白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「エレ片 コントの人10」(2017年1月6日)

エレ片 コントの人10 [DVD]

エレ片 コントの人10 [DVD]

 

 2016年2月から3月にかけて全国七都市で上演されたコントライブより、東京・草月ホールでの公演を収録。今回の公演をもって終了が宣言されている「コントの人」シリーズ。その短いようで長い道のりには、ある種の歴史の重みのようなものを感じさせなくもない。だが、その背景とは裏腹に、演じられているコントはいずれも徹底的にバカバカしく、余計な思考の及ぶ余地を与えようとしてくれない。

なにせ、オープニングコントからして、とてもヒドい。エレ片のメンバーであり、昨今は個性派俳優としての目まぐるしい活躍を見せている片桐仁が、とあるドラマで腹筋をしなくてはならないのだが自身は一回もこなすことが出来ない(※証拠として、二年前に『エレ片のコント太郎』でのイベントで行われた片桐公開腹筋の映像が流れる)ので、偶然手に入れたタイムマシンで過去の自分に会いに行き、「将来のために、腹筋の練習をしろ!」と押しつけがましく指導する。……過去の自分に会いに行くという藤子・F・不二雄的な世界観で、やることがあまりにもしょうもない。これだけでも十二分に面白い……のだが、このコントの真の肝は、過去の自分と対話することで明かされていく、かつて片桐が経験してきた“事件”の凄まじさだ。恐らく、自身のラジオでも語られている、有名なエピソードなのだろうが、何も知らずに直面したものだから、そのあまりの凄まじさに驚きと笑いが止まらなくなってしまった。なんと哀しく、惨めで、幸運な男であろうか。過去に自分に対して、「多摩美に行って、あの男に会え!」と熱弁していたのも、切なくて面白い。半自伝的な趣の強い傑作である。

これ以降のネタも粒ぞろい。全国を狙えるほどではないが部内での成績は優秀なジョイナー風の女性ランナーが、ブスだという理由から駅伝の代表から外されてしまうという身も蓋もない不条理さが笑える『ブスの才能』。小学校の授業中にウンコを漏らしたクラスメートをかばうため「私がウンコを漏らしました!」と宣言した今立だったが、何故か同窓会で漏らした当人であるやついからそのことをイジられるという理不尽な扱いを受け、思わず掴みかかったところ、大事件が……『同窓会』。母校で公演を行った片桐が、演劇部の部員だという生徒に演技指導を行うも、その演技があまりにも……『ようこそ先輩』。どのコントも珠玉だが、特に笑ったのは『同窓会』。やついから放たれるあるモノを受けたときの今立のツッコミが素晴らしい。内容のバカバカしさから察するに、アドリブとして放たれたものなのだろうが、とにかく下らない。このツッコミとしてのポテンシャルの高さ、他に活かせる場面が与えられるといいのだが。

以上のように、収録されているネタそのものは非常に素晴らしいのだが、悲しいことに、視聴後はあまり満足感を得られない。何故ならば、ライブ本編では披露されていたラストコント『桜のラブレター』が、本作に収録されていないからだ。通常、芸人の単独ライブでは、最後に長めのコントが演じられることが少なくない。グランドフィナーレに相応しい重みを与えるためだろう。本公演では、『桜のラブレター』が重石の役割を果たしていた。この重石があるからこそ、それまでに演じられたバカバカしくて下らないコントの数々がしっかりと着地するのである。考えてもみてもらいたい。どんなに秀逸なアクションを見せる映画だったとしても、目的を果たさないままにエンドロールが流れ始めたら、それは未完ではないか。まあ、これが単なる単独であれば、そういうこともあるかもしれないと思えたのかもしれないが、曲がりなりにも“最後”と銘打っている公演のラストコントが収録されていないというのは、なんとも寂しい話である。

特典映像はライブの幕間映像として流された「エレ片 in 越後湯沢」。スノースクートで競争する三人(+α)のドタバタぶりが収められている。ただ遊んでいるだけのようでいて、きちんとエンターテインメントとして昇華されているところが、実にプロフェッショナルである。ああ、楽し。

■本編【65分】

「あの頃、片桐と…①」「オープニング」「あの頃、片桐と…②」「ブスの才能」「同窓会」「ようこそ先輩」「エンディング」

■特典映像【16分】

エレ片 in 越後湯沢」