白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「うしろシティ単独ライブ「すばらしく眠い」」(2016年9月14日)

2016年6月から7月にかけて、全国五都市で開催されたライブを収録。

キングオブコント2015」では決勝戦10組中9位、このライブの直後に行われた「キングオブコント2016」では準決勝敗退と、あからさまに右肩下がりな状況にあるうしろシティ。そのため本作にもさほど期待していなかったのだが、これが予想に反して非常に面白かった。

否、そもそもうしろシティというコンビは、常に一定の水準を超えたコントを世に送り出してくれていたのだが、今回はよりその水準が高くなったように感じられた。とりわけ目立ったのは、金子の演技力の向上である。金子はこれまでも様々なコントでヘンテコなキャラクターを演じていたが、それらの多くは、その年齢にそぐわない童顔を武器にした(『転校生』や『太陽』のような学生コントで演じられたような)イノセントな演技に比べて、どうしても見劣りのするものだった。だが、本作で金子が演じているキャラクターは、どれも成熟している。『ジーパン専門店』でジーパンについて熱く語っている店長も、『友達』で阿諏訪と親友になろうとする異様なクラスメートも、『銀行強盗』で強盗を押さえ込むために特殊な方法で阿諏訪と気持ちを一つにしようとする青年も、付け焼き刃などではなく、そういうキャラクターとしてしっかりと演じられている。

無論、コントそのものの完成度も、明らかに向上している。恐らく、「キングオブコント2015」での惨憺たる結果に対して、思うところがあったのだろう。事実、本作では、キングオブコントを意識して作られているように感じたネタが幾つか見受けられた。例えば、オープニングコントの『パーティー』。俳優になった友人の誕生日パーティーに出席した金子が、元プロサッカー選手だという阿諏訪と出会い、「そうなんですか! うわー、スゴいですね!」「いや、全然スゴくないって……」というお決まりのやりとりを展開するのだが、話を聞いていくうちに本当にスゴくないことが分かり始める……というコントだ。「マジでスゴくねぇな!」「その謙遜する感じやめろ!」とキツめのツッコミを入れる金子に対し、まったく堪える様子もなく、延々と謙遜し続ける阿諏訪のやりとりは、キングオブコント王者の東京03やバイきんぐのコントを彷彿とさせるものだった。思うに、彼らなりにキングオブコントという大会を研究して、傾向と対策を思案した結果として生まれたコントなのだろう。

実際に「キングオブコント2016」の予選で披露されたコントも収録されている。『自転車』がそれだ。自転車に乗るための練習をしている阿諏訪少年が思いもよらない事態に遭遇するというコントなのだが……ネタバレするのが勿体無いネタなので、ここで詳細は書かない。ただ、このネタが恐らく「キングオブコント2014」で評価されていた、クレイジーなコントを意識して作られたであろうことだけは、ここに書き留めておく。正直、このコントを観終わった後は、この出来で予選敗退したのか……と驚嘆した。これだけでも見てもらいたい。

ただ、個人的に一番気に入ったのは、『雪山にて』というコント。雪山で遭難しかけていた金子が、なんとか辿り着いた山小屋で手厚く介抱してもらうのだが、その内容がビミョーにオーソドックスから外れていて、違和感がじわじわと募っていく。俺がこのコントを気に入っているのは、どちらも正しいし、どちらも間違っているからだ。介抱してもらっている立場にも関わらず、助けてもらった時の状況を仲間に語ることを想定している金子も間違っているし……山小屋のオーナーである阿諏訪がどのように間違っているのかは、実際にコントを見て確認してもらいたい。とにかく、シンプルなボケとツッコミによるコントも好きだが、この『雪山にて』のように、シチュエーションの工夫でどちらがボケでどちらがツッコミなのか不明瞭に作られているコントが好きなのである。まあ、この系統のコントの最高峰は、キングオブコメディの『出張』なのだが……もう演じられることはないんだなあ、あのコントは……。

これらの本編に加え、特典映像としてライブの幕間映像と、本作で初めて披露される初公開の映像が収録されている。公式サイトの説明によれば、うしろシティがオリジナルゲームで遊ぶ「あそぼう!」が幕間映像で、残る「うんだめし」「おおぐい」が初公開映像らしい。「あそぼう!」はいかにも幕間映像という感じのユルめの企画だったのだが、とあるゲームで金子が話していた「阿諏訪がマネージャーに死ぬほど怒られた」エピソードが尻切れになってしまったことだけが無念でならない。「コンビの思い出」というトークテーマで、キングオブコントよりも金子の中に記憶として残っている「阿諏訪がマネージャーに死ぬほど怒られた」話……一体、何をやらかしたのか……気になる……。「うんだめし」「おおぐい」は屋外ロケ映像。二人ののほほんとしたやりとりがなかなかに面白かったのだが、対決系の企画としては詰めが甘く、二人よりも悪目立ちしていた印象。まあ、そういうテレビにはないヌルさが、また別の意味で面白くもあるのだが。 

■本編【74分】

「パーティー」「ジーパン専門店」「雪山にて」「友達」「音楽」「自転車」「山深い森」「10年後」「銀行強盗」「再会」

 

■特典映像【34分】

「あそぼう!その1」「あそぼう!その2」「あそぼう!その3」「うんだめし」「おおぐい」