白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「スーパー・ササダンゴ・マシンによるコミュ障サラリーマンのためのプレゼン講座」(2016年4月6日)

“新潟からやってきたコミュ障覆面レスラー”ことスーパー・ササダンゴ・マシンによるプレゼン術を映像化した作品である。タイトルには「プレゼン講座」と書かれているが、スーパー・ササダンゴ・マシンがプレゼンの方法について指南してくれるわけではない。彼が様々な相手に企画をプレゼンしている姿を、隣で撮影しているだけのロケーション作品である。とはいえ、そのプロセスについて、本編では分かりやすく説明されており、結果として、本作を鑑賞すればプレゼンの手法を学べるように出来ている。

当然のことながら、きちんとした経歴のある企業家ではなく、普段は実家の金型工場で専務取締役として勤務しているという謎の覆面レスラーによるプレゼンなので、その内容はとにかく型破り。週刊プロレスの編集部では、雑誌の発行部数を飛躍的に伸ばす方法として「プロレスの新団体「新週刊プロレス」の旗揚げ」などを企画、名物編集長として知られる佐藤正行を唸らせる。ケンタッキー・フライド・チキンでは、レスラーに必要なタンパク質をより大量に摂取できる新メニューを提案し、KFC広報部の面々の度肝を抜く。焼肉牛坊に至っては、コミュ障という孤独な生き方をせざるを得ない人たちに対して、自分の中に作り上げたもう一人の自分にプレゼンを行う「独りプレゼンテーション」を推奨、某孤独のグルメの某井之頭五郎のような食事を展開している。

どれもこれも、通常のプレゼン指南書ではありえない、突飛でバカバカしい企画ばかりである。しかし、企画内容を発表するまでのプロセスがとことん丁寧に作り込まれているため、どんなに有り得ない提案でも、ある種の説得力がある。この点が、実に興味深い。内容がどれほどハチャメチャであっても、プレゼン能力があればどうにでもなるということを、まざまざと思い知らされるわけである。その必要性が真摯に伝わってくるという点において、本作は一般的なプレゼン指南書よりも優れているといえるのかもしれない。プロレスラーのDVDだからという理由で距離を置いている人に是が非でもオススメしたい、笑って学べる素晴らしい作品である。

ただ、一点だけ、スーパー・ササダンゴ・マシンが普段のプロレス興行でどのようなプレゼンを行ってきたのか、本作ではほとんど触れられていないことが残念でならない。一般層に受け入れてもらうために、なるべくプロレス臭を抜いておこうという魂胆だったのかもしれないが、完全にカットされてしまうと、それはそれで寂しいものだ。せめて、特典映像として、ほんの十数分でもいいから、その模様を挟み込めなかったのだろうか。YouTubeで「煽りパワーポイント」などの映像を確認することが出来るが、こういうスーパー・ササダンゴ・マシンの本質的な要素を盛り込められていれば、本作は完璧だった。いや、惜しい。実に惜しい。

それにしてもスーパー・ササダンゴ・マシン、いったい誰ッスル坂井なんだ……。 

■本編【81分】

「1.VS プロレス専門誌「発行部数を飛躍的に伸ばす方法」」

「2.VS 世界的飲食企業「より幸せな企業にするための新メニュー」」

「3.VS コミュ障な自分「一人で焼き肉をおいしく食べる方法」」