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土曜深夜の視聴覚室

芸人のDVDを見てなんやかんやいうブログ

「アリーテ姫」(2001年公開)

アリーテ姫 [DVD]

アリーテ姫 [DVD]

 

片渕須直監督による初めての長編アニメーション映画。

城下町で暮らしている職人たちが自らの手で様々な道具を作り出しながら暮らしている姿を見て、「自分の手にもそんな力があるのではないか」と考えていたアリーテ姫。婿となる男性が現れる日が来るまで、塔のてっぺんに閉じ込められることになっていた彼女は、自分自身の人生を捜し求める旅に出ることを心に決める。そんな時、既に滅んでしまった筈の魔法使いの生き残りだという男・ボックスが現れ、こっそりと城から抜け出そうとしていたアリーテ姫を“従順なお姫様”に変えてしまう。本当の心を封印されたまま彼の城の地下牢に幽閉されてしまったアリーテ姫の手元には、子どもの姿をした魔女から受け取った「三つの願い」を叶えてくれる指輪だけ。果たして、姫の運命は。

原作の『アリーテ姫の冒険』は、フェミニズム童話として知られているらしい。確かに、その要素を感じられる場面は少なくない。城の人間たちは、城を抜け出して自らの人生を捜そうとしていたアリーテ姫の言動がまったく理解できない。まだ見ぬアリーテ姫と結婚するために、魔法使いたちがかつて使っていた不思議な道具をかき集めてきた婿候補の男たちは、彼女のことを王になるための足掛かりとしてしか見ていない。なにより、アリーテ姫の心を“従順なお姫様”に閉じ込めてしまったボックスこそ、本作における自由を抑圧する象徴といえるだろう(その様子を見ていた城の人間たちが、彼女の“呪い”は解かれたのだと素直に喜び、国を挙げて盛大に二人のことを夫婦として送り出す描写はなかなかにたまらない)。この窮屈で陰惨な空気感は、『かぐや姫の物語』(高畑勲・2013年公開)と似たものを感じさせられる。

ただ、本作が訴えかけているメッセージは、あくまでも【可能性】である。「人生には意味があると、まだ信じているのかい?」という魔女の言葉に「あたりまえじゃない」と答えてみせるアリーテ姫は、どんなに追い詰められた状況でも、その手に秘められた可能性を信じ続ける。だからこそ、魔の手から逃れることが出来た後も、彼女はボックスの魔法の力と引き換えに食事の世話をさせられているアンプルのために行動する。それは単なる仕返しではない。それは単なる同情ではない。それは単なる恩返しではない。そこに可能性があったから、彼女はそうしたのである。そして、アリーテ姫の行動は、自身の自由をも抑圧していたボックスの心すらも氷解する。新たな可能性が、生まれる。

先日、片渕監督の最新作『この世界の片隅に』(2016年公開)を鑑賞した。平穏な世界が悲痛な戦争に飲み込まれても、それでも、なんでもない人々がなんでもない日常を生きていくことの凄さを描いた映画だった。『アリーテ姫』に心から感動し、いつかリリースされるであろうブルーレイの発売を心待ちにしていたが、待ちきれなくなってDVDを購入してしまった身としては、この映画が評価されることで、『アリーテ姫』に興味を抱く人が増えてくれると大変に嬉しい。