白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「しゃもじ「ダンチングヒーロー」」(2016年6月22日)

ダンチングヒーロー [DVD]

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若手芸人のネタは好きなのに、若手芸人がメインを張っているバラエティ番組が苦手というややこしい性分である。どうも、番組全体から漂う「この番組をヒットさせてやる」という熱意に、気持ちが引いてしまうのだ。そのため、「めちゃイケ」だとか、「はねトび」だとか、「10カラット」だとか、「ピカルの定理」だとかいうような、同世代のお笑いファンなら間違いなく見ているような番組を見逃してしまっていることも少なくない。「ふくらむスクラム!!」もそんな番組の一つだった。かまいたち、ニッチェ、ヒカリゴケ、少年少女など、割と好みの芸人が出演していたにも関わらず、一度として見たことがない。それ故に、私が同番組にレギュラーとして出演していたしゃもじの存在を知ったのも、ここ最近のことだった。

しゃもじは、“たーにー”こと砂川尚吾と、“しゅうごパーク”こと金城秀吾によって2003年に結成されたお笑いコンビだ。二人は沖縄県那覇市出身で、当初は沖縄の芸能事務所「オリジン」に身を寄せていたが、その後、「ヴィジョンファクトリー」を経て、現在は「マセキ芸能社」に所属している。2009年3月にオーディション番組「新しい波16」に出演、同年4月に放送を開始したバラエティ番組「ふくらむスクラム!!」のレギュラーに選抜される。番組は同年10月に前田敦子AKB48)と小森純を新レギュラーに迎えて「1ばんスクラム!!」にリニューアルされるが、翌年3月に終了。「めちゃイケ」「はねトび」に続くバラエティ番組として満を持して放送を開始したにも関わらず、なんともあっけない幕引きだった。本作は、そんなしゃもじのネタを彼ら自身が選出、収録したベストセレクションである。

ふくらむスクラム!!」に出演していた頃の彼らは漫才を演じていたらしいが、本作に収録されているネタの大半はコントである。合コンで披露しようと考えているちょっとしたエピソードトークがマスターのさりげないアドバイスによってどんどん改良されていく『BAR』、頭痛で悩んでいる友人に家に伝わるという怪しげな秘伝の薬を手渡そうとする『良薬は口に苦し』、一年生が二年生にカツアゲされている現場を目撃した三年生の先輩が助けに入るも色んなところが弱くてどうにもならない『カツアゲ』など、そつなく笑いを取るコントが楽しめる。ネタの完成度は高いのに、二人の沖縄訛りがいい感じに気持ちを脱力させる。このバランス感の良さがたまらない。バリエーションも豊富で、シンプルなシチュエーションコント『旅行会社』もあれば、幽霊が登場するときの音をモチーフとした音ネタ『ひゅーどろどろ』もある。それで唯一の漫才ネタである『聞き間違い』も素晴らしいクオリティなのだから、いよいよたまらない。しゅうごパークが話している言葉をたーにーが延々と聞き間違えるというシンプルな設定なのに、伏線の密度がなかなかにとんでもなかった。これは必見。

しかし、本作の本当の見どころ(もとい「聞きどころ」)は、「しゃもじによるネタ解説コメンタリー」だ。若手芸人の副音声コメンタリーといえば、ネタとは関係無いエピソードトークに発展しがちだが、彼らははっきりと「俺らの雑談を聞きたい人なんていないでしょ」と自己分析した上で、「一ネタにつきネタにまつわる秘話を盛り込む」ことを意識してコメンタリーに臨んでいる。そのため、それぞれのネタでのコメンタリーが、本当に素直に面白い。正直、スタジオ収録で、明らかに後から付け足された笑い声が聞こえてきたときには内容に不安を覚えたが、頭からつま先まで密度の高い良作だった。

■本編【50分】

「成長」「旅行会社」「栄冠は君に輝く」「聞き間違い」「ひゅーどろどろ」「カツアゲ」「良薬は口に苦し」「パパ」「BAR」「死にきれんぞ」

 

■音声特典

「しゃもじによるネタ解説コメンタリー」