白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ラストベストロッチ3」(2017年10月4日)

ラストベストロッチ3 [DVD]

ラストベストロッチ3 [DVD]

 

過去の単独ライブDVDに収録されていなかったコントの中から、二人のお気に入りのネタを11本ピックアップして再演した映像を収録。ロッチの単独作品がリリースされるのは『ロッチ単独ライブ「ハート」』以来四年ぶり、“ラストベストロッチ”を銘打った作品のリリースは七年ぶりとなる。

◆本編【57分】

「変なノリ長いヤツ」

「表参道の美容室」

「オヤジ狩りされてるのにされてないことにしようとするオッサン」

「試着室」

「20歳の告白」

Wi-Fi

「フラダンス」

「透視」

「before」

「除霊」

「ネパールのチェーン」

◆特典映像【16分】

「中岡ツアーズ in沖縄」

◆音声特典

「ロッチによる全編コメンタリー」

かつてのロッチといえば、キャラクターが醸し出す哀愁めいた空気感を一つの笑いのアクセントとしていたイメージがある。釣りの初心者に先輩風を吹かしながら語った釣り指南がことごとく裏目に出てしまう釣り好きなおっさんの居たたまれなさがたまらない『釣りのおっさん』や、どのような状況であってもギャグで笑いを生み出さなくてはならない芸人の辛さをコミカルに描いた『こんにちは根岸』などは、そんな彼らの当時の芸風を表した名作といえるだろう。

しかし、本作で演じられているコントは、とてもシンプルかつドライに作られている。思うに、タレントとして一定の評価を獲得した中岡創一に対する世間の印象が、当時に比べて大きく変化したためだろう。その傾向の変化が色濃く表れているのが、「キングオブコント2015」で披露され、本作にも収録されている『試着室』だろう。延々とズボンを履こうとしない客の不条理な振る舞いが、それでも不気味さを一切漂わせることなく、徹底してコミカルさを失わないのは、タレントとして積み上げてきた中岡創一の画の強さがあるからこそ成立させられる。その意味では、ロッチは着実にバナナマンと同じ道を歩んでいるといえるのかもしれない。

ただ、コント職人としての筋肉は、当時に比べて少し落ちてしまっている感は否めない。友人の結婚式で変なノリを長々と繰り広げてしまう悪いクセが止め処無く発動してしまう男を描いた『変なノリ長いヤツ』、「泥酔」を「どろよい」と読むものだと勘違いしていたことを指摘されたにも関わらずリアクションを取らずにこっそり修正しながら話を続けようとする中岡の姑息さがたまらない『Wi-Fi』、透視能力を身につけた男が会社を辞めて超能力者として生きていくことを決意するのだが能力の発動方法があまりにも泥臭い『透視』など、一定のクオリティはキープしているのだが、『試着室』ほどの衝撃を覚えない。良くも悪くも安定期に入っているということなのだろう。

そんな中にあって、他のネタに比べてちょっとだけ魅力を感じたのが『表参道の美容室』というコント。文字通り、舞台は表参道の美容室。中岡演じる中年女性が、コカド演じる美容師に髪をカットしてもらいにやってくる。彼女には「ただのデブのおばさんが……」と、どんな状況においても自虐的に謙遜してしまうクセがある。美容師がどんな提案をしても「ただのデブのおばさんが……」「ただのデブのおばさんが……」と、いちいち自分には勿体無いからと突っぱねてしまう。ところが、ふとした流れで、彼女の夫の話になった途端に……ここから先の展開は実際に見てもらいたい。急転直下のオチには些かの予定調和を感じもしたのだが、中盤以降の展開には深く感心させられた。それが自虐であっても、謙遜だったとしても、その意図が通用するのはあくまでも会話の相手に限られるのである。ロッチだからこそ表現できる、ちょっとブラックな苦味を強めたコント。面白かった。

これらの本編に加えて、特典映像として「中岡ツアーズ in沖縄」を収録。ロッチの二人と本作に関わった三人の構成作家我人祥太がいる!)と中岡の謎の同居人が沖縄旅行に繰り出す様子が撮影されている。数日に渡る旅行の映像を16分にまとめるのは少し無理があるのではないかと危惧していたのだが、絶妙なバランス感による編集のおかげで、短いながらも満足感の残る映像になっている。良い仕事だ。ただ沖縄旅行を楽しんでいるだけの映像でしかないのだが、とても楽しかった。沖縄行きたいなあ(お笑いDVDレビューのオチがそれでいいのか?)