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土曜深夜の視聴覚室

芸人のDVDを見てなんやかんやいうブログ

「ウエストランド第一回単独ライブ「GRIN!」」(2016年11月23日)

2016年6月24日~26日にかけて恵比寿エコー劇場(東京)、同年11月3日に南堀江knave(大阪)で開催された初単独ライブを収録。ウエストランドの漫才を収録したDVDがリリースされるのは、2013年10月に発売された『漫才商店街』以来三年ぶり。当時、飾り気のないスタジオで披露されている漫才に口惜しさで胸が締め付けられるような気分になった身としては(漫才そのものは面白かった分だけ、余計に)、きちんとした舞台の上で、しかも客が入っている状態で演じられている漫才が映像化されたことは、とても喜ばしい話である。今後、第二回単独、第三回単独と、リリースされ続けてくれればなお嬉しいのだが、どうだろう。

ウエストランドの漫才は、いつも気だるげで口数も少ない河本太の発言に対して、不満や苛立ちを露わにした井口浩之がその感情をまったくオブラートに包み込むことなく吐き出してしまう、一種の“ボヤキ漫才”である。井口の発言がエスカレートすればするほど、話の内容が過激で明け透けになっていくほど、その漫才は力を増していく。無論、ただ過激であればいい、というわけではない。そこには微かな正当性がなくてはならない。それが強い偏見によるものだということを認めながらも、しかし彼の言い分にも一理あると思わせなくてはならない。この残されたギリギリの一理が、ウエストランドと観客をしっかりと繋ぎ止めている。

本作は、そんなギリギリ首の皮一枚の面白さによって、辛うじて成立させられている漫才で構成されている。「誰からも尊敬される完璧な人間なんていない」という持論を語る井口が、教科書に載るような偉人たちを独自の視点でこき下ろしていく『美談』を皮切りに、ヒマつぶしにTwitterで「死にたい」とツイートしている人たちを検索しているという河本が発掘した「死にたい」ツイートを紹介し始めるのだが、その内容の下らなさに井口が怒りを爆発させる『マジ死にたい』、河本が芸人以外に憧れているという職業が「週六日バイトして年に一回舞台に立っている役者さん」「いつか大ブレイクしてやるぞ!と路上で歌い続けているミュージシャン」と井口の逆鱗に触れるような人たちばかりで……『憧れの職業』などなど、各方面に支障をきたしかねない程のボヤキを漫才の中で振り回している。

それらの中でも、突出して危険度数の高い漫才が『モテない』だ。「M-1グランプリ2016」の予選でも披露され、準々決勝戦で敗退してしまったネタなので、ご存知の方も少なくないだろう。その内容は、結婚生活の素晴らしさを噛み締めているという新婚の河本が井口にも結婚を薦めようとするのだが、当の井口は「結婚できないんで」「モテないんで」「やめてください」とハナから結婚を諦めている。それでも河本は井口が結婚できる可能性を見出そうととするのだが、井口自身は自らのことを客観的に捉えており、どうして自分がモテないのか、その理由を明確に説明し始める……というもの。序盤は自虐的な態度を取っていた井口が、途中から態度を一変、女性に対する不満から生じた敵意をがむしゃらに撒き散らす様がとてつもなく面白い。

これらのボヤキ漫才も非常に面白いのだが、その一方で、単独ライブならではのちょっと変わったスタイルの漫才もなかなかに魅力的だった。例えば、井口が町の中で見かけた面白い一般人の話をしているにもかかわらず、河本が「もっと面白い人を見た」と言いながら【東京03】の名前を挙げる『おもしろい人』は、数々の“おもしろい人”の名前が次々に挙げられていく漫才で、若手芸人好きならばニヤニヤが止まらない一本だ。「なんで豊美やんなきゃいけないんだよ!」なんて、他では絶対に聞けないツッコミだろう。「井口の凄さを知ってもらいたい」という河本に、当初はちゃんとツッコミを入れていた井口も、だんだんと「確かにスゴいけど!」と調子に乗り始める『井口凄い』は、河本の策略にまんまと引っ掛かる井口のコミカルさを描いた漫才。このネタでの井口は、少し東京03・角田のポジションを思わせる……。LINEやメールの利便性について語る河本に、「顔を向き合わせないと真意が伝わらないこともある」と断言する井口が様々な表情を駆使しながら論破しようとする『顔芸』は、アレコレと理由を作りながらも結局は井口の顔で笑わせようとする強引さがたまらない漫才だ。特に「無表情アンパンマン」は最高に面白いので、是非とも多くの方々に見ていただきたい。無表情が面白いって、なんなんだよ。

特典映像は「爆笑問題withタイタンシネマライブ」で披露された漫才より『妬み嫉み僻み』『世界征服』『褒める』『紹介』の四本を抜粋。単独ライブ以前の少し若い頃に演じられた漫才ということもあってか、一つ一つのネタをパワーで押し切っている感があり、本編のネタとはまた少し違った触感を楽しめる。他の売れている芸人に呪いをかけたり、世界征服を目指したり、女の子を紹介してくれない河本に井口がツバをぶっかけたり、とにかくアグレッシブ。でも、これはこれで、ちゃんと面白い。

過激な言葉をぶちまけながらも、愛嬌とみっともなさで見るものを笑顔にさせるウエストランドの漫才は、まさしくボヤキ漫才の正統な後継者と呼ぶに相応しい。色んな抑圧が面倒臭い現代において、彼らの歪んだ感情がストレートに噴き上がる漫才は絶対に必要となってくるだろう。でも、こういったスタイルの漫才師は、下手に売れてしまうと説得力に欠けてしまうからな……売れない方がいいのかもしれないな……「ダメじゃん!」。

■本編【78分】

「1.美談」「2.おもしろい人」「3.マジ死にたい」「4.井口凄い」「河本太、焼印を押す」「5.憧れの職業」「6.モテない」「7.例え話」「8.養成所」「河本太、キャンプをする」「9.下ネタ」「10.夢」「11.顔芸」

■特典映像【31分】

「「爆笑問題withタイタンシネマライブ」より抜粋の漫才4ネタ!」

「妬み嫉み僻み」(2014年6月13日)/「世界征服」(2014年10月10日)

「褒める」(2015年8月28日)/「紹介」(2015年10月9日)

「河本太、キャンプをする(ライブ未公開映像)」