白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「笑点 50周年記念スペシャル」オープニングアニメ・解説

以前、『笑点』のオープニングアニメを解説したことがあった。

当時のブログでは、落語を取り扱った記事はリアクションが集まりにくい傾向にあったのだが、この記事はなかなか良い反応を頂いた記憶がある。流石は国民的バラエティ番組『笑点』といったところだろうか。

そして今回、歌丸師匠が司会を引退するということでも話題になった「笑点 50周年記念スペシャル」のオープニングが、これまでのものとは違う新作映像だったので、これを解説しておこうというのがこの記事の目的である。

まあ、こまっちょろい話は置いといて、とっとと始めよう。以下、敬称略。

まずは桂歌丸の映像から。殿様に扮した歌丸が、庭の桜の木に気を取られている間に、お膳の上の鯛が引っ繰り返されている。これは殿様噺のマクラでよく語られている小噺『桜鯛』からきている。その内容は、ある時、お膳の鯛を普段は一口しか召し上がらない殿様が、お代わりを所望したため、殿様の気をそらしているうちに片面しか食べられていない鯛を引っ繰り返して、お代わりということにしてしまう……というもの。……ここで文章で説明しても、この面白さが完全には伝わらないと思うので、気になる人は音源を当たってもらいたい。個人的には『目黒の秋刀魚』でこのマクラを聴くイメージがある。

続いて、林家木久扇丹下左膳多羅尾伴内に扮している木久扇の姿が映し出されている。左膳や多羅尾が登場する古典落語は存在しないので、私は音源を聴いたことがないが、恐らくは氏の新作落語『昭和芸能史』をモチーフとしているのだろう。三遊亭好楽の映像は、女に化けた狐が大量の酒を飲んでいる姿から察するに、狐が女に化けたところを見てしまった男が狐を利用してタダ酒を食らおうとする『王子の狐』が元になっている。三遊亭小遊三の映像は、“への三十六番”という番号札とお灸にもだえる小遊三から『強情灸』だろう。文字通り、強情な男がお灸にもだえ苦しむ演目である。三遊亭圓楽は「十円で食える方法」「釜なくして飯を炊く方法」などの文章が並んでいる所から『秘伝書』であると思われる。これらの方法が書かれた秘伝書を夜店で手に入れた男の噺である。個人的には、先代馬風の『夜店風景』とした口演が大好きだ。

春風亭昇太は分かりやすい。頭から突き出したコブがフッと消えてしまう。これは寿限無のオチそのものだ。ちなみに、画面右側に描かれている、天から降りてきた何かが岩の上に乗って、再び飛び立ってしまう映像は、寿限無の名前の「五劫のすりきれ」からきている。意味を説明するのは面倒臭いので、各自で調べてね。林家たい平『二十四孝』。冬場に「鯉を食べたい」という母親のために、氷の張った沼に出かけて、体温で氷を解かし、鯉を捕まえようとしているシーンである。……いわゆる孝行をしている場面なのだが、氷の上で裸になってくるくる回転しているたい平の姿は、なにやら一時期のオールスター感謝祭の終盤で開催されていたローションす(以下略)。ネズミを片手にした丁稚の姿をしている山田隆夫『藪入り』から。このシチュエーションを説明するとネタバレになってしまうので、諸々の理由は実際の音源で確かめてほしい。

残りはスタッフロールのアニメーション。拝んでいる白犬が満願で人間になるのは、人間になりたいと願った犬が本当に人間になってしまう『元犬』。鰻に逃げられたうなぎ屋と、うなぎ屋の店先で匂いを肴に酒を飲んでいる男の姿は恐らく『素人鰻』(鰻を上手くつかめない男がぬるぬる逃げる鰻を捕まえようと前へ前へと駆けだしてしまう)と『しわい屋』(うなぎ屋の蒲焼の匂いでご飯を食べていた男が嗅ぎ代を請求される小噺がある)の掛け合わせ。ただ、なんとなくしっくりこないので、ひょっとしたら他の演目からきているのかもしれない。雨の降る中で囲碁を始める男たちは『笠碁』。ネズミが火の用心と声をあげているのは『鼠穴』。酔っ払いが小僧に「口上(くちうえ)」を注文しているのは『居酒屋』。壁にかけられたお品書きを読み間違えるくだりである。

以下、まとめ。

歌丸「桜鯛」
木久扇「昭和芸能史」
好楽「王子の狐」
小遊三「強情灸」
圓楽「秘伝書」
昇太「寿限無
たい平「二十四孝」
山田隆夫「藪入り」

 

「元犬」「素人鰻+しわい屋」「笠碁」「ねずみ穴」「居酒屋」

せっかくなので、気になる落語があれば、聴いてみればいいのではないだろうか。