白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「M-1グランプリ2017」準々決勝敗退者・感想文(2017年11月3日・東京)

準々決勝戦を見てきた人向け。大阪予選の感想はこちら。

準決勝進出。

「ポッキーちょうだい」。金野に「ポッキーちょうだい」と言われ、了解したら二本も取られた坂井の恨み節。ちょっとした意思疎通のズレによって生じた諍いに、坂井のヤバさ溢れるボケが乗っかった漫才。金野をゴリラ呼ばわりするシーン、坂井がさっき言ったことを即座に否定するシーンを繰り返すところがアピールポイントなのだろうが、それほど効果的に作用していない。面白かったけど。あと、賞レースでは、冒頭の自己紹介的なギャグは要らないような。

「感動シーンのBGM」。アメリカへと旅立つ彼女を引き留める感動のシーンに最高のBGMを。前半はBGMを取り扱ったボケをメインに、後半はBGM以外のボケを絡めていく構成。版権曲を取り扱っている割に、そこまでオリジナリティが引き出せておらず、月並みな展開が続いてしまっている(『おさかな天国』バラードバージョンとかベタ過ぎだろう)。後半はそれなりに面白い。しかし、前半からの切り替え作業が乱暴だったために、いつまでも違和感が残り続けている。そこは丁寧にやらないと……。

「しっかりオチまで準備したトーク」。バイトの休憩中に話したトークがウケなかった理由を確認するために、この場で再現。0点の技術によるエピソードトークを話し始めた和田がボケ役と思わせておいて、実はツッコミ役だと思われていた金井の方が「和田の結論から始まるエピソードトークの内容を先読みし過ぎる」というボケを演じている漫才。手法は少し異なるが、「ツッコミの後にボケが来る」笑撃戦隊の漫才に似ているところがあるかもしれない。やりとりが並列的なため、一言ネタみたいになってしまっているが、内容のクオリティや構成を練り上げれば面白くなりそう。

ヤンキー先生」。母親を困らせてばかりいる不良息子を更生させるために、ヤンキー先生が乗り出す。ネルソンズといえば滑舌の悪い和田まんじゅうがツッコミ役となって他の二人に振り回されるコントのイメージが強いのだが、今回は不良息子を演じる青山フォール勝ち(なんだこの名前)が岸健之助演じる母親と和田演じるヤンキー先生にツッコミを入れていくスタイルで。ボケ単体のパンチの弱さを和田が演技力で引き上げていくパワータイプのネタなのだが、途中から和田がニヤニヤし始めてしまい、緊張感がほどけてしまったのが残念。ヤンキー先生が何も知らない母親を咎める展開は好き。

  • いい塩梅(SMA)

「デートの参考」。気になっている娘とデートをすることになった松村が、参考のために相方の久保田からデートの話を聞き出そうとしたところ……。通常のデートでは有り得ない言動を取る久保田の話と、それを久保田が“流行り顔”だから許してしまう女の子のリアクション、そんな久保田の言動と同じことを松村がやったらどうなるか……という流れをローテーションで展開していく漫才。“流行り顔”というワードには新鮮味があるものの、構成がワンパターンで面白味に欠ける。“流行り顔”というしっかりとした支柱があるのだから、もっとブッ飛ばした方が良いのでは。ただ、松村のツッコミとしてのスキルは高い。こなれすぎ。

「イケメン」。開口一番「お前ってイケメンのこと嫌いじゃないですか」と話を切り出す河本。しかし、当の井口はそれを否定し、独自のイケメン論・ブサイク論を展開し始める。メインテーマは「イケメン」なのだろうが、話の内容を見ると「イケメンに対する偏見」「ブサイクに対する偏見」「売れてない芸人のどうしようもない日常」で構成されていて、やや統一感に欠ける。居酒屋のくだりが神懸っていただけに勿体無い。終盤のイケメンを崇める展開も、オーバーヒート感を演出しようとしたのだろうが、ちょっと面白味の度合いを越えてしまった感。あのシーンで時間を浪費するぐらいなら、もっと激しい持論をぶち込んだ方が良かった。

「消去法」。双子の兄弟コンビ。拓の良くない噂を耳にした大が、その件について咎めるのだが、当の拓にはまったく身に憶えの無いことだったため……。「大が第三者の目撃した拓の行動を追求→しかし拓には身に憶えがない→つまり第三者は大を双子の兄弟の拓と勘違いした→つまり大がやった」という奇妙なパラドックスを描いたネタ。双子だからこそ成立させられるネタという意味ではとても面白いし、このパラドックスに変化を加えていく構成もよく出来ているのだが、肝心の笑いどころが少なく、物足りない。『粗忽長屋』を思わせるオチは嫌いじゃない。

「おじいちゃんっこ」。孫が出来たら可愛がっておじいちゃんっこにしたい。沖縄出身のコンビらしい、良い意味での洗練されなさが味わい深い。冒頭、又吉から厳しいことを言われた、仲峰の「やなこと言うね」の絶妙な間合いを見よ。それでいてボケも絶妙。「素数素数じゃないか」「10秒を70メートルで走れる」「フレンドパークパターン」など、斬新とまではいかないが適度にズらしたボケを投げ入れてくる。ただ、沖縄らしい漫才……以上の印象は残っていない。

「父子家庭コンビ」。昨年大会でも話題になっていた、元ロックンロールコメディーショーの池田57CRAZYと娘の池田レイラによる親子コンビ。売れない芸人であるために妻に出ていかれてしまった父と娘の言い争いを漫才として描いている。会話の中で自分たちも話しているように、今はサラリーマンだが芸人としての活動に未練のある父親とそれに付き合わされる娘という池田家のドキュメンタリーとしての面白さはあるのだが、漫才として見ると物足りない。ただ、この関係性だからこそ出来るネタは絶対にあるわけで、そういったネタが出来るようになっていくことに期待は持てる。

「張り込み」。デビとリーダーによる張り込みコントの雰囲気をナターシャが補足説明を加えてナビゲート。昨年大会ではシンプルにコントをやっていたニュークレープだが、今回はちゃんと漫才らしいフォーマットを用意して来た。ただ、デビ×ナターシャで正解を見せ、リーダー×ナターシャでボケるというフリ・オチ分担システムは些か効率が悪い。展開も一辺倒で、意外性に欠ける。オチもやや投げやりに見せていて、ちょっと印象が良くない(意図的にやっているのだろうが)。ただ、撃たれたリーダーの身体から、しれっと綿が出てくるボケは好き。

「簡単に覚えてもらえる方法」。久々に会った人から忘れられないようにするには、自分を三つのキーワードで相手に脳にインプットすればいい。要するに「影の薄い相方をイジる」漫才なのだが、バッドナイスのそれは独特の語彙とイントネーションで構成されているため、ただ単に相方を貶めるだけのありがちなパターンから上手く脱却している。「いっつも探してる……」からの「君だぁ!」には笑った。展開が分かっているのに、どうしてあんなに笑えるのか。いわゆる世界観を掘り下げていくタイプではなさそうなので、この適度に浅いところで繰り広げられる会話の面白さを、どれだけ突き抜けられるか。来年にも期待したい。

「父の告白」。父親(藤本)が息子(小嶋)にこれまで隠してきた「お前は本当の息子ではない」という事実を告白するのだが、この話にはまだ続きが……。優れたアイディアをじっくりと掘り下げることで完成させたような漫才……というより、もはやコントというべきだろう。『世にも奇妙な物語』を彷彿とさせる不穏で危うげな世界観がたまらない。それでいて「連絡網の方がまだ線がある」「我々はこれを“革命”と呼んでいる」「お笑い→コンサート→養子」などのキラーワードで、しっかりと笑いをもぎ取っている。漫才として評価されることはないだろうが、他のネタも見てみたいという気持ちにさせられる良作。

「俺のファミレス」。ファミレスの店員が楢原だったら、なんだか面白そう。ヤーレンズといえば、一つの流れによって成立する漫才ではなく、これといったつかみどころのない雑談を売りとしたコンビというイメージだったのだが、今回は正統派の漫才コントを披露……するように思わせておいて、やはり終盤で思わぬ展開に。なんと、楢原が自身のコミカルなファミレスの店員ぶりに対して、出井がどう感じたのかを感想を求め始めるのである。これには驚いた。ベーシックな漫才の手法に則らない反骨スタイルは、M-1のような大会ではまず評価されないだろうが、個人的には嫌いではない。このままの姿勢で売れないかな。

「選挙演説」。日本の政治に対して文句があるという山口が、選挙カーの上から演説を行う。昨年大会では準々決勝戦のトップバッターを務めていたアントワネット。その芸風は当時と変わらず、ナルシストが行き過ぎている山口に対して、相方の小澤が微笑みながら厳しいツッコミで突き放していくスタイル。ただ、当時に比べて、腕は格段に上がっている。特に小澤のツッコミはキレ味に磨きがかかっていた。「贅沢ですねえ、都心でこの静寂!」は良いキラーワードだったなあ。キャイ~ン天野・南キャン山里の流れに乗れるか。

「マセた質問」。子どもが親をうろたえさせてしまうようなマセた質問をしてきた場合、どうやって返答するか。性にまつわる質問を投げかけられることを想定していたら、「胸倉の「倉」って何?」「腑に落ちるって何処に落ちる?」など、リアルに返答できない質問を投げかけられ続ける漫才。こういう豆知識の要素が強いネタはあまり好きではないのだが、質問の内容が絶妙で見入ってしまう。特に終盤の「中国の音楽って“洋楽”なん?」には、ちょっと肝を冷やされた。それでいて、中盤では「原発には賛成? 反対?」みたいに、知識としてではなく思想として返答しづらい質問を出してくる構成の上手さ。展開がやや一辺倒で漫才としては物足りないが、妙な魅力があった。

「友達作り」。友達のいない松原くんのことを思って話しかけた風藤くんが受けた仕打ちとは。導入から、とんでもなく古いネタを持ってきたことに驚いた。とはいえ、よもや当時のままということはないだろう、何か新しい要素が組み込まれているに違いない……と期待していたのだが、これといって新しいポイントは見当たらず。それどころか明らかに松原がネタを忘れているくだりがあり……。昨年大会では二回戦敗退に終わった風藤松原。今大会では気合を入れ直し、新しいネタを仕上げてくると思っていたのだが……残念である。やる気スイッチを押して、出直してほしい。

準決勝進出。

  • ランジャタイ(オフィス北野)

準決勝進出。

「理想のデートプラン」。理想のデートプランを語る木村に対して、田渕がフザケまくる。田渕のいいかげんに見せて計算され尽くしたフザケぶりは相変わらず。観客を置いていきそうで置いていかない程の良さ。絶妙である。ただ、田渕のフザケを発動させる、木村によるデートプランの説明のミスがあまりにもわざとらしく、以前のスタイルよりもネタの構成があからさまになり過ぎてしまっている。ここが洗練されれば、もっと面白くなっていくのかもしれないが。昨年大会では準決勝11位というところまで上り詰めていたインディアンス、来年こそは。

「オリジナルの心理テスト」。オリジナルの心理テストの内容がヘンテコなんだけど、何故だかそれを逆に求めてしまうことに。昨年大会で披露していた「○○じゃ、ないで~す!」という謎のテンションで切り返すツッコミを期待していたため、ちゃんとした漫才っぽいやりとりにちょっとだけ肩透かし。別にええねんけど。肝心の内容については、ナオ・デストラーデが披露する心理テストに岡本が心を奪われていく様を描いたもので、それなりに面白かったけれど、前半の「心理テストの問題と答えが逆」のくだりが面白過ぎて、それだけでどうにか成立させられなかったのかしらんとも思ってしまう。

「練習」。練習と称してテレビで見たことのあるシーンを二人で再現していく。昨年と同様、ここは相変わらず漫才をやろうとしないが、しかし着眼点の妙でついつい無邪気に笑ってしまう。「踊るさんま御殿!」再現VTRの再現度(表現がややこしい)の高さたるや! しかし、やはりアナウンス実況が入る番組の再現が至高。「SASUKE」からの「ロボコン」、素晴らしいバカバカしさだった。

  • 馬鹿よ貴方は(オフィス北野)

「接客」。一応はステーキ屋を舞台とした漫才コントなのだが、軸となっているのは、むしろオーソドックスな漫才にありがちな行程。それらを全てファラオがブッ壊していく。例えば、自己紹介のくだりで長々と現在に至るまでの歴史を説明したり、「接客が苦手だ」と言ってからは特に何も話さなかったり、芸名を名乗っている相方の本名をさらっと出してしまったり……既存の漫才を踏み台にしたギャグが次々に繰り出されている。結果、一本の漫才としてはブレにブレてしまっているが、彼ららしいアウトローなネタだった。

「合体」。五体のムーミンを合体させてキングムーミンを作ろうと試みるも、色んな人が混ざってしまい、次々にヘンテコなキャラクターが誕生してしまう。キングムーミンを作ろうという設定自体が混沌としているのだが、そこから「混ざり込んだ一人のユーミンのキャラクターが強すぎて、キングユーミンになってしまう」とシンプルにバカバカしい方向へと展開していくのがたまらなく良い。布川の妙に粘っこいツッコミも良い。漫才にしては構成があまりにシステマティックだが、それを凌駕するバカバカしさ。魅力的だなあ。

「引っ掛け問題」。ノブオが出す引っ掛け問題に次から次へと引っ掛かってしまうアニキだったが、引っ掛けた内容を明かしてもアニキは否定しようとせずに……。昨年大会では二人の関係性を見せるだけだったペンギンズだが、今回はアウトローな二人のキャラクターとしての素性をネタに取り入れ、その上で関係性も見せるという確かなステップアップを見せていた。テレビで既に見たことのあった林家ペー・パー子のくだりも鉄板の面白さ。そこから使い捨てカメラの話に持っていく構成も見事。ただ、コンプライアンス的には、前半の泡姫のくだりは放送が難しいと思われるので、その辺りの問題をどう解決するかが今後の課題になっていくだろう。……えんにちの二の舞を演じることのないように……。

準決勝進出。

「引っ越しの挨拶」。大阪から東京へとやってきた岩橋が、隣に住んでいる人のところへ引越しの挨拶に。前半は「引っ越しの挨拶」をテーマにした正統派の漫才コント。堅実に笑いを取りに行っていたが、「(引越しの挨拶から)三日後!」と宣言してから兼光が大暴走。引越しの挨拶とはまったく関係の無い「○○後」と掲げたテーマに対して一回ずつボケていくという一方通行な展開に。しかし、昨年大会で見られたデタラメなニュアンスではなく、彼らなりに優勝を狙える漫才を模索してきたという印象を受けた。ボケのハマりかた次第では、可能性が有るかもしれない。

「ヤンキー同士のタイマン」。ヤンキードラマにありがちなタイマンを張るシーンをやりたいのに、かーしゃが自分で言ったことに対してツッコミを入れていくので話が進まない。もはやお馴染みとなっているジャイアントジャイアンの漫才スタイル。ただ、昨年大会で見せていたような豆知識は控えめになっていて、「どこで道草食ってたんだよ!」「おととい来やがれ!」などの言い回しに引っ掛かってしまう手法を取っていた。豆知識っぽさを削ることで、より漫才らしさが出てきたように思うが、不思議と物足りなさを感じてしまうのは何故だろう。……着眼点がありがちになってしまっているのかもしれない。

準決勝進出。

「勉強できるヤツのイメージ」。運動できるヤツに比べて、勉強できるヤツのイメージは良くないと熱弁。勉強できるヤツの方が世間から良くないイメージを持たれている……という着眼点は面白いし、そんな不公平な状況に対して異議を唱える藤本の苛立ちにも共感を覚える。それなのに、漫才のスタンスが基本的に「それでも勉強できるヤツのイメージは別に悪くない!」という否定の立場を取っているため、せっかく的を射ていた藤本の意見と上手く噛み合っていない印象が残ってしまう。藤本の持論が共感を得られないほどに突き抜けてしまう瞬間があるか、或いは、藤本の持論に田畑も共感してしまって世間に理不尽なイメージの訂正を求める展開になるか、どちらかに振り切っていればまとまったかもしれない。それはそれとして、序盤の「勉強得意なヤツ同士のケンカ、刃物を持っている」はちょっとピンとこなかった。

準決勝進出。

  • チャーミング(SMA)

ディベート」。ディベートをやりたいという野田が、様々なディベートのテーマを提示するのだが、その度に相方の井上は何故か感極まってしまい……。売れない芸人としての実情を反映しているタイプの漫才は基本的に好きではないのだが(リアリティはあるものの芸人としての本質的な面白さとは別枠に感じられるため)、これはなかなか面白かった。提示されるテーマをきっかけに、思わぬ角度から飛び込んでくる悲哀に満ちた言葉の数々がいちいち面白い。特に「俺たちイヤってほど見てきただろう! おっそろしいほどの金の力をーっ!!!」には笑った。なんという説得力。ただ、オチが少し……ハートフルな展開は嫌いではないが、なんだか外ではなく内に引っ込んでしまったように見えて、売れない芸人の姿勢としてそれでいいのだろうかと少し心配に。

「行きつけのバー」。行きつけのバーを見つけたいという西村に雰囲気だけでも味わってもらうため、バーのコントを始める。昼間は床屋、夜はバーという設定が序盤では幾らかボケに反映されていたのに、後半から関係無くなってしまう詰めの甘さ。最後にもう一度、床屋ボケを食い見込んでくるかとも思っていたのだが、それも無い。何のための設定なのか。ボケの一つ一つの着眼点は悪くないだけに、どうも勿体無い。それはそれとして、TOKIOの『カンパイ!!』が思い出の曲になっている人って、そんなに少なくないような気がするのだが(シングル曲だし)。その辺りの配慮に欠けているのも気になった。マメに面白いコンビというイメージがあったのだが。

Mr.Childrenのイメージ」。南川がMr.Childrenに対して抱いている歪んだイメージを二人で再現。昨年大会では売れない芸人としての立場を利用したひねくれまくった漫才を披露していたピーマンズスタンダード。今大会ではどんなネタを演じるのかと期待していたのだが、思っていた以上に弱めの内容で肩透かし。テーマ自体は悪くない。南川が思い描くMr.Childrenのメンバー四人の世間の認知度の歪みを「四人で一緒にご飯食べに行ったときに桜井さんだけ高いモン頼んで、他のメンバーが「え? 桜井めっちゃ高いモン頼むやん?」ってヘンな空気になるイメージ」と表現する底意地の悪さ。ただ、それを再現している時間が微妙に長くて、その割にリターンが少なくて、ちょっと勿体無かったなあという印象。しかし、確認した動画では、南川が「そんな売れてんの?あの二人」と間違えてしまうくだりがあったので、ことによると元は違うユニットを扱ったネタだったのでは……という疑念が。ちなみに三回戦は反町隆史松嶋菜々子夫婦をテーマにしていた。

「ケンカ」。ケンカに強くなるためにジム通いを始めたという初瀬に対して、森下が「ケンカは実践あるのみ!」と言いながら謎の対戦表を押し付ける。初瀬が森下演じる奇妙なキャラクターたちと対峙する展開は昨年大会で披露されたネタ「上野絶望園」を思わせる。彼らの漫才は基本的にこういうスタイルなのだろうか。ただ、ネタのシチュエーションが前回よりもベタなため、彼らの持ち味である不条理な味わいが薄まってしまっている。それなのに、初瀬が過剰に「気持ち悪い!」を連呼するので、なんだか集中力を削がれてしまった。ガリベンとか、酔っ払いとか、言うほど気持ち悪い存在ではないように思うのだが……キレ味のあるオチは好き。

高校野球のヒーローになりたい」。高校野球のヒーローになりたいというともしげ、九回裏で逆転ホームランを打つヒーローになろうとするも……。漫才師がコントで演じるレベルを超越した高校野球の再現からの、ともしげの打球を芝があっさりとキャッチしてしまう展開に大笑い。地盤をしっかりと固めているからこそ成せる技である。中盤、芝の高校球児に対する高評価があっという間に偏見まみれになっていく展開も、あまりにもヒドいのに妙に説得力があって、完全に笑わせられてしまった。無論、この芝のキツくてヒドい言動を受け止める、微塵も哀愁を漂わせないともしげの腕白ぶりがあってこそなのだが。いやー、面白かったな。

準決勝進出。

「イイ女と結婚するために」。芸人になった一番大きな理由が「売れてイイ女と結婚したい」だったという福島だが、最近になって「売れてから寄ってくる女性はお金に惹かれているだけなのではないか」と気付いたため、もうこれ以上は売れないようにしようと決意したという。設定そのものは昨年大会でピーマンズスタンダードが披露していた『タトゥー』のネタを彷彿とさせる。売れない芸人が売れようとするのではなく、むしろ、売れない方へ向かおうとする不可思議な状況を上手く成立させている。その上で、相方である高木のおもしろツッコミに対して、「売れるから止めろ!」と制止しようとする展開は笑った。ただ、それ以上の展開がコレといってないため、尻すぼみに終わってしまった感。

準決勝進出。

「女の子を口説く」。女の子を口説く練習がしたいという酒井。相方の平子を女の子に見立て練習してみようとするのだが、平子の演じる女の子がいちいちイージーモードで……。アルコ&ピースらしからぬハートフルな内容に苦笑してしまった。ネタそのものは面白い。平子演じる女の子たちの挙動がどれもこれも思わせぶりで、絶妙なところを突いてくる。ただ、こういったネタを、あえてアルピーが演じなければならない必然性を感じない。見た目のイカつい平子が女の子を演じるギャップは滑稽ではあったし、どう足掻いてもイージーモードになってしまう女の子の言動は安定して面白かったが、そんな無難な笑いに頼らなくてはならないコンビではないだろう。

「プロポーズ」。野沢雅子人造人間17号によるプロポーズ漫才。……かつてはエッジの利いた漫才を演じていた彼らが、このような芸風になってしまおうとは、果たして誰が予測できただろうか。序盤で自分たちがイロモノであることに早々と触れておいて、観客の違和感を薄めたところで本ネタへと入っていくところに漫才師としての経験が感じられる。それ以降は、いつものように野沢雅子のモノマネ芸を駆使した漫才コント。見浦の「ロマンチックあげるよ」の後の田島のコメントがやや不安定になってしまう瞬間があったが、ひょっとしたらネタを飛ばしたのだろうか。

「新大陸発見」。都築から「新しい大陸、見つけたことある?」と話題を切り出される後藤。無論、後藤は新しい大陸を見つけたことなどないのだが、都築は新しい大陸を見つけた後の話の展開しか考えていなかったため、そこで会話が途切れてしまう。そこで石橋が後藤に嘘をつくようにアドバイス、新しい大陸を見つけたことにして話は展開し始める。面白い。話を突き詰めてくるバカの都築と、バカなアドバイスしかしてこない石橋の間で、板挟みになりながらも妙に冷静な後藤というバランス感が絶妙だ。システマティックでありながら三人の個性が自然に表出しており、流石は“ローテーション漫才”を開発した我が家の属するワタナベ・エンターテインメントといったところ。ただ、ネタのフォーマットが完成され過ぎていて、ここから更なる進化を遂げることが出来るのか、という不安もある。とりあえず来年以降の進展に期待したい。追記。後ほど、三回戦のネタを確認したところ、まったく違った芸風のネタで驚いた。実に底知れない。

「引きこもりの生徒を説得」。教師モノのドラマが好きだというガクカワマタ。ひきこもりの生徒を学校に来るように説得する教師を演じるため、相方の川北にひきこもりの生徒をやらせるのだが……。メインストーリーである「ひきこもりの生徒を学校に来るように説得する教師」だけでも十分に面白いのだが、そこに「川北がコントの世界から戻れなくなってしまう」という不条理な要素を付け加えることで、なんともシュールな味わいのネタに仕上がっている。こういったスタイルはまず間違いなく評価されないが、ありがちな漫才コントに対する一つの批評として見るとなかなかに興味深い。コントからジャケットだけ放り出すくだりが地味に好き。

 「バーで女性を口説きたい」。坂本演じるバーテンダーの店で宮戸演じる女性を口説き落とそうとする福井の苦難を描く。宮戸と坂本が繰り出すボケに対して、福井がじっくりと間を置いて確実にツッコミを当てていくスタイルのネタ。それぞれの素の喋りの少なさを思うと、漫才というよりもコントに近いのだが、とはいえ面白かった。宮戸も坂本も無闇に軽いキャラクターを演じているのに、彼らの素性が明らかになるにつれて、だんだんとヤバい側面が露わになっていく様は実にドラマチック。福井のツッコミも「ロケットスタートやな!」「デスゲームの始まりやで……」「読書感想文か!」と常に端的で的確。ただ、こういう賞レースで、「ヤクザと付き合ってる」というフレーズはどうなのだろう。表現としても些かベタ過ぎる気がするが。

「大人が引っ掛かる十回クイズ」。好井が繰り出す十回クイズにどうしても引っ掛かってしまう井下の醜態。とにかく十回クイズのレベルが高い。ネタの中では、井下が引っ掛かってしまうことを好井が冷やかし続けているが、純粋に難易度が高いので、すっかり感心してしまった。何が凄いって、同じ展開が繰り返されているだけなのに、まるで飽きさせないところが凄い。こういう笑いの取り方は個人の人間性の深みが表れるようになるにつれて、もっともっと面白くなっていくと思うので、今後は二人のキャラクターを認知させていく方向性で行くのだろう。ことによると化けるかもしれない。

「リズムネタ」。長峰が考えてきたリズムネタを二人でやってみる。前半は長峰の説明不足がネタの進行に支障をきたす様子を描き、後半は純粋にリズムネタそのものから溢れ出る不快感に対して拒否反応を示す様子を描いている。前半パートはとにかく手堅い。理不尽なことを言い続ける長峰に対して、顔も声質もコミカルな長尾が良い受け皿となっている。ただ後半パートはちょっとエグみが強すぎて(「シャコって水死体と一緒に陸に上がってくるらしいで」は流石にキツい)、笑いに転換しきれていない。笑える・笑えないの塩梅を失敗しているように思う。

「彼女のご両親に結婚の挨拶」。彼女のご両親に結婚の挨拶をしに行く安田と、ストレートに彼女のお父さんを演じさせてもらえない石井。ネタの主人公である安田がどんどん移動するため、その都度、石井が様々な人々を演じさせられる……という変化球漫才。以前、磁石が『床屋』の漫才で、似たようなことをやっていた記憶がある。なかなかお父さんを演じさせてもらえない石井の戸惑いと不安を引き出したネタで、ボケの質量やメリハリの点ではあまりにも弱すぎるが、じんわりと笑いがこみ上げてくる。M-1のような場とはまた違ったステージで評価されそうな気がしないでもない。

準決勝進出。

  • 錦鯉(SMA)

「保育士」。保育士が足りない世の中のために、長谷川が保育士になることを決意するのだが、相方の渡辺に「お前はバカだから出来ない」とキッパリ否定される。長谷川の保育士コントに対して、渡辺が横からツッコミを入れていくスタイルの漫才。長谷川の保育士としてのダメさを見せると同時に、猫との因果関係を描いてみせる構成が巧妙だ。とりわけ進化のくだりが良かった。ただ、コンプラ的には、「アブないおじさん」みたいなボケは厳しいような気も。一番好きだったのは「まず、グーとチョキとパーを出せ!」のくだり。

準決勝進出。

「シンデレラ」。童話「シンデレラ」の主人公を宮田が演じ、残りの登場キャラクター全員を河中が演じる。ネタそのものは面白い。魔法の力でネズミが馬に代わるくだりの生々しさだとか、魔法の副作用だとか、様々な国の王子たちとダンスを繰り広げるだとか、サディスティックなボケの中でさらりとセンスを見せている。ただ、単純に「シンデレラ」をモチーフとしたコントを演じているだけの本編において、河中がシンデレラ以外のキャラクターを全て演じるという言い方は、余計な期待を持たせてしまいかねないからどうかと思った。……流れ星がまったく同じ言い回しでネタをやったことがあったので、そういう方向性に期待してしまった。

  • すっきりソング(SMA)

「夢」。本田にはいつか叶えたい夢があるというのだが、それについて話すと、相方の植田が怒ってしまうだろうから話せないのだという……。昨年はオーソドックスな漫才コントで挑んでいた彼らだが、今回は植田の激高するツッコミを軸としたしゃべくり漫才。昨年大会の時点で、植田のツッコミにはアンタッチャブル柴田へのリスペクトが感じられたが、それを更に強調してブチギレスタイルに持ち込んだわけだ。ただ、あまりにも激しすぎて、笑いに昇華しきれていない。もとい、熱気が空回りしている。この大胆な方向性の切り替えは、おそらくM-1で評価される漫才を意識的に作り上げた結果なのだろうが、個人的には昨年大会で披露したようなオーソドックスな漫才コントの方にこそ将来性を感じるのだが……。あと、冒頭の「叶えたい夢=電池を捨てること」という設定がちょっと魅力的だったので、そこが掘り下げられなかったのが残念。

準決勝進出。

準決勝進出。

準決勝進出。

準決勝進出。

「桃太郎」。「桃太郎」を演りたいという誠子に対して、「浦島太郎」がやりたいと言いながらも付き合わされる渚。「桃太郎」のお芝居を男女の性行為に置き換えたメロドラマ漫才。妙に見覚えのあるネタだとは思っていたのだが、尼神インターは昨年大会の準々決勝でほぼほぼ同じ内容のネタを披露している。三回戦ではまったく違うネタを演っていた(「○ンタマ」を知らないという誠子が渚に「キン○マ」についての質問を繰り返す)ので、ことによるとそちらにNGが入ったのかもしれない。しかし、だとすれば、何故に準々決勝戦で止めさせられるのか……。

準決勝進出。

準決勝進出。