土曜深夜の視聴覚室

芸人のDVDを見てなんやかんやいうブログ

「シソンヌライブ[cinq]」(2017年4月5日)

2016年7月14日~18日に本多劇場(東京)、23日・24日に石川県教育会館、30日・31日にテイジンホール(大阪)で開催されたライブより、本多劇場での公演を収録。

コントとは笑えるモノ。多くの人がそういう認識を持っているだろう。だが、シソンヌのライブにおいて、その考えは通用しない。無論、笑えないわけではない。むしろ笑わずにはいられない。じろうの卓越したキャラクター、長谷川の揺るぎなきツッコミ、両者がしっかりと噛み合った瞬間に起こる笑いの凄まじさは、彼らが『キングオブコント2014』を制した事実が証明している。そう、シソンヌのコントは間違いなく笑える。ただ、それだけでは、ない。

本作の一本目に披露されている『やめられないお母さん』は、数多くの外国人旅行者を自宅に民泊させている母親と、そんな母親の行動に対して不安を感じている息子のやり取りを描いたコントだ。カタコトの英語を駆使して電話の向こう側にいる外国人と打ち合わせをしている母親と、次から次へと自宅へやってくる外国人に嫌悪感を覚え始めている息子……その姿は、日本の何処かで実際に目にすることが出来そうな風景である。だが、ふとした瞬間、その和やかなやりとりに、微かな緊張感が走る。例えば、自宅から家族にとって大事な物が紛失していることが発覚した瞬間、既に父親が亡くなっていることが語られる瞬間、母親が外国人を民泊している本当の理由を明らかにする瞬間……それは本来ならば「笑いごとでは済まされない」ことだ。否、そもそも、有り得ない人数の外国人を招き入れて、家族から反対されているという状況こそ「笑いごとでは済まされない」のである。だが、それらは全て、深く追及されることなく、不自然なほどあっさりと受け流されてしまう。その瞬間、舞台には通常のコントであれば起こるはずのない、生々しさを纏った不穏な空気が発生する。

この他にも、本作では様々な不穏な空気を漂わせたコントが演じられている。まったく家から出ようとも働こうともしない息子のことを、「社交的で明るい」というだけでニートであることに気付かなかった父親のやり取りが楽しくも落ち着かない『うちの息子、実は』。衝撃的なテロップで味付けされていることで笑いが起こっているが、実際に起きていることはホラー映画級の恐怖体験である『ばばあの罠』。試合でサヨナラ勝ちを決めた野球選手に球界の御意見番と呼ばれるリポーターがインタビューを始めるのだが、放送される媒体がテレビからラジオに切り替わった瞬間、その態度を一変させる『ヒーローインタビュー』。……どのコントにおいても、じろうのクセがあるキャラクターとともに、不穏な空気が付きまとう。その空気に気付かされるたびに、こちらの感情も揺さぶられる。実にたまらない。

これらの中でも、飛び抜けた傑作が『てんぷら』だ。とある小料理屋を訪れたサラリーマンが空腹から沢山の料理を注文するのだが、店主とのやり取りの中で、気が付けば頼んでいる全ての料理がてんぷらだということが発覚し……。二人の会話そのものは自然なやり取りなのに、その中で繰り広げられているのはあまりにも不自然な展開で、ゆっくりと狂気の海へと沈んでいく心地良さがたまらない。また、コントの軸となっているアイテムが、「てんぷら」というのが絶妙だ。どんな材料を使ったとしても、それをカラッと油で揚げてしまえば、それは全ててんぷらになってしまう。着眼点の上手さに感心せざるを得ない。

そして、ライブの終わりが近付くころ、本作最大のコント『止めてみたものの』が幕を開ける。コントの舞台は断崖絶壁。海を見つめながら佇んでいる長谷川の元へ、友人の大河原が慌てて駆け付ける。大河原は、連絡が取れず、マンションは解約され、仕事も辞めてしまった長谷川に生命に危険を感じ、あっちこっちを探し回っていたのだ。案の定、自殺しようとしていた長谷川に対し、大河原は友人として激しく説得する。その気持ちが伝わったのか、長谷川は死ぬことを思い留まる。その生きる希望に満ちた表情を見て、安堵する大河原。しかし、長谷川が本気で死のうと考え、仕事も家も貯金も全て失ってしまったことを知り、一気に表情を曇らせる。そして、「イチから頑張ればイイんだもんな!」と満面の笑みを浮かべる長谷川に対し、「俺、無責任なこと言ってたな……」と後悔し始めて……。

正直なところ、シチュエーションだけを取り上げると、さして珍しいものではないように思う。自殺志願者をテーマにしたコントは過去にも数多く存在している。そこから、自殺を止めた人間がその行為を後悔し始める……という展開のコントが生み出されても、大して驚きはしない。ただ、ここで重要なのは、これまで描かれてきた「笑いごとではすまされないこと」を自然に受け流してしまう行為が、ここでは一つの希望となっている点だろう。このコントの長谷川に未来があるとは言い難い。だが、とりあえず生きてみれば、どうにかなるのかもしれない。これまで不穏な空気を発生させていた一種の鈍感さが、ここでは救いになる。そのコントラストがとても美しい。

これらの本編に加えて、特典として「オーディオコメンタリー」と「メイキング」を収録。「オーディオコメンタリー」では、じろうが自らの高い身長を悔やむくだりがあって、演じる側としてはそういう悩みもあるのかと妙に驚いた。なるほど、確かにじろうのようにキャラクターを演じる芸人にとって、高すぎる身長は却って笑いに転換しづらいものなのかもしれない。

■本編【100分】

「やめられないお母さん」「最新の勉強法」「うちの息子、実は」「ばばあの罠」「てんぷら」「家具屋」「ヒーローインタビュー」「止めてみたものの」

■特典音声

「シソンヌライブ[cinq]」オーディオコメンタリー

■特典映像【13分】

「シソンヌライブ[cinq]」メイキング