう「ネガティブ川柳」など、その内容は厳しい状況に置かれている人たちへの優しさに満ち溢れていた。そこには『ファイト!』の時代から続いている、とはいえ当時とは違ったカタチで「しんどい」と叫べない人たちへのエールが込められている。いずれまた、そんな番組を始めてくれる日を、或いは、そんなスタイルを引き継いでくれる人が現れる日を、待ち続けたいと思う。既にどっかで始まっているのかもしれないが。

……と、そんな流れは一切無視して、今回は『天竺鼠5』を取り上げる。

天竺鼠川原克己瀬下豊によって2003年に結成されたお笑いコンビである。鹿児島県にある別々の高校の野球部員として知り合った二人は、高校卒業後にお笑い芸人になるため大阪へと引っ越し、よしもとのお笑い養成所・NSC大阪校に入学する。同期には和牛、藤崎マーケットかまいたち山名文和(アキナ)、八十島(2700)、バイク川崎バイクなどがいる。

キングオブコントには2008年より参戦。同年、決勝進出を果たすも、予選リーグ全体で八組中六位という厳しい結果に終わる。翌年の2009年にもファイナリストに選出されたが(二年連続での決勝進出は彼らのみ)、こちらも総合七位と振るわない結果に終わる。しかし、三度目の決勝進出を決めた2013年、下校途中の小学生の前に寿司が現れてダンスを披露するシュールなコントが評価され、総合三位という結果に。現在、関西発のアヴァンギャルドな芸人として、その存在を主張している。ちなみに、天竺鼠は今年のキングオブコントにも参戦しているのだが、準々決勝敗退という憂き目を見ている。昨年大会も同様の結果に終わっていたので、コント師としてはやや調子が落ちてきているのかもしれない。

本編は二部構成になっている。

前半パートには2016年12月9日にルミネtheよしもとで行われたネタライブ「天竺鼠のDVD収録LIVE」の模様が収められている。演じられているネタは全九本。うち八本がコント、一本が漫才という内訳になっている。

コントの中には、賞レースで披露されているネタも幾つか。例えば、肥大したリーゼント・スタイルを決めた不良風の学生と落ち着いた老教師のやり取りが妙に微笑ましい『学校』は、「第35回ABCお笑いグランプリ」で優勝を決めたネタだ。口の悪い不良学生が、実は……というギャップだけで最後まで突っ切っている骨太なコントである。老人が務めているコンビニに老人が来店する『コンビニ』は、「キングオブコント2009」決勝戦で二本目に披露されたネタだ。老化による身体能力と判断力の低下が巻き起こすコミュニケーションの歪みで笑いを巻き起こしたかと思えば、終盤で予想外の展開を迎える。緩急のスリリングさがたまらない名作である。また、先述の「キングオブコント2013」で披露されたお寿司のコントも、『帰り道』というタイトルで収録されている。味の好き嫌いに素直な子どもに振り回される寿司ネタの悲哀が、なんともいえない味わいを生み出している。

これらのネタも非常に魅力的だったのだが、ライブパートの最後に収録されている『天竺鼠のコーナー』はそれらに匹敵する面白さ。ゲストに“川原がお世話になっている先輩”ピース又吉と“川原がお世話になっていない先輩”ダイアン津田を迎え、そこに瀬下を加えた三人で川原考案のゲームで戦う企画なのだが、「目隠し たたいてかぶってじゃんけんぽん」などのトリッキーなゲームの内容もさることながら、ゲームに対するゲストの又吉・津田のスタンスの違いが絶妙な面白さを生み出していた。ゲーム進行中は意外とボケない川原の場を弁えた立ち振る舞いも見どころだ(津田に対する当たりはずっと強いのだが)。

対して、後半パートには、本作のために撮り下ろされた映像コントが収録されている。真っ白なスタジオの中で撮影された『ショートコント』、トルコアイス屋の店員がなかなかアイスを渡そうとしないしつこさがクセになるロケコント『トルコアイス』、破壊王の異名を持つ瀬下が複数の罰ゲームを一気に受けて罰ゲームランキングを作成する『破壊王瀬下』など、観客のリアクションのない状態で繰り広げられる映像は、通常のコントとはまた違った、ペーソス感に満ちた後味を残してくれる。とりわけオーラスのお蔵入りコントの映像は、最後に登場する先輩芸人のビジュアルと状況のギャップが……たまらなかった。

最後に余談。本作は『天竺鼠5』というタイトルなのだが、これは彼らにとって三枚目の単独作品である。更にいえば、2009年10月にリリースされた第一弾のタイトルは『天竺鼠2』、2010年10月にリリースされた第二弾のタイトルは『天竺鼠4』である。とてもややこしいので、暇な人は勝手に『天竺鼠1』と『天竺鼠3』のパッケージを自作して、一緒に陳列すればいいのではないかと思う。うん。

■本編【150分】

「修理屋」「お見舞い」「学校」「コンビニ」「Bar」「F-1学生」「帰り道」「漫才」「家族」「天竺鼠のコーナー(ゲスト:ダイアン津田/ピース又吉)」「ショートコント」「トルコアイス」「ナスビくん」「スナック」「破壊王瀬下」「コント中にケンカ勃発! お蔵入りの瞬間をカメラはとらえていた!」

■特典映像【24分】

「飛車角新郎新婦エクササイズ」「アニメーション「向こう側」」「アニメーション「四分音符」」「インタビュー」