白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「そして誰もいなくなった」(2016年11月27日~12月11日)

昨日、昨年11月から12月にかけてBSプレミアムで放送された、『そして誰もいなくなった』を鑑賞した。イギリスのBBCで2015年に製作されたテレビドラマである。原作はエルキュール・ポワロやジェーン・マープルの生みの親として知られる“ミステリーの女王”ことアガサ・クリスティ。彼女の作品は過去に何度かイギリスでドラマ化されているのだが、そのいずれもがとても良い出来だったため、今回の放送も非常に楽しみにしていた。それなのに、どうして年が明けてからの鑑賞に至ったのかというと、うっかり普段は姪がアニメを見るために独占状態になっているリビングのデッキで録画してしまった(生憎、私の自室はBSが映らないのである)からだ。精神的にはまだまだ未熟であると自覚している私だが、小学校に上がる前の子どもからテレビを取り上げ、泣きわめいている姿を横目に次々と人が殺されていくドラマを見るほどには幼稚ではない。しかし、この日は私以外の家族が全員出かけたので、全三回分の一時間ドラマを心置きなく見ることが出来た。ちなみに、原作は未読。

物語の舞台は孤島。島の持ち主であるU・N・オーエン夫婦からの招待状を受けて、年齢も職業も異なる八人の男女が集められた。島では使用人夫婦がお出迎え。しかし、肝心のオーエン夫婦は、まるで姿を見せない。客間にはわらべ歌「兵隊の歌」の歌詞が飾られ、それになぞらえた十体の人形が置かれている。やがて夜が来て、釈然としないまま夕食の時間を迎えることに。すると、その最中、何処からともなく謎の声が聞こえ始める。内容は、屋敷の中にいる十人の男女が、それぞれ過去に犯してしまった殺人を糾弾するもの。オーエン氏の仕業か。声の主を探し出してみると、それは使用人が夕食時に流すようにと指示されていたレコードに吹き込まれたものだった。一体、オーエン夫婦は何を考えているのだろうか。直後、ある人物が、苦悶の表情を浮かべながら卒倒し、そのまま絶命してしまう。病気か、それとも。翌日、更にもう一人、ベッドで亡くなっている姿を発見される。立て続けに二人が亡くなった。これは果たして偶然だろうか。その時、女性教師のヴェラ・クレイソーンが、二つの事実に気が付いた。二人は「兵隊の歌」の歌詞の通りに死んでいること、そして、十体あった筈の人形が八体になっていることに……。

“孤島に取り残された人々が正体不明の殺人者に脅かされる”“わらべ歌の歌詞の通りに殺される”という設定が実に古典的だが(むしろ、そのジャンルの先駆けといえるのかもしれない)、見えない殺人鬼からの魔の手に怯え、お互いがお互いに不信感を抱くようになっていく様子が丁寧に描かれているので、非常に見応えがあった。特に、本編では主人公的な立ち位置になっているヴェラ・クレイソーンが、どのような経緯で人を殺めることになってしまったのかが記憶のフラッシュバックという形式で明かされていく構成は非常に上手いと感じた。この構成が無ければ、あの衝撃的なオチを素直に受け入れることは出来なかったかもしれない。あと、私はどうも海外ドラマというと、外国人の役者の顔を上手に見分けられなくなってしまうことが多いのだが、本編は役者も職業も見事にバラバラで、とても見やすかったのが有り難かった(この辺りは原作そのものによるところが大きいのだろうが)。

鑑賞に三時間近くを費やしただけの価値がある、良いドラマだった。久しぶりに『名探偵ポワロ』をまた観たくなってきたな……。