白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「R-1ぐらんぷり2016」(2016年3月6日)

【Aブロック】

「めっちゃアツすぎてめっちゃ鬱陶しい音楽プロデューサー」。エハラが得意とするウザい人間の形態模写と『ドラえもんのうた』の歌詞の内容を取り入れた音ネタの二重構造によるコント。いちいち「ハーブやろ!」とアウトローなワードが出てくるところや、「空を自由に飛びたいな~」のくだりから「はい、タケコプター!」への流れは本当に笑えた。ただ、全体を通してみると、形態模写を見せたいのか、音ネタがやりたいのか、やや不明瞭。正直、軸が定まっていないように見えた。音楽とコントを融合したネタで知られるピン芸人・福田哲平のように歌詞の内容とがっぷり四つに組み合っていたら、もうちょっと良い印象が残ったのでは。

 

  • 小島よしお

「よしお三兄弟」。二体の小島よしお人形を引き連れて、三人の小島よしおによるショートコントからの「そんなの関係ねぇ!」。二体の人形を引き連れていることを存分に利用したシンプルでバカバカしいショートコントから、二体の人形に関わるボヤキにまみれた「そんなの関係ねぇ!」へと至るまでの流れがとてもスムーズ。ただただ楽しい表舞台を見せられた後で、面倒臭い実情を漏らした楽屋裏を見せられているような気分だ。とはいえ、それは決して悪いことではなく、むしろ、それらが全て「そんなの関係ねぇ!」の一言でスパッと切り捨てられる痛快さの方が大きい。そういえば、「そんなの関係ねぇ!」って、そういうところが評価されたパフォーマンスだったよな。テレビで見ているだけでもそれなりに面白かったが、スタジオで見ていたらもっと面白かったのだろう。

 

食物連鎖」。様々な食物連鎖の様子を巨大なフリップで解説する。もう最初のセリフで完全に心を奪われてしまった。「皆さ~ん。ブーツがズボンを、ズボンがセーターを、セーターが私を食べています。これが、食物連鎖です」。これから始まるネタがどういうものなのかを表すと同時に、何処か不気味で不穏な印象を与える説明だ。そして、その予感の通りに、不気味で不穏なネタが始まるのだから、たまらない。客に媚びないタッチで描かれた不可解な生き物たちのユーモラスな生態。笑いが起こる要素を散りばめているのに、それを危うい雰囲気があっさりと凌駕してしまう凄まじさ。なんだこれは。なんなんだこれは。最後の最後に見せつけた悪ふざけに至るまで、面白い・面白くないを超越した、何か凄いモノを見させられたような気がした。

 

「心理イェイ」。イェイを口にするであろう状況を的中させる心理テスト。勢い任せでバカバカしいことをやっているようで、随所に練り上げられたボケを盛り込んでいるバランス感がとても好き。カメに首を噛まれて「タートルネーック!」、大きなニキビを水着にして「ニキビキニ!」と一言で断絶してしまえる言葉遊びの上手さ。また、「あなたは池崎です!」「斧を選んだ、手を挙げていない残りの全ての人たち!」「俺の乳首がハリウッド……なんでもない!」など、さらりと的確に笑いを取ることの出来る技術を駆使している。正直、初見時にはここがAブロックを通過すると思っていた。いやー、残念。面白かった。

 

【Bブロック】

ハリウッドザコシショウのものまね大連発」。ここはちょっと真面目に解説しようか。そもそも、近年におけるものまね芸が、ただ単純に対象を模写するだけに留まらず、新たな要素を加えることで(例えば「もしも森進一がバイクだったら」のように)、対象とはまったくかけ離れているようでいて、しかし対象にしか見えない表現を取っている状況にあることは言うまでもないだろう。で、ザコシショウのそれは、一見すると完全に対象とはベツモノであるように思える。しかし、その僅かなところに、確かに対象の存在が感じられるのだ。キンタロー。キンタロー。のようであり(キンタロー。がモノマネしている前田敦子を出さないところが重要)、オリラジ藤森はオリラジ藤森のようであり、誇張しすぎたザキヤマザキヤマのようなのである。その首の皮一枚のつながりがあるため、それ以外の脚色のムチャクチャさが笑いになるのだ。キンタロー。のものまねをするときに、何故か横からのラインも見せようとする姿が笑えるのだ。無論、誰にでも出来ることではない。ザコシショウ独自の表現力だからこそ出来ることだ。「ホラーの音」の表情の変化を見よ!

 

  • おいでやす小田

「コンビニの面接」。コンビニのバイト志願者に対応する店長を驚愕の事実が次々に襲う。「○○みたいやなあ」「○○するわけじゃあるまいし」など、ちょっとした軽口が全て的中してしまうコント。安直な言い回しになってしまうが、きっちりと作り込み過ぎていて意外性に欠ける。いや、そもそも「意外性」がテーマのネタではあるんだけれども。こういう未知の相手の素性を掘り下げていく手法のネタは、インパルスの『町工場の面接』とか、バイきんぐの『帰省』とか、コンビでもっと凄い展開を見せているコントが既に存在しているので、ピン芸という表現に限りがあるスタイルとはいえ、ここに留まってしまっているのは残念。せめて、バイト志願者の人間臭い部分が露呈するような場面があれば、もうちょっと良い味わいが出たのではないかと。あと、どうでもいいことだけど、こういうストロングスタイルのコントをやるのに芸名がちょっとゆるすぎないか。

 

「しあわせ」。彼氏がプロポーズするであろうことに気付いてしまった女性が、そのサプライズを成功させるために舞い上がっている気持ちを抑え続ける。勝手な想像で幸せな気持ちになってしまって、異常なほどに舞い上がっている女性の鬱陶しさと微笑ましさを同居させたコント。誰に迷惑をかけているというわけでもないのに、随所で漏れる表情の喧しさがとてつもなくウザったい。なんだ、あの顔。これまで、横澤の一人コントを見るたびに、友近柳原可奈子の存在が頭に過ぎっていたが、あの顔は彼女たちには出せない。決して美人とはいえないが、ブサイクというには躊躇させられる顔を持つ横澤にしか出せない。とはいえ、基礎だけで成立するものではない。照明が落とされたときの表情、とうとう笑いがこらえきれなくなってしまったときの表情は、たまらないものがあった。安直に不幸にならないオチも良い。

 

「学級会」。水泳の授業中に男子がやっていた「キャンタマンクラッカー」が学級会の課題に。真面目なトーンで小学生男子がやっていた下ネタについて力説するというツカミから、その行為を高く評価するという大逆転への展開がとにかく素晴らしい。サプライズとしてまったく無駄がない。それでいて、きちんとある種の説得力がある。非常識なことを言っているのに、「身ぃ削ってるだろー?」だの、「そのお前の嫌悪感を、バカバカしさが超えてくるだろ?」だの、なんだか妙に納得させられてしまう。それだけ彼の行為を受け入れる態勢が整っているのに、男子がキャンタマンクラッカーを自粛しなくてはならない理由が「女子に嫌われたくない」という行為そのものを否定するものではないところに落ち着いているのも嬉しい。定期的にブチこまれる「いいか? こういうヤツが……」も確実にウケていた。正直、ところどころでバイきんぐ・小峠のツッコミを思い出してしまったが(「お前、原点にして頂点じゃねーか!」の言い回しとか)、はっきり別のネタを見たいと思わせられた。いやー、面白かった……。

 

【Cブロック】

「ことわざ」。日本語を勉強中のジェイソンが、ことわざに対する違和感について喋る。ネタの内容は安直なことわざイジり。「蛙の子は蛙」「七転び八起き」「虎穴に入らざれば虎子を得ず」などのことわざを、割と子ども向けのギャグ漫画で軽くイジられているような角度から解体している。そういう意味では、彼の出自である漢字ネタから、まったく成長していない。ただ、丁寧なフリと抑揚のついた喋りのおかげで、オチが分かっているのについつい笑ってしまう。いや、もうちょっと厳密にいえば、演出が上手いのだろう。「蛙の子は蛙」のくだりの「アーハン!」、「七転び八起き」の「……起き上がる」など、いちいち見せ方が面白い。実に恐ろしい。以前、「厚切りジェイソンは寄席芸人に向いている」と書いたが、その認識をより強くさせるパフォーマンスだった。

 

「落ち着いていきや」。軽快な音楽に合わせたダンスパフォーマンスとともに、普段の生活でテンパることがあったときにどうすればいいかアドバイスする。見た目のインパクトといい、一つ一つのネタが独立している構成といい、なんだか往年の『エンタの神様』を思い出してしまった。ネタの内容はそれなり。テンパってしまいがちな状況で取るべき適切な対応について、とても端的に述べている。それなのに、やたらめったらに面白いと感じてしまうのは、ネタの間に挟み込まれるみょうちくりんなダンスと、やや誇張された関西訛りのせいだろうか。「財布を何処かに落としてきたかもしらへん」の「しれへん」じゃなくて「しらへん」にしているところとか、なんだか妙に面白い。その流れから、急に「ごまかしー!!!」のような粗いアドバイスを投げ込んでくるところも、また面白い。ここもナマで見た方が、より面白く感じられるかもしらへん。

 

高校野球講座」。高校野球の強豪校の独特な声の出し方や発音を学ぶ。ネタそのものはしっかりと練り上げられている。おにぎりのおかか、イタチを経て、明らかにそうとは聞こえない「雨?」、文字数と合っていない「わざとだろ」へと展開していく手堅い流れに、芸歴の長さを感じた。ただ、根本的な問題として、安村の高校球児の言い回しに魅力を感じない。音としての面白味に欠けている。だから、台本の面白さばかりが先行して、肝心の「強豪校の独特な声の出しかたや発音」がまったく響いてこない。安村自身は張りのある気持ちの良い声をしているので(「安心してください、履いてますよ」のネタが話題になった大きな要因の一つに、彼の声の良さは絶対にある)、結果としてそれを封印してしまったことは非常に勿体無いと思う。

 

  • マツモトクラブ(復活ステージ1位)

「父との再会」。電車で向かいに座っている自分と同じTシャツを着ているおじさんは、かつて離れ離れになった実の父親だった。突然の再会に、それまで想定していた様々なシチュエーションでの「父との再会」がフラッシュバックする。基本的には「父との再会」をテーマにした大喜利。特に驚くようなものはない。全体の構成も極めてベーシック。オチも想定の範囲内。それでも妙に満足感が残るのは、根本にドラマとして愚直なほどの温かさがあるからだろう。あと、改めて、マツモトクラブという芸人の手法の魅力について考えさせられた。思うに、マツモトクラブは、物語の主役ではなく脇役を演じるために、装置を利用しているのである。それによって生じる、ネタとマツモトクラブとの距離感が、なんともいえず愛おしいのだ。審査内容次第では、ここが最終決戦に進出していたのではないか。

 

【ファイナルステージ】

 

小島よしおは一本目と同じパターン。最後の最後で大きい動きを加えてきたので、観覧席で見ていた人には迫力が伝わったかもしれないが、テレビ越しだと少し厳しい。

 

ハリウッドザコシショウも一本目と同じ。ただ、内容はより濃いめ。例えば、「誇張しすぎた木村拓哉」のフリとなる「普通の木村拓哉」が既に誇張されていて、「誇張しすぎた木村拓哉」はその上を行く。その流れを踏まえて、「誇張しすぎたジャパネットたかた」ではネタの仕組みそのものをズラしてしまう。このさりげない作為が絶妙だ。そんなわけで、ネタそのものも大変に面白かったのだが、「古畑任三郎」というタイトルだけで歓声を上げてしまう観客もなんだか面白かった。どんな客だ。

 

ゆりやんレトリィバァは一本目のネタで使用した楽曲を再利用して、上司の言動を全て強引にセクハラへと繋げてしまうOLの思考を歌い上げた。少し前に、アニメのキャラクターが持っている楽器を「男根のメタファー」と言った人物のことが話題となったが、いわばそういった人たちの考え方を「風が吹けば桶屋が儲かる」的に茶化しているネタといえるのかもしれない。ただ、一本目のネタにおいて、ゆりやんがこの楽曲に合わせて(見た目にはフザケていたものの)割と正しいことを言っていた記憶が強く残ってしまっているため、見る側としては少し意識を切り替えにくい感じになっていたような。楽曲が違えば、もっとウケていたかも。とはいえ、OLコントで始まるように見せかけて、あの楽曲が流れるというサプライズを捨てるのは勿体無いか……。

 

【総評】

ハリウッドザコシショウの優勝は納得。ガツンとやられた。不満の声をあげる人も少なくないようだが、“時の運”ということで納得してもらいたい。あと、別に優勝したからといって、なにか特需があるわけではないので(中山功太三浦マイルドの現状を見よ!)、「ヤラセ」とか言わない方がいい。もとい、年に一度のペースで三組のチャンピオン(M-1、R-1、KOCのこと)が産み落とされている今、わざわざ「ヤラセ」を行うほどの価値は賞レースにない。

 

とはいえ、敗者復活枠に関しては、全体的にもうちょっと評価されても良かったように思う。サンシャイン池崎ルシファー吉岡、マツモトクラブ、いずれも非常に面白かった(よくよく見ると似たような名前の人ばっかりだ)。偉そうな言い方になってしまうが、見直したのはシャンプーハットこいで、横澤夏子厚切りジェイソン。こいでの不快で不気味なのに面白い世界観、横澤の表情の強さ、厚切りの構成力、とても感心させられた。逆に、エハラマサヒロとにかく明るい安村は、ちょっと守りに入り過ぎていたような。悪くはなかったが、残念。

 

では、来年も一つよしなに。