白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

中沢家よ、永遠なれ。

中沢家の人々・完全版

中沢家の人々・完全版

 

人生、何が起こるか分からない。だからこそ、面白い……と語る人がいる。だが、私の場合は、むしろ逆である。何が起こるか分からない人生が、恐ろしくて仕方がない。出来ることならば、これから私が歩むべき道を常に誰かに教えてもらいたい。でも、そんなことなど、出来る訳がない。常に一寸先は闇。それでも生きていかなくてはならない。誰もがそうやって生きている。さも当たり前のように。

そんな私の怯えた心を、三遊亭圓歌師匠の『中沢家の人々』は少なからず癒やしてくれた。落語家になるために両親から勘当され、それなのに自分が両親を養うことになり、それどころか死別した前妻の両親と再婚した後妻の両親も抱えることになり、気が付けば自宅で六人の老人と同居することに……そのムチャクチャなシチュエーションに笑って、泣いた。ああ、人生は割といいかげんでも、それなりになんとかなりそうだと思えた。どんな風に生きていても、最後は誰もがジジイババアじゃねえか。後に出た著書で、この噺の大半がウソだと知ったときは、ショックとまではいわないにしてもちょっとだけ驚いた。まあ、考えてみれば、こんなコミカルな話があるわけがない。でも、この噺を圓歌師匠が語り、多くの観客が半信半疑になりながら爆笑していたことは、紛れもない事実である。

今でも時々不安になるけれど、圓歌師よ、人生をありがとう。