土曜深夜の視聴覚室

Saturday midnight audio-visual room.

「さらば青春の光単独公演「会心の一撃」」(2017年9月20日)

キングオブコント2018」決勝戦まで残り一週間を切っている。

それなのに気持ちがあまり盛り上がらないのは、ファイナリストが未だに発表されていないからだ。今回、ファイナリストは決勝当日、それも出番と同時に発表されるシステムになっているらしい。そして現在、ファイナリストを的中させるクイズ企画が行われている。見事正解した人には、新MCの葵わかな、大会の公式アンバサダーである池田美優(みちょぱ)とバイきんぐ、そしてファイナリスト十組のサインが入ったTシャツがプレゼントされるらしい。若手芸人にとっては今後の人生の方向性が変わるかもしれない重大なイベントなのに、よくもこんなバカバカしい企画を通せたものである。

おそらくは視聴率対策なのだろう。「M-1グランプリ」「R-1ぐらんぷり」に比べて、キングオブコントの視聴率は格段に低い。それでも、2015年に決勝戦の審査方式を“準決勝敗退者による採点”から“ベテラン芸人五人による採点”へと変更してからは、それなりに数字を稼いでいた。ところが、2017年に再び数字が落ち込んだ。このままだと大会終了は必至だろう。どんな手段を使っても、視聴率を稼がなくてはならない……と、そのような事情があったのではないかと推測されるのだが、それにしても、もうちょっと真っ当な対策を取れなかったのだろうか。M-1にせよ、R-1にせよ、ここまで大会参加者をダシにするような企画は打ち出さなかったし、そもそもファイナリストを隠すことで本当に視聴率が上がるのかもよく分からない。少なくとも、現時点では固定視聴者である筈の多くのお笑いファンから顰蹙を買っていて、あまり状況は良い方向に転がっているとは思えないのだが……。

とりあえず、大会ファンの一人としては、ファイナリストが明かされないままの状況でも、決勝戦当日にはそれなりの心構えでもって望みたいと思っている。そこで、それまでコントのDVDを見続けて、コントに対するモチベーションを高めることにした。なんとか一日一枚は消化していきたいと考えているが……無理な気がしないでもない。

今回は『さらば青春の光単独公演「会心の一撃」』である。

さらば青春の光は、森田哲矢東口宜隆(芸名:東ブクロ)によって、2008年に結成されたお笑いコンビである。それぞれ“カサブランカ”“ヤンバルクイナ”というコンビで活動していたが、2008年に解散。「キングオブコント2008」への出場を目的に結成された。2012年に初の決勝進出。そこで披露されたコント『公園』の台詞「イタトン」が話題となり、注目を集め始める。しかし、翌年の2013年に、当時の所属事務所である松竹芸能との契約が解除され、フリーとしての活動を余儀なくされてしまう。同年、何処の事務所にも入れなかったため、個人事務所ザ・森東を立ち上げる。ちなみに、その後もキングオブコントには出場し続け、累計五度の決勝進出を果たしている。2016年には「M-1グランプリ」決勝に進出、高い評価を受けるも四位で予選敗退となる。本作には2017年4月26日・27日に池袋あうるすぽっとで行われたライブの模様を収録。彼らの単独作品がソフト化されて一般に流通するのは、松竹芸能時代にリリースされた『さらば青春の光「なにわナンバー」』(2011年10月リリース)以来、およそ六年ぶりのこととなる(自主制作盤である『帰社』『野良野良野良』は除く)。

演じられているネタは全九本。うち一本がオープニングコント、うち一本が漫才、残りの七本がコントという内訳になっている。リリースから日が経っていることもあって、既にテレビ番組で演じられているところを観た記憶のあるネタも少なくない。

例えば『居酒屋』は「キングオブコント2017」決勝のステージで披露されたコントだ。居酒屋に来て、一人で呑んでいるサラリーマン(森田)の元へ、店員(東ブクロ)が注文していない料理を間違えて持ってきてしまう。一度は突き返すのだが、その料理があまりに美味しそうだったので、思わず追加注文してしまう。すると、また店員が今度は別の料理を間違えて持ってきて……。単なる店員のオーダーミスに独自の手法を見出す着眼点だけでも十分に面白いのに、その手法そのものは変えずにパターンを変えることで、注文もコントもどんどん転がっていく気持ちよさ。「ライブ感」「撒き餌」「返しのポテサラ」などのワードも手伝って、最後まで飽きさせない。しかし、改めて視聴してみると、大会で披露された短縮バージョンよりも、本編で演じられている長尺バージョンの方が、圧倒的に出来が良い。当時、彼らのコントに魅了された人に、是非ともご覧いただきたい一本である。

『小説家』は芸人が作ったネタを俳優が演じる番組「笑×演」(2017年3月30日放送)において、木村了前川泰之が演じていたコントのセルフカバーだ。カフェで新作の執筆作業に取り掛かっていた小説家(森田)が、隣の席で作品のファンだという青年(東ブクロ)が自著を速読で次々に読破していく姿を目の当たりにする。さらばは以前にも速読をテーマにしたコントを作っているが(うしろシティとの共作『cafeと喫茶店』に収録されている)、それとはまったく違ったアプローチで新しいネタを作り上げていることに驚かざるを得ない。速読という手法でありながらもしっかりと作品の内容を読み込めている青年に対して、長い時間を費やして執筆した作品を次々に数秒で消化されてしまうことに複雑な心境に陥っている作家の困惑と苛立ちがたまらなく可笑しかった。

『金メダリスト』はおぎやはぎがメインを務めたお笑い番組「真夏のお笑い夜通しフェス どぅっかん!どぅっかん!」(2017年8月12日放送)で披露されていたコント。金メダルを獲った水泳選手(森田)が記者会見を受けているのだが、喜びの声を聞きだしたい記者(東ブクロ)の思惑に反し「割に合わないですねえ……」とコメントし始めて……。金メダルを獲ったことの喜びよりも、金メダルを獲るために重ねてきた辛さの方が勝ってしまっているメダリストの姿は、これが演じられた当時であれば素直に笑えたのかもしれないが、スポーツ選手たちのパワハラが話題になっている昨今においてはむしろリアルで、本来の意図とは違う意味での面白さが表出している。……むしろ、あえて今こそ演じられるべきコントなのかもしれない。

以上の三本はやはり突出して面白かったように思う。

これらのネタ以外で印象に残っているのは『予備校』というコント。頭に鉢巻を撒いて生徒たちに檄を飛ばしている教師(森田)と、それを物静かに見守っているもう一人の教師(東ブクロ)。しばらく生徒たちを鼓舞したところで、森田教師が驚きの行動に……。ここから、このコントの感想を書きたいところだったのだが、どうも聞くところによると、「キングオブコント2018」準決勝において、このネタが演じられたらしいので、ここの感想は割愛する。恐らく、本作も大会終了後に観た方がいいのだろう。彼らが決勝進出しているかどうかは、現時点では分からないが。六度目の決勝進出を果たし、最多決勝進出回数を更新できるかどうか、全ての答えは2018年9月22日の決勝日に明らかとなる……。

そんなさらば青春の光だが、既に新作『さらば青春の光 単独LIVE『真っ二つ』』がリリースされている。こちらもいずれレビューしたいところ。

■本編【102分】

「オープニングコント」「医学部」「気絶」「小説家」「金メダリスト」「漫才(童話の原作)」「予備校」「居酒屋」「葬式」「エンディングトーク