土曜深夜の視聴覚室

Saturday midnight audio-visual room.

「シソンヌライブ[six]」(2018年2月14日)

世界は“二元論”に溢れている。

体罰は良いか悪いか、表現規制は良いか悪いか、原子力発電所は良いか悪いか……パソコンやスマートフォンの電源を入れれば、そこでは数多のテーマによる二元論がぶつかり合っている。大勢の人たちの頭の中で、正義と悪の構図が描かれている。だが、果たして、人間の社会はそれほど簡単に白と黒で区分させられるものだろうか。それらの多くにはメリットとデメリットがある。白と黒の間にある灰色のゾーンを、私たちは些かおざなりにし過ぎているのではないだろうか。

キングオブコント2014」王者であるシソンヌが、2017年4月5日から9日にかけて下北沢本多劇場で開催した単独ライブでは、そんな灰色のゾーン……いわゆる“狭間”が主に描かれている。

オープニングコントの『婚活パーティー』には二人の男女が登場する。婚活パーティーで話し相手を見つけられずにまごまごしている老年の男性・コヅカ(長谷川)と、大きな泣き声をあげながら歩いている美女・トシコ(じろう)である。挙動不審に独特なテンポで喋り続けるトシコは、とてもコミカルで魅力的なキャラクターだ。ちょっとした所作から泣き声、激しいリアクションに至るまで、見事な表現力でコント全体を引っ張っている。このコントはトシコというキャラクターが存在しなければ成立しなかったと言ってもいいだろう。だが、彼女が泣いている理由を思うと、このコントがただ笑えるだけのネタではないことが分かる。

生命保険のセールスをしているトシコは、高齢者を多く担当している。その中には亡くなられている方も少なくないらしい。その経験から、年配の人を見ると「私よりも先に……」と思うようになってしまい、高齢者が多い場所では涙が止まらなくなってしまうのだという。そんなトシコは、コヅカのことを見ていても、涙が止まらなくなってしまう。コヅカもまたトシコよりもずっと年上だからだ。婚活パーティーという人生のパートナーを探す場所で、遠くない未来に訪れるだろう死を予見し、涙する。まさに彼女は「生」と「死」の狭間で揺れ動いている。

その後のコントも、同様に“狭間”が重要なテーマになっている。

毎回、単独ライブに登場している野村くんが、五限目の授業を休んで保健室で眠っていたときに見た夢の件で担任の長谷川先生と不思議な議論を重ねる『野村くんの夢』。当初、明らかに夢と現実がごちゃまぜになってしまっている野村くんの言い分だったが、その内容が現実と不思議な合致を見せるようになり、観ている者の頭の中では、もはやどちらが夢でどちらが現実なのかが曖昧になってしまう。その瞬間、観客は「現実」と「夢」の狭間にいる。

アメリカを旅行中の中年男性が、現地で日本的なものに遭遇し、それに積極的に触れに行こうとすると、謎の罠が発動する『Japanese Ojisan』には、アメリカに来たのだから日本のことを忘れてアメリカを満喫してほしい……と主張する謎の少年が登場する。アメリカ旅行という「非日常」の中にいるうちは、日本という「日常」を忘れてほしい……と。それなのに、中年男性は日本の物を見つけるたびに、ついつい反応してしまう。その瞬間、彼は「非日常」と「日常」の狭間にいる。

あまりにも赤ちゃんの我が子が可愛い過ぎるので、実家の父親を呼び出し、「自分には可愛い赤ちゃんの時代がなかった」「どこかで入れ替わったのではないか」と話し始める『父へ』は、「乳児」と「青年」の狭間をテーマとしたコントだ。突拍子もない話を切り出すじろう演じる赤ちゃんの父親の言動はひたすらに非現実的だが、それは反面、子どもが大人になる過程において、当事者ではなく温かい目で見つめなくてはならない側が抱いている不安を描いているといえるのかもしれない。成長を見守ることの難しさを表しているのかもしれない。

……と、ここまでマジメに幾つかのコントについて解説してきたが、最後の最後に、これらの考察がどうでも良くなるコントが始まる。『サ裸リーマン』である。仕事中のふとしたきっかけで裸になることに快感を覚えるようになった会社員・大河原が、計画的に“仕事場で裸”の状態になろうとするコントだ。ここで描かれているのは、通常の「サラリーマン」から裸のサラリーマン「サ裸リーマン」へと変貌を遂げようとする男の生きざまである。揺れ動くどころか、真っ直ぐに突っ走っている。そこには何の混じりっ気もない。だが、だからこそ、終盤の予想外の展開に驚かされる。「サラリーマン」と「サ裸リーマン」の狭間にいたのは、実は……。

今日もインターネットの世界を覗くと、様々な二元論が展開している。それぞれの人がそれぞれの正義感の元に、悪である相手を殴ろうと躍起になっている。その狭間で、どちらの立場を取るべきか苦悶する姿は、みっともないように見えるかもしれない。だが、狭間を侮ってはならない。そこには、白か黒かの立場にある人たちには理解できないような、苦悶のドラマが起こっているかもしれないのだぞ。

■本編【98分】

「婚活パーティー」「野村くんの夢」「Japanese Ojisan」「父へ」「ボクシングジムに通いたいけど」「同居人の」「サ裸リーマン」

■特典音声

「シソンヌライブ[six]」オーディオコメンタリー

■特典映像

シソンヌライブ[deux]より「タクシー(location ver.)」