白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「かもめんたる第16回単独ライブ 「抜旗根生~ある兄弟の物語~」」(2015年7月15日)

2015年1月に東京・愛知・大阪で開催された単独公演より、東京・新宿シアターモリエールでの公演を収録。

歴代のキングオブコント王者の中でも、かもめんたるほど本質を見出されていないユニットはいない。恐らく、お笑い界隈に詳しい人間であっても、かもめんたるのコントに対するイメージは「陰鬱で不愉快」に留まっていることだろう。事実、それは彼らのコントの本質の一端でもあるから、またややこしい。岩崎う大の演じる不気味なキャラクターと、それに振り回される(一見すると)平平凡凡な槙尾ユウスケのやりとりは、常に陰を背負っている。しかし、芸人の独壇場たる単独ライブにおいて、彼らのコントは通常とはまた違った色彩を放ち始める。コント単体だけを見ると、それはいつものかもめんたるのコントとは変わらない印象を残す。しかし、次から次へと繰り出されていくコントを見ていくうちに、その奥の奥からじわりじわりと光が見えてくる。陰の奥から放たれる、真っ直ぐな一筋の光。そこに俺は、かもめんたるというコント職人の本質を感じるのだ。

本作で演じられているコントも、やはり闇に包まれている。恋人が部屋に忘れていったケータイに男からの着信があったので出てみると、それは彼女がかつて付き合っていた男からの不快な電話だった!『地獄の元カレ』。宝石店の副社長がバンドマンの夫を持つ社員に対して「多分ムリだソイツは」と断言、搦め手からジリジリと追い詰めていく『ドリームクラッシャー』。路上でバルーンアートを披露する準備をしていたピエロのペル新村の前に、かつて彼がコンビニで「いらっしゃませの声がデカすぎる」とムチャクチャなクレームを入れた店員が現れて……『バルーンアーティスト・ペルの受難』(このネタが本作で最もキャッチーだった。あのシーンの画の強さ!)。妻に浮気をされてしまった夢を見てしまったために不安と恐怖に駆られて混乱している夫の言動を、妻が慣れた口調で淡々と受け止める『やん!』。何かが歪んでいるような、何かが崩れているような、アンバランスで不穏だけれど、なんだか笑える不思議な世界が広がっている。

特に気に入ったネタは『正しい顔』だ。会社のオリエンテーションドッジボールに参加することになった男が、仕事終わりに同僚を呼び出して「ドッジボールでぶつけられて外野へ行くときにどんな顔をすればいいのか?」を相談するというコントである。とにかくテーマが狭い。とてつもなく狭い。しかも、大抵の人ならどうでもいいと思っているようなことを、ただただ延々と考え続けている。でも、その自意識の高さからくる自論と考察を聞いているうちに、少しずつ、本当に少しずつ「……分かる!」という気持ちへと傾いていく。この感覚の変化がとても面白い。とあるインタビューによると、このネタは岩崎の実体験をモチーフとしているらしい。だから……と言い切ってしまうのは些か短絡的かもしれないが、他のコントに比べて、妙に真に迫っているように感じられたのかもしれない。

本作のテーマは恐らく「夢」だろう。『地獄の元カレ』でかつての恋人に電話をかけてきた元カレは映画監督になることを夢見ているし、『ドリームクラッシャー』はそもそもタイトルに夢が含まれている。『バルーンアーティスト・ペルの受難』にはピエロという夢を売る存在が登場するし、『やん!』でのやりとりはそもそも夢の中での話が発端となっている。ありとあらゆる夢の形がそこかしこに描かれている。そして、これらのコントを包み込むように、多くの人たちに夢を売る商売・サーカス団を舞台としたコントが収められている。オープニングコントの『トドロキサーカス』と、表題作でもあるラストコント『抜旗根生』だ。

 『トドロキサーカス』は、フリーになったばかりの女性ライターが、初めての仕事としてトドロキサーカスの団長にインタビューをする様子を描いたコントである。団長の肩には、【抜旗根生】という文字のタトゥーが掘られている。その言葉の意味は? 団長には兄がいた。ともにサーカス団に引き取られたが、兄は脱走し、東京へと行ってしまった。その後、何年かに一度は会っていたそうなのだが、先代の葬式の後にも会ったのだが、「もう金輪際会うことはないでしょうね」「あの日、兄貴とは最後のお別れをしたんで」と。一体、兄弟の間に何が? その答えは『抜旗根生』で明らかになる……。

かもめんたるのコントから放たれる一筋の光。それは、一見するとシニカルで、人間のイヤな側面を切り取って誇張した表現を得意とする岩崎う大の胸中で燃え滾っている熱情を思わせる。団長と兄の最後の日を描いた『抜旗根生』もまた、そんな熱を感じさせるコントだった。それがどのようなものなのかは、それぞれの目で確かめてもらいたい。物事をナナメから観察し、笑いに昇華する芸人が多い昨今において、かもめんたるのそれは時代錯誤なほどに誠実で、こっぱずかしいほどに美しい。

そんなかもめんたるの現状だが、どうもあまり芳しいとはいえないらしい。かつて自らが優勝した大会に改めて出場したり、自らのしくじりをバラエティ番組でプレゼンしたり、他の若手芸人たちに混じってテレビのオーディション番組に参加したり、月給四万円という厳しい状況下にあることをテレビショーでなじられたり、本来の彼らの芸風からはとても考えられないような作業をこなしている。『第17回単独ライブ「なのに、ハードボイルド」』(2016年2月~3月)のソフト化の話もまるで聞かない。本来、ライブを活動の拠点としている彼らにとって、客層の拡大と進化の記録につながるソフトこそ最重要なコンテンツである筈なのに。例え、売り上げが芳しくなかったとしても、ライブでメシ食っていくしかないような芸人のソフトは積極的に出していかないといけないということは、先駆者であるラーメンズ東京03を見れば分かることだというのに。

この状況は確かに暗闇かもしれない。だが、彼らは確固たる実力者だ。「キングオブコント2013」で数々の若手芸人たちが支持し、評価したことを忘れてはならない。諦めずに、支え続けていけば、いずれ彼らにもまた光が差し込むかもしれないのである。彼ら自身の舞台がそうであり続けているように。

■本編【96分】

「トドロキサーカス」「地獄の元カレ」「ドリームクラッシャー」「正しい顔」「バルーンアーティスト・ペルの受難」「オヤジミーツオヤジ」「やん!」「抜旗根生」

 

■特典映像【9分】

「槙尾の失敗とその余波」

 

■音声特典

かもめんたる上田誠の仲良しコメンタリー」