白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「TKO ゴールデン劇場5」(2016年1月27日)

TKOゴールデン劇場5 [DVD]

TKOゴールデン劇場5 [DVD]

 

2015年8月1日・2日に東京・シアターモリエールで開催され、9月22日には大阪・道頓堀角座で追加公演が行われた単独ライブを収録。

TKOの単独ライブを収録したDVDを鑑賞するのは今回が初めて。日本一のコントを決める賞レース『キングオブコント』で何度も決勝進出を果たしている彼らのことを、どうして今までスルーし続けてきたのか。その理由は、彼らがバラエティ番組などで披露しているトークから滲み出てくる思想が、なんとも姑息でみみっちいように感じられたからだ。木本の説教癖に関するエピソードが、どうにもこうにも……。とはいえ、そんな芸の本質とはかけ離れた理由で食わず嫌いをしたままでいるのもどうかと思い、三年ぶりの単独ライブを収録しているという本作に手を出してみた次第である。

収録されているコントは全七本。マッサージを受けにやってきた男が、逆にマッサージ師の身体をほぐすことになってしまう『マッサージ』、ファミレスのお客様センターにかかっきた電話の向こうから聞こえてくるのは凄味のある男の声だったが……『クレーマー』、うっかり赤信号で発進して少年を轢いてしまった野球選手がそれをネタに強請られる『野球選手と少年』など、シンプルな構図のネタが多め。スキマ産業的に先鋭的なネタがあっちこっちで創作されている今という時代において、TKOのコントはまるで過去からタイムスリップしてきたかのようにベーシックで古臭い。しかし、それなのに、何故だか妙に笑えるから不思議だ。思うに、その根本的なところに、普遍的な笑いの血脈が流れているのだろう。

その中でも『#娘さんをください』には笑った。彼女の父親(木下)に「娘さんを僕にください」と頼み込んで無事に了承を得た数日後、再び彼女の実家を訪れた青年(木本)が、彼女の父親に「本当は反対されているのではないか?」と確認にやってくるコントだ。当初は、ゴルフクラブを磨きながら、近いうちに義理の息子となる青年の話を落ち着いて聞いていた彼女の父親だったが、彼が「気になるものを見つけてしまった」という話を切り出すと、途端に顔色を変え、挙動不審になっていく。その理由とは……。これもまた、先に挙げたコントと同様に、シンプルな構図のネタではあるのだが、木下の演技がとにかく秀逸で、だからこそ少しずつ明らかになっていく真実の軽さがとてつもなく面白かった。「ふぁぼってるよ!」は、もっとウケても良かったような……。聞くところによると、彼らはこのネタで『キングオブコント2015』に挑んだらしい。その決断も納得の魅力溢れるコントだった。

あと、まったく仕事をしない叔父さん(木下)と甥っ子(木本)のアホなやりとりを描いた『叔父と甥』、沢山の有名人のサインが飾られているトンカツ屋にやってきたレポーター(木下)が撮影後にサインを書こうかとご主人(木本)に申し出るも断られる『サイン』が印象的。ご主人がサインを断る理由のガチンコぶりが、色々な意味でたまらなかった。後半の木下の暴走ぶりが目立つけれど、木本の良くも悪くも真面目で神経質な性格がけっこう反映されているような……。

とはいえ、3,800円(税抜き)という価格設定にしては、ちょっとボリューム不足の感が強い。当初はコント8本に幕間映像を収録する予定だったらしいので、諸々の事情でそれらがカットされるも、値段はそのままになってしまったのだろう。大阪公演では人形ネタやモロゾフ後藤のネタも披露されたらしい。それを特典映像あたりになんとか滑り込ませられなかったものか……。コントそのものの質は高いだけに、なんとも勿体無い。 

■本編【70分】

「叔父と甥」「マッサージ」「クレーマー」「#娘さんをください」「野球選手と少年」「サイン」「同窓会」

 

■特典映像【5分】

「ライブ当日風景」