白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「人志松本のすべらない話」(2017年1月7日)

出演は、松本人志千原ジュニア宮川大輔バカリズム渡部建アンジャッシュ)、カンニング竹山劇団ひとり、カズレーザー(メイプル超合金)、好井まさお(井下好井)、阿生(ミキ)。このうち、劇団、カズ、好井、阿生は初登場。これらのメンバーに加え、漫談家綾小路きみまろスペシャルゲストとして登場した。きみまろといえば、昨年11月に放送された「ダウンタウンなう」のロケ企画「はしご酒」に出演した際、松本から「きみまろさんと志の輔さんは別格なんです」と讃えられていたことが記憶に新しい。前回はフリートークで共演していたが、今回はお互いの本分である話芸での共演となったわけだ。……この流れで、いつか志の輔師匠も出てくれないかな(まあ出ないだろうな)。

印象に残っている話は、カンニング竹山前田健の仮通夜、カズレーザーの花火、宮川大輔ほっしゃん。松本人志のトイレが近くなっている話(「チンビル」というワードの素晴らしさ)、好井まさおの演出家。特にカズの話は、小学生時代の思い出ということもあって、絶妙なジュブナイル感がたまらなかった。一部では評判が良くないようだが、綾小路きみまろの話も面白かった。オチのキレ味で笑わせるというより、その如何ともし難いシチュエーションのあっけらかんとした面白味がたまらなかった。MVSは好井の「結婚式」。好井の売れない芸人ならではの卑屈さが前面に押し出された話で、確かに面白かったのだが、個人的には少ししんどかった。……というか、まだコンビ結成11年目なのに、卑屈に走るのはちょっと早すぎる。上を見上げれば、そこには結成20年目を迎えてまだ売れる気配のないスパローズが……上か?

ところで、この番組内で披露された、カンニング竹山による前田健の話に対して「笑えなかった」という旨の文章が、ちょっと前に話題になっていたことを最近になって知った(不愉快なのでリンクは貼らない)。笑える・笑えないの感覚は人それぞれである。山崎まさよしが自身の楽曲『セロリ』で「育ってきた環境が違うから 好き嫌いはイナメナイ」と歌っていたように、それぞれの人生によって培われてきた感覚の差異から、どうしても笑える・笑えないの誤差は生じてしまう。だから、それ自体は仕方がない。

ただ、あの話を受けて、竹山が「男同士の恋愛感情を笑う」「マエケンが男性じゃなくて女性だったら、この話は笑いにならない。マエケンは男だから、みんなが笑ってもいい扱いしている」「マエケンの恋心を馬鹿にしている」という旨の意図を持っていた……などと言い草は、とてもじゃないが無視できるものではない。竹山自身も語っていたように、二人は親友であり、芸人仲間だった。そして、これも竹山自身が語っていたように、マエケンは自身の竹山に対する愛情を決して隠そうとはしなかった(なんなら番組やライブの企画でもその思いを暴発させ、積極的にエンタメ化していた)。くだんの記事は、前田健というエンターテイナーのことを“同性愛者”という枠組みでしか捉えられていない、むしろ故人に対して失礼な解釈ではないかと私には感じられた。

ちなみに、竹山の話を簡潔に説明すると、「以前から自分のことを好きだと言っていた親友・前田健の実家で内々に行われた仮通夜に出向くと、故人の側で「健はね、人生を全うしましたよ!」と弔問客の一人一人に向かって気丈に挨拶をしていたマエケン父親が、自分の番になるといきなり号泣し始めて、「竹山くん!健はね!健はね!竹山くんを愛してたんだよ!」と叫ばれたので、どうすればいいのか分からなくなってしまって逃げ出した」というもの。この話が笑えるのは、仮通夜の場において、沢山の弔問客が訪れている中、マエケン父親に息子の気持ちを絶叫されてしまった当事者たちの困惑が想像できるから……だと、個人的には解釈している。ここでいう当事者とは、竹山とマエケンのことである。お互いがお互いの気持ちをどれほど認識し合っていたのかは分からないが、そのセンシティブな関係性に身内が割って入ることほど、気恥ずかしいものはない。思わず「ババァ、ノックしろよ!」と言いたくなる(この話のメインは父親だが)。でも、マエケンはもうこの世にはいないし、だからこそマエケン父親もそれを言わずにはいられなかったのだろう。その状況、全てが哀しくて、切なくて、やりきれなくて、でも……面白い。

最後に余談。くだんの文章の中に“「お笑いの解釈は見た側の個人でしていい」って通説”という一文があったのだが、この通説は何処で通っているのだろうか。まあ、それがまかり通っている場所があったとして、少なくとも、今回は前田健という故人についての話なので、当事者でも親族でもない無責任な第三者である私たちは、竹山自身がどのようなつもりで語っていたとしても、当事者たちの姿勢を批判するような内容にする場合においては、どれだけ配慮しても足りないというくらいに配慮しなくてはならないことは明白で、「竹山がマエケンの想いを笑った」などと解釈する際にはそれこそ神経をすり減らすほどに気を遣わなくてはならないわけで……つまるところ、その程度の覚悟しかないのなら語ってくれるな。いや、本当に。