白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

まだ見ぬドムドムバーガーを求めて(2017年12月17日)

「青春ゾンビ」というブログがある。

映画、音楽、演劇、テレビドラマ、芸人などなど、様々なポップカルチャーについてコラムを書いているブログである。執筆されているのはヒコさんという方だ。その豊潤な文章表現と作品の魅力を多角的に捉える背骨の太さから、てっきり年上の人なんだろうと思っていたのだが、なんと私と同じ1985年生まれらしい。どれほど自分が何も考えずに生きてきたかを痛感せずにいられない。

最近、そんな「青春ゾンビ」において、“ドムドムバーガー”が取り上げられた。

ドムドムバーガーに対する思いを書き連ねているヒコ氏に対して、私はこれまでドムドムバーガーとは無縁の人生を歩んできた。その存在自体は知っていたのだが、実家の近くに店舗がなかったのである。そもそも近所にはマクドナルドしかなかった。全国的にその名が知られているモスバーガーロッテリアですら、その味にかぶりつくためには車で何十キロも走らなければならなかった。そのため、人生の選択肢として、ドムドムバーガーをチョイスするなんて有り得なかったのだ。

しかし、「青春ゾンビ」のこの記事を読んでいて、無性にドムドムバーガーのことが気になるようになってしまった。ヒコさんのように人生の一ページにしっかりと刻み込まれはしないだろうが、それでも、私の人生にドムドムする(さっき思いついた造語)瞬間があってもいい。そこで私は、この純情な感情を空回りさせながら、ドムドムバーガーが何処にあるのかを調べてみることにした……調べるといっても、公式サイトから店舗案内をチェックするだけなのだが……すると、岡山県倉敷市児島に店舗があることが判明した。

で、行ってみた。

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香川県坂出駅から岡山県児島駅へ。隣同士の駅なのに、瀬戸大橋を渡らなくてはならないためか、往路だけで520円も掛かった。往復1040円。ハンバーガーを食べに行くためだけの交通費が1040円。自発的にやっていることとはいえ、やっぱりなんだかどうなんだろうかと思ってしまう。

児島はジーンズの町として知られている。そのことをアピールしたいのだろう、駅の構内にはジーンズをモチーフとした様々なモノがあちこちに点在していた。

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自動販売機も、

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ポスターを貼った壁も、

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車椅子利用者のためのエレベーターも全てジーンズ。とにかく「児島=ジーンズ」というイメージを植え付けたいのだろう。うどん県民としては他人事とも思えない。

駅に直結している屋外の通路には、

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こうして暖簾のようにぶら下げられたジーンズが。ここまでくると、推しているとかどうこう以前に、なにやらジーンズの野ざらしを見ているようで不気味である。……もしかして、ダメージジーンズを作っているのだろうか。

気を取り直して、目的地へと歩みを進める。

ドムドムバーガーがあるのは、駅から歩いて数分のところにある“天満屋ハピータウン”のフードコートらしい。ハッピータウンではなくハピータウンとするところに味わいがある。ちなみに、人生において私が児島を訪れるのは、これが二度目である。最初に訪れたのはもう何年も前のことで、当時電車代をケチりたかった私は、岡山市に住んでいる後輩を児島まで迎えに来るように要求したのであった。まるでジャイアンのような所業である。その頃の児島は駅の周辺に何もなかったのだが、今はそれなりに色々なお店が出来ていて、時の流れを感じずにはいられない。

なんやかやと思い出に浸りながら歩いているうちに、目的地へと到着。

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味わいのある入り口へ飛び込み、まずは店内地図を確認する。ところが、ドムドムバーガーの名前が見つからない。まさか。嫌な予感がする。とりあえず店内を散策してみることに。休日の昼間ということもあって、店内は大勢の客で賑わっている。ゆったりと買い物を楽しんでいる人たちの中、私だけが必死である。貴重な休日を使って、電車賃まで払って、ただただバーガーを食べるために来たというのに、肝心の店が見つからないようでは元も子もない。それなのに見当たらない。冗談じゃない。大量のプラモ在庫を抱えたおもちゃ屋、意外と広々としたスペースを陣取っている本屋、そして改装のためにすっからかんになっている販売コーナー……まさか、まさかそんな……。

と、落胆しかけていたところで、あっさりと発見。なんだよ。

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ドムドムバーガーがあるフードコートは、一階の片隅に存在した。イオンモールに行き慣れているため、フードコートといえばむやみやたらに広いイメージがあったのだが、そこは立ち食い蕎麦の店のように手狭だった。その窮屈な飲食コーナーの貴重なスペースを、沢山のお年寄りたちががっちりと埋めている。その妙なフィット感から察するに、日頃からたまり場として利用しているのだろう。

ここで私は大きな失敗を犯してしまう。お店を見つけた感動のままに、うっかりメニューを考えずにカウンターへと飛び込んでしまったのである。レジ前で立ち止まって、そのことに気が付いた。幸い、後ろで待たせている客はいないが、レジスターに手を置いて待ち構えている店員を待たせるというのもバツが悪い。そこで私は、とにかく味の個性が強そうな“お好み焼きバーガー”と、ベタなハンバーガーの進化形ともいえる肉を二枚重ねにした“ビッグドム”を注文することにした。今にして思うに、もっと「青春ゾンビ」を読み込んで、万全を期した状態で注文に臨むべきであった。そうか、オススメは甘辛チキンバーガーか……。

とはいえ、頼んでしまったものは仕方がない。

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二つ並んだバーガーを前に覚悟を決める。

まずはお好み焼きバーガーだ。

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炭水化物メインの料理を炭水化物で挟み込むという焼きそばパン的な手法に、どことなく昭和のセンスを感じてしまう。写真では大量のきざみキャベツで見えにくくなってしまっているが、玉子とお好み焼きが一緒に挟み込まれていた。ということは広島風お好み焼きか。キャベツをこぼしながらかぶりつく。シンプルなお好み焼きをバンズで挟んでいるだけの単純明快な料理なのに、なかなか美味しい。お好み焼きの味付けを濃くしているわけではないのに、どうしてこんなにマッチするのか。不思議だ。

続いて、ビッグドムに挑む。

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軽く焼きの入ったバンズの歯ごたえがたまらない。噛んだ瞬間に、フワッではなくサクッという感覚を覚える。そこから野菜が更にサクッと重なり、そして肉の旨味がジワッと押し寄せてくる。革命的とまではいかないが、他のハンバーガーショップでは感じたことのない美味さがそこにはあった。

正直、予想していたよりもずっと美味しかったので、追加で何か注文しようかとも思ったのだが、満腹になってしまったので止めた。今となっては、何か持ち帰りで注文しても良かったように思う。公式サイトによれば、手作り厚焼きたまごバーガー、根菜鶏つくねバーガー、厳選ナチュラルチーズバーガーなどの特殊なメニューが存在しているらしい。いずれは食べてみたいところだが、果たして次に児島へ来るのはいつの日か……。

食後、店を出た私は、真っ直ぐに駅へと向かった。目的は達成されたのだから、ここにいつまでも滞在する理由はない。歩きながら、次に児島を訪れる日のことを考えていた。もしも、またドムドムバーガーの味を確かめたくなったとしたら、他にも何か別に目的を持っておいた方が良いだろう。……そうだ、次は児島へジーンズを買いに行こう。そして、そのついでにドムドムバーガーを訪れよう。これならば児島へ行く確固たる理由となる。とはいえ、しかし、国産のジーンズって高そうだな……出来れば安い方がいいな……。

そんなことを考えながら、帰りの電車に揺られていた私であった。

追記。

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食後、改めて店内地図を確認してみたら、ちゃんと店の名前は明記されていた。しかし、事前に「フードコート」と聞いていて、まさかこのスペースに収まっているなんて普通は思わないだろう(エレベーター脇にある“スナックプラザ”の一角)。