土曜深夜の視聴覚室

Saturday midnight audio-visual room.

「6人のテレビ局員と1人の千原ジュニア」(2017年5月17日)

2016年3月25日に恵比寿ザ・ガーデンホールで開催されたライブを収録。

千原ジュニアといえば、「人志松本のすべらない話」「IPPONグランプリ」「にけつッ!!」などの番組での活躍ぶりから、大喜利やエピソードトークのように自身の視点や思考を反映した笑いを得意としている印象が強い。しかし、その一方で、ジュニアは他人の台本に身を委ねてしまうことで、プレイヤーとしての自らの能力を意識したライブも敢行している。例えば、2006年に行われた「6人の放送作家と1人の千原ジュニア」では、宮藤官九郎鈴木おさむといった人気放送作家たちの手掛ける企画・台本に挑んでいる。また、2014年に千原ジュニア・生誕40周年を記念して開催されたライブ「千原ジュニア×□」では様々なジャンルの人たちとコラボレーション。いずれのライブでも、彼の力だけでは生み出されることのなかったであろう笑いの世界が表現されている。

そして今回、千原ジュニアが目をつけたのは、人気バラエティ番組を手掛けている各局の演出家たち。「ヒルナンデス」「ワイドナショー」「水曜日のダウンタウン」「超絶 凄ワザ!」「ゴッドタン」など、今を時めく名物番組を手掛けている六人のテレビ局員たちが“千原ジュニア”という素材を駆使して、テレビとはまたベツモノの板の上の世界を作り上げている。但し、残念なことに、「アメトーーク」「ロンドンハーツ」などの人気番組を手掛けている加地倫三テレビ朝日)パートは未収録。理由は分からないが、ゲストとして出演したという田中卓志アンガールズ)絡みの何かがあったのかもしれない。そのため、本編には、五人のテレビ局員による舞台が収録されていることになる。タイトル的に不味いような気がしないでもない。

とはいえ、本編を視聴している最中に、物足りなさを感じることは一度もなかった。各局のテレビマンたちが、千原ジュニアを存分に活かした企画を用意しているためだろう。その手法も各自さまざま。某人気ドキュメンタリー番組風の映像で大喜利職人としての千原ジュニアをどんどん追い込んでいく末弘奉央(NHK)、「2016年、もしも千原ジュニアが全くの無名の若手芸人だったら、やはり“売れる”のだろうか?」という空想世界を構築した内田秀実(日本テレビ)、千原ジュニアによる鉄板のエピソードトークを様々な手段で妨害する佐久間宣行(テレビ東京)など、それぞれの経験によって培われた技法でもって千原ジュニアの良さを引き出している。

その中でも圧倒的だったのは、竹内誠(フジテレビ)と藤井健太郎(TBS)。

竹内誠(フジテレビ)が用意した企画は「daiben.com」。【ジャンルの専門家たちが面白いと思う話】を千原ジュニアが代弁、その巧みな話術でもって、面白いエピソードトークへと昇華する。恐らく、ジュニアの話芸の魅力を引き出すために打ち出された企画だったのではないかと思うのだが、ジュニアに代弁をお願いする代弁依頼人の個性があまりにも強烈過ぎて、本来の企画意図が吹っ飛んでしまっている。否、厳密にいえば、二人目の代弁依頼人「気象予報士天達武史」においては、きちんと企画が成立している。ただ、一人目の代弁依頼人「きのこ愛好家・堀博美」が、あまりにも衝撃的過ぎて、天達氏も天達氏の代弁話もまったく記憶に残らない。それぐらいに衝撃的な人物で、持っているエピソードも濃厚で、ただただたまらなかった。思うに、むしろ『アウト×デラックス』向けの人物だろう(話の内容は放送できないだろうが)。ただ、企画そのものは確かに魅力的で、本編に収録されている企画の中で最も“テレビ向け”に感じられた。

そんな(結果的に)人間力の強さを見せつけていた竹内氏に対して、藤井健太郎(TBS)は徹底的に考え抜かれた企画を考案。その内容は、過去の千原ジュニアの映像素材をかき集めて編集、現在のジュニアとアドリブで会話、対決するというもの。……正直、企画そのものに関しては、誰もが思いつくことだろう。ただ、それを実際にやってみようなどと思った人間は、そんなにいない筈だ。何故ならば、それを実現するためには、たった一度きりのライブを成立させるために出来る努力の範疇を優に超えてしまうからだ。実際に映像を見れば、そのバリエーションと密度に驚かされることだろう。というか、この企画を見るためだけに、本作を購入してもいい。あの「水曜日のダウンタウン」、あの「クイズ 正解は一年後」を手掛けている名プロデューサーが、千原ジュニアが口にするであろう発言を想定して、過去の映像素材をかき集めて、このライブに全力で臨んでいる壮絶な23分を確認していただきたい。

ちなみに、各チャプターの冒頭で、各局の担当者へのインタビューが取り上げられているので、そちらにも注目してもらいたい。それぞれのテレビに対する意識の違いみたいなものが感じられ、なかなかに面白いぞ。

◆本編【125分】

1ch(NHK):末弘奉央

4ch(日本テレビ):内田秀

5ch(テレビ朝日):加地倫三(※本編未収録)

6ch(TBSテレビ):藤井健太郎

7ch(テレビ東京):佐久間宣行

8ch(フジテレビ):竹内誠

◆特典

千原ジュニア放送作家高須光聖によるオーディオコメンタリー