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土曜深夜の視聴覚室

芸人のDVDを見てなんやかんやいうブログ

「シソンヌライブ[une]」「シソンヌライブ[deux]」(2016年7月13日)

まったくもって恥ずかしい事実を告白するが、俺が初めて目にしたシソンヌのコントは『キングオブコント2014』決勝で披露された『ラーメン屋』のネタだった。いやー、恥ずかしい。本当に恥ずかしい。こんなにも凄いコント師をそれまで知らなかったなんて、どんだけアンテナが鈍ってんだよって話だ。普段なら「しょうがねえじゃん、地方在住なんだから。都会の連中はとっくの昔の彼らの凄さを知ってたんだろ? はあはあ、羨ましいことでございますやね」なんて田舎コンプレックス丸出しのみっともない反応を示すところだが、これほどまでに凄いコンビを知らなかったことの言い訳にはなり得ない。……って、流石に自虐が過ぎるな。

初っ端から無駄にハードルを上げてしまったが、シソンヌはそれだけの実力があるコンビだと俺は思っている。いや、下手をすると、これまでに俺が見てきた芸人の中で最強なのではないか、という直感めいたものすら抱いている。なにせ、このシソンヌというコンビは、コントが面白いのである。……そりゃ、キングオブコントを制したコンビなんだから当たり前じゃねーか、と思われるかもしれないが、ただ面白いだけではないのだ。シソンヌのコントの面白さには幅がある。

キングオブコント2014』で披露されていた二本のコントだけを見ても、そのことがよく分かるだろう。ラーメン屋にやってきたどうしようもない中年男がギャンブルで負けた自らを戒めるために臭いラーメンを注文する『ラーメン屋』と、男にフラれた女性客を慰めるためにタクシーの運転手が彼女の指示通りに華麗な運転を見せる『タクシー』。どちらもまったく違う手法、違う見せかたのコントなのに、それぞれの完成度が非常に高い。それでいて、演技の幅も広い。『ラーメン屋』で汚いオヤジを演じていたじろうが、『タクシー』では完全に女性になってしまっている。『ラーメン屋』で鋭いツッコミを入れていた長谷川が、『タクシー』ではダンディな運転手になってしまっている。同一人物が演じているのに、まったく違ったキャラクターになり切っている。そんな洗練されたコントを見せているだけでも凄いのに、今の彼らが地方に視野を広げているというのだから、実に恐ろしい。これだけのポテンシャルを持っている上に、地方の泥臭いセンスまで飲み込んでしまったら……その時こそ、彼らは本当の意味で最強のコント師になったといえるだろう。

前置きでアツくなりすぎた。ここからDVDの話をする。

2015年12月23日~26日にかけて赤坂RED/THEATERで開催された公演を収録。2013年12月に行われたライブのリメイク公演である。過去のライブで披露されたコントを再演するライブはたまに見かけるけれど、過去に行われた公演を丸々リメイクしたライブなんて聞いたこともない。こういうことが出来るのも、やっぱり優勝特需なのだろうか。キングオブコント様様だねえ。ただ、コメンタリーによると、およそ半分くらいのコントは新ネタで構成されているらしい。新ネタが見られる嬉しさがある一方で、未熟なネタを完成させる卓越した技術を目の当たりにしたかったという気持ちもあるから、正直ちょっとフクザツだよな。……とはいえ、面白かった!

もうオープニングコントからグーッと引き込まれたね。『姉弟』。仕事から帰ってきた弟に対して、姉が「働きなよ!」と言い続けるだけのコント。……もうね、この設定の不条理さがたまらないよね。弟がどんなに「働いてるよ!」って言っても、まったく聞く耳を持たない。遂には包丁まで持ち出しちゃって、思わず弟も「おかあさーん!」って母親に助けを求めたりして。もう、姉の行動がずっとヤバいのに、それがメチャクチャ面白いんだよねえ。オチもたまらなかった。もう何も分からない。分からないのに面白い。なんだコレ。このコントが上手いのは、弟が何の仕事をしているのか分からないから、ひょっとしたら働いていないのかも……と怪しませるところ。このスレスレのバランス感がたまらないんだよなあ。

この後のコントもハズレなし。病気でしばらく学校を休まなくてはならない教師のクラスを代わりに受け持つことになった体育教師が、その独特の状況を説明されるたびに驚きを隠せない『職員室』。料理は美味しいのにあんまり客が入っていない小料理屋を見かねた常連客が、この店を“名店”にするために様々なアイディアを提供する『名店への道』。毎朝、横断歩道で横断旗を模した竹刀で子どもたちの安全を守っている剣道少女(巨乳)と、彼女に思いを寄せる野球少年の恋の物語を描いた『スポーツ交差点』。高い美容室でオシャレな髪型になった少年が、すぐさま1,000円カットの美容室に入って、その髪型を記憶してもらいたいと美容師に懇願する『町の美容室』。どのコントもベクトルがまったく違うのに、それぞれしっかり面白い! 『ガソリンスタンド』なんか、完全にドリフのコントだったもんな。車がガス欠になってしまった男が飛び込んだガソリンスタンドにいたのは、来たるクリスマスに備えてサンタ帽を被ったおじいちゃんの店員だけ……って、設定だけでも笑えるけど、そこから更に始まるドタバタ劇。これをテレビでやったら、めちゃくちゃウケるんじゃないかなあ。

でも、一番衝撃を受けたのは、『汚し屋』。服を貸し出しているレストランで、普段は出来ない「服をベチャベチャに汚しながら食べる行為」を存分に楽しめるお店の風景を描いたコントなんだけど、とにかく感動した。初めてラーメンズのコントを見たとき以来じゃないかってほどに感動した。……俺がそもそもラーオタだったってことを知らないと、この表現はちょっと分からないかもしれないけど。これについてはネタバレを控えるので、とにかく見てもらいたい。始まりから終わりまでの流れにまったく無駄がない。テーマとしては一貫しているのに、不思議なドラマを見ているような展開になっていく。時間の使い方、小道具の使い方、演出、全てが素晴らしい。あと、言っておきたいのは、YouTubeで見ることのできる『汚し屋』とは違うバージョンだということ。本作に収録されているバージョンは、あそこから更に続きがある。それがどんな内容なのか、買うなり借りるなりして、その眼でしかと確認してもらいたい。

■本編【94分】

「姉弟」「職員室」「立てこもり」「名店への道」「ガソリンスタンド」「汚し屋」「スポーツ交差点」「町の美容室」

 

■特典映像【23分】

「シソンヌライブ[monochrome]」厳選コント

「タバコやめたら」「ペットショップ」

 

■特典音声

「シソンヌライブ[une]」オーディオコメンタリー

2015年12月28日~30日にかけて赤坂RED/THEATERで開催された公演を収録。こちらは2014年8月に行われたライブのリメイク公演である。『キングオブコント2014』の予選が行われている時期の公演で、同大会の決勝戦で披露された『ラーメン屋』『タクシー』もそれぞれ再演されている。『タクシー』は元のバージョンと大して変わっていなかったけれど、『ラーメン屋』は中年がパチンコについて熱く語るくだりが物凄く引き伸ばされていて、それでちょっと笑ってしまった。「どんだけ語るんだよ」と。東京03のコントで、角田がキャバクラについて熱く語りたいがために作られたネタがあるんだけれど(『第12回東京03単独ライブ「燥ぐ、驕る、暴く。」』に収録されている『家族会議』)、それを思い出したな。これも、じろうが語りたいだけだ。たぶん。

こういうライブって、どうしても賞レースで披露されたネタが悪目立ちしてしまうイメージがあるんだけど、これは流石というべきなのか、他のネタもくまなく面白かった。もうすぐ生まれてくる子どもを七月七日生まれにするために、前日の七月六日に生まれないように我慢している妻の奮闘を描いたオープニングコント『7の子』。バイト先で様々なことを積極的に提案している美大生に対して、違和感と苛立ちが少しずつ募っていく『発信源、彼』。厳しい女教師の説教から逃れるために、同じ学校に通っている彼女の娘から電話をするように仕向けて、母親の顔になっているところで説教を受けようと目論む『お母さん先生』。『シソンヌライブ[une]』と比べて、全体的にコント観がフクザツになっている印象を受けた。

でも、一番笑ったのは『インドカレー』。インド料理のお店に居座る客と早く帰りたいインド人店主のコント。普通、こういう場合、インド人の方がボケで客の方がツッコミになりがちなのに、あえて関係性を逆にしてしまう絶妙さ。普段はボケを演じることが多いじろうがツッコミで、普段はツッコミを演じることが多い長谷川がボケになっているのも珍しい。これはYouTubeでフルで見られるので、興味がある方は是非。あ、あと『初泊まり』が収録されていたのが、かなり嬉しかった。友達の家に泊まりに行ったら、何故か部屋にヘビが出るというコントで、『爆笑問題の検索ちゃんネタ祭り』で披露されているのを見てメチャクチャ笑ったんだよねえ。

ただ、笑える笑えないとかじゃなしに、もうこれはヤバい……と思ったのは、最後のコント『別れ』。具体的にどういうコントなのかはあえて書かないけれど、ちょっと個人的にクるものがあって。なんというか、凄く共感しちゃったんだよね。あの状況になると、もう気持ちが完全に追い詰められて、あんな風にならないと心がブッ飛んでしまう感じが凄く理解できて。はっきり言っちゃうと、泣いた。泣きました。あんなん泣くだろ、そりゃ。あんなに笑えるコントを作れるのに、一方で、こんなに心動かすコントを作ることが出来る……これもまた、幅の広さ。

■本編【98分】

「7の子」「初泊まり」「発信源、彼」「お母さん先生」「ラーメン屋」「タクシー」「インドカレー」「不倫関係」「別れ」「帰り路」

 

■特典映像【17分】

「シソンヌライブ[une]/[deux]メイキング」

 

■特典音声

「シソンヌライブ[deux]」オーディオコメンタリー

なお、シソンヌは先日「シソンヌライブ[cinq]」を終えたばかりだが、既に来年4月に「シソンヌライブ[six]」の開催を予定している。また、それとは別に、全国四十七都道府県を巡る低予算ライブツアー「シソンヌライブ[monochrome]」を敢行している。もっと、もっと高く、どこまでも高く、彼らは跳べる。着地するには、まだ早い。